谷口光貴が笑顔でお別れ、川崎ブレイブサンダースとファンへ表する感謝と決意

 谷口光貴らしくさわやかな別れだった。6月1日に行われた川崎ブレイブサンダースの2018-19シーズンファン感謝祭。その20日ほど前に契約満了が発表されたこともあり、背番号15は「これまでのファン感とは違う気持ちで迎えた」

「アーリーエントリーを含めると4シーズン半お世話になったクラブだし、温かいファンの皆さんにずっと支えられてきたので、その分、今日は皆さんに楽しんでもらえたらなと」。この日は大勢のファンからの写真やサインに笑顔で丁寧に応じ、最後は壇上でマイクを握って「皆さんと巡り合えて、皆さんにサポートしてもらって、本当に苦しいシーズンでