2017.06.06

【連載】“破天荒Bリーガー”川村卓也の「意趣タク逸」Vol.04 Bリーグ初年度を振り返る

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日本人初となる高卒のトップリーグ選手で、リンク栃木ブレックス(現栃木ブレックス)時代には3度の得点王に輝き“オフェンスマシーン”の異名を取る。2005年、10代で日本代表に初選出され、以降日の丸を背負って長年活躍。バスケット界に身を捧げてきた川村卓也とはいったいどんな男なのか。直言居士な彼の言葉からすべてを解き明かしていく。連載第4回目は、昨年9月に開幕し5月に閉幕したBリーグ初年度について。川村にとってのベストゲーム、ベストプレー、ビーコルMVP、さらには裏話まで、初めて尽くしで「すごく楽しかった」シーズンを振り返ってもらった。
※Vol.04に予定していた「バッシュを語る」は、次回Vol.05に変更となりました。

インタビュー=安田勇斗
写真=Bリーグ

――Bリーグ初年度を振り返って、どんなシーズンでしたか?
川村 新しいチームに来て、いろいろなことを初めて経験しました。これまで4回移籍していろいろな環境を見てきたつもりでしたけど、なかなかハードで大変でしたね。シーズン前の蒲谷(正之)さんのケガから始まり、以降も何人もの選手がケガで離脱して本当にしんどかったです。チームスポーツなのでケガ人が出るとダメージは大きいですし、今シーズンはケガ人の影響で歯車がかみ合わなかった部分もあったかなと。ヘッドコーチも途中で替わりましたし、本当にいろいろなことが起きたシーズンでした。

――「ハード」と感じた点は?
川村 練習場に冷暖房の設備がないこともそうですし、ホームアリーナ(横浜国際プール)がスポーツコートだったことも不慣れで大変でした。チームで言えばメンバーの半数以上が入れ替わりましたし、ジェイソン(ウォッシュバーン)が開幕ギリギリの参加となったこともチームを作りあげていく上で大変でした。

――長いシーズンを戦っていく中で、チームとして成長できたところは?
川村 シーズン終盤に掛けて、自分たちがやるべきことを徹底できるようになったことです。開幕間もない頃は、ケガを言い訳にしたリ、ケガでフラストレーションを抱えてうまくいかない部分も多かったんですけど、最後の方はケガ人が出た時に、それをきっかけにしてチームがまとまっていく、それをエナジーにしてプレーに出していくことができたかなと。HCが替わってからも、良い雰囲気を作ることができてチームとして徐々にステップアップできたと思います。

――3月末に尺野将太コーチがHCに昇格しました。尺野HCが変えたことなどはあるのですか?
川村 バスケットのスタイルやフォーメーションは変えず、完成度を高めていくことに専念していました。その上でダメなところはダメとはっきり言ってもらい、時にはぶつかり合ったりして徹底的に話し合いました。多くのことを話し合ったことで良い方向に進んだと思いますし、普段声を張りあげない尺野さんが怒ったり刺激を与えたりすることで、チームも引き締まったと思います。

――チームメート同士でもぶつかり合いはあったんですか?
川村 そうですね。選手それぞれ視点が違いますし、それぞれ意見を持っているので。ガードとセンター、ガードとシューター、外国籍選手同士、互いに意見を発することで、僕自身も見えてくるものがたくさんありました。

――具体的にどんなことを話し合ったんですか?
川村 ボールが欲しいタイミングだったり、パスを出そうとするタイミングだったり、とにかく思ったことをみんなが口に出して伝えました。例えば僕がパスを出す側として、最初は様子を見ながらでしたけど、ジェイソンやジェフ(ジェフリー・パーマー)と話し合うことで終盤戦ではより多くのアシストができるようになりました。そうしたことの積み重ねによってチームとして成長できたと思います。

――ではチームとして足りない部分や問題点を挙げるなら?
川村 めちゃくちゃありましたね(苦笑)。自分たちはビーコルを「個性が強い選手がそろったチーム」と表現していました。確かに個性は際立っていましたけど、それを1つの集合体にすることに苦労しました。僕のキャラが濃過ぎたのもあると思います。僕は思ったことを何でも言うタイプで、ダメなことはダメだと言うべきだし、それが次のステップになると信じて発信してきたつもりですけど、そうした面でうまくいかないこともありました。

――来シーズンさらに成長していくために、どういう変化が必要だと思いますか?
川村 経営陣、フロントスタッフ、選手、トレーナー、チームに関わるすべての人がしっかり意思疎通を取ることが必要だと思います。全員が同じ目標に向かって行動することは当然のことなんですけど、それが今シーズン欠けていた部分かなと。戦力的に劣っていたとは思ってないんですよ。サイズがある2番(シューティングガード)、3番(スモールフォワード)がいるし、メンバーはそろっていました。来シーズンはメンバーが変わるだろうし、僕自身もどうなるかわかりません。どんなチーム編成になるかも想像がつかないですけど、クラブもブースターも「海賊」というチームカラーを大切にしています。どんな逆境にも負けない、常にハングリーに戦うチーム。今シーズンは「負けたら、はい次」という感じで、最後まで勝ち星を取り返すことができませんでした。Bリーグ2年目のビーコル(横浜ビー・コルセアーズの愛称)はその悔しさ、経験を活かして勝てるチームにならないといけないと思っています。

――目指すはタイトルですか?
川村 初年度でギリギリ残留したチームなので、タイトルを目指すのは難しいかもしれないですけど、自分たちのベクトルを明確にしてみんなで本気で取り組めば可能性はゼロではないと思います。もちろん、安易に「優勝します」と言うべきではないと思いますけど。でもまあ今は、シーズンが終わったばかりで疲れきっているのでそこまで考えられないですね(苦笑)。

――栃木ブレックス時代に優勝を経験していますが、その時はそうした一体感があったんですか?
川村 そうですね。社長、GM、スタッフ、選手みんなが「宇都宮にはブレックスがある」という想いを持って地域密着を大切にし、一丸となっていました。ブースターの熱量も高かったですし、そうした積み重ねがBリーグ初代チャンピオンという結果にもつながったんだと思います。ビーコルにはそれが足りないですね。僕は1年間ビーコルの選手として戦ってきて、ビーコルブースターの素晴らしい熱量を感じていました。そのブースターの応援に応える、さらに上回るアクションを僕たちチームが起こせなかったですし、それができないと強いチームにはなれないと思います。

――改めてBリーグができて良かったと感じることは?
川村 最初から言われていたことですけど、日本国内に2つのリーグ、2つのチャンピオンチームが存在しているのは単純におかしなことで、それが1つになってどの会場も盛りあがったことは本当に良かったですし、プレーヤーとして非常にやりがいを感じました。そういう状況下で試合をすること、順位を争うことはすごく楽しかったです。

――リーグがより良くなるために、改善するべきだと思うところはありますか?
川村 今シーズンはいろいろな意味でのチャレンジの年で、リーグ主催のゲームは演出が派手で素晴らしかったし、各チームのホームゲームもそれぞれ特徴を出せていたと思います。全体的には成功したと思ってますけど、あえて言うならファイナルが一発勝負というのは物足りない感じがしましたね。リーグ戦で60ゲーム戦って勝率の高いチーム同士が戦う、最後の戦いが1試合で終わるというのはもったいないというか。強豪同士のバチバチ感はもっと見たいはずだし、選手からしてももっとやりたいだろうし、例えば5戦3勝制とかにしてもいいかなと。

――ビーコルはシーズンをとおして65試合を戦いました。これまでのキャリアで一番大変なシーズンでしたか?
川村 長かったので体力的なしんどさはありましたけど大きなケガもなかったですし、メンタル的な疲れはそれほどなかったです。チームがうまくいかなくて大変なこともありましたけど、全体的には充実したシーズンだったかなと。初めて対戦する選手も多く、いろいろな発見もあって楽しかったです。

――残留プレーオフや入替戦は精神的にも大変だったと思います。
川村 二度と経験したくないですね(苦笑)。もちろん、その前に残留を決められなかった自分たちに責任があるんですけど。オールジャパンもそうですけど、入替戦などは“下剋上”を期待する人も多いと思いますし、プレッシャーは非常に大きかったです。勝ったら天国、負ければ地獄という究極のシチュエーションで、残留プレーオフは満員の中で、入替戦は5000人以上の前でプレーしました。僕らはシーズン中に満員の会場で試合をすることが少なかったので、ああいう状況に不慣れでしたしすごく緊迫感があって大変でしたね。

シーズン最後の広島戦はフリースローでの2得点に抑えられた [写真]=B.LEAGUE

――残留プレーオフ、入替戦を振り返って、自身のパフォーマンスはいかがでしたか?
川村 残留プレーオフ2回戦の富山(グラウジーズ)戦、入替戦の広島(ドラゴンフライズ)戦で、自分らしさを全く出せなかったのは悔しかったです。入替戦はチームのみんなに助けてもらったという思いしかないですね。

――残留プレーオフ1回戦の秋田ノーザンハピネッツ戦では、第3戦でブザービーターで決勝点となる3ポイントを決めるなど圧巻のパフォーマンスでした。
川村 今シーズンのベストゲームですね。周りがよく見えていたし、ショットタッチも良かったので。最後のシュートに限らず、2日間を通じて安定したパフォーマンスが発揮できたと思います。レギュラーシーズンで連敗を喫した秋田が相手で、大勢のハピネッツブースターがいる中、アウェイで勝利できたことは本当に大きかったです。

――レギュラーシーズンのベストゲームを挙げるなら?
川村 京都(ハンナリーズ)との2試合(1月2、3日。83-75、74-64で連勝した)です。第1戦は、ブースターから新加入の“お客さん”と見られていた自分がビーコルの一員として認められるプレーができたと思いますし、ブースターからの熱量を感じることもできました。第2戦ではほとんどシュートを打てなかったんですけど、チームのみんなのおかげで勝つことができました。両試合ともブースターがいい雰囲気を作ってくれて、相手のフリースローではそのブーイングによってミスショットにつながった場面もありました。ブースターも含めてチーム全員で戦って連勝できたこともそうですし、やっとビーコルの一員になれたという意味でもうれしかったです。

――では自身のシーズンベストプレーは?
川村 秋田戦第2戦のラスト1分のプレーと、第3戦の最後のシュートですかね。第2戦の残り1分30秒ぐらいから9点取った時は、この試合で決めたいと思ってギアを上げました。逆転することはできなかったんですけど、その勢いが第3戦のブザービーターにもつながったと思います。個人的にも思い出深いゲームになりました。

――あのブザービーターがどういう流れだったか振り返っていただけますか?
川村 ボールをもらって時間を見たら残り6、7秒で、2点を取って同点にする判断もあったと思いますけど3点を狙いにいきました。実は第2戦が終わった時に全身がつってたんですよ(笑)。両ふくらはぎとハムストリングと背筋がつってて、戦える体ではなかったんです。だから何としても10分間で決めようと。自分としてはあの場面で決められるという自信がどこかにあったんですよね。ただ、あの得点は確かに勝利につながりましたけど、1試合をとおして見ると1本のシュートに過ぎないんですよ。そこにたどり着くために、みんながフリースローをしっかり決めたり、リバウンドを取ったり、そういう積み重ねの結果がたまたま自分のシュートだっただけで、チームとして勝つまでの過程も評価してほしいですね。

川村は試合終了間際に劇的な3ポイントシュートを沈めた [写真]=B.LEAGUE

――ご自身も言ったとおり、秋田戦の後の富山戦や広島戦は“らしさ”を出せませんでした。
川村 力を使いきっちゃったんでしょうね(笑)。まあ、富山戦に関しては気負い過ぎていたかなと思います。広島戦は戦術的にインサイドで攻めることがチームのテーマだったので、その結果、ボールを触る時間もシュートを打つ回数も少なくなりました。あの試合は僕がクリエイトするのではなく、インサイドバスケット中心でそのプランどおりに戦って勝てたので良かったと思います。とはいえ、個人的にはミスやターンオーバーが結構あったのでパフォーマンス自体、良くなかったと思いますけど。

――ビーコル内の今シーズンのMVPは?
川村 B-ROSE(ビーローズ/ビーコルのチアリーディングチーム)。

――?
川村 いや、選手ではいないですよ、MVPと言えるほどのパフォーマンスを見せた選手は。その一方でB-ROSEはチームが負け続ける中で、いつも会場を盛りあげてくれました。彼女たちがアリーナにエナジーを注入し続けてくれたからこそ、ブースターも最後まで一緒に応援してくれていたんだと思います。B-ROSEとはほとんど接する機会がないので、この場で感謝の気持ちを伝えたいです。パフォーマンスも素晴らしいと聞いていますし、同じチームで一緒に戦えて誇らしいですね。あともう1人、尺野さんはMVPにふさわしいと思います。シーズン終盤のとんでもない状況からHCに就任してチームをB1に残留させたことは本当にすごいなと。選手については、もっとできたはずですし、その期待感があるのでMVPは選べません。

――最後に今シーズンのビーコルの裏話を教えてください。
川村 うーん……選手が誕生日の時に、みんなで祝福の意味をこめて顔にパイを投げるんですけど、あのパイ、実はシェービングフォームなんですよ。ヒゲを剃る時の泡です(笑)。

――顔が痛くなりそうですね(笑)。
川村 すごくヒリヒリしますよ、目が痛くなるし(笑)。

――なぜシェービングフォームなんですか?
川村 クリームは油分を多く含んでいるので、コートでやると滑りやすくなっちゃうんですよ。シェービングフォームは簡単に拭き落とせるんですけど、クリームだとなかなか落ちなくて。過去に何度も苦労したので、いつもパイを準備してくれる(細谷)将司にシェービングフォームを使うように伝えました。

――4月に川村選手が祝福された時は、かなり意表を突かれた様子でした(笑)。
川村 あの時は完全に油断してました(笑)。練習着じゃなくて帰る時の格好だったから来るとは思わなかったんですよ。でも、雰囲気を見て気付くべきでしたね。妙に周りがそわそわしてたんで。自分以外の全員がやることを知ってたみたいなんで、食らった瞬間は「チクショー」って思いましたよ(笑)。

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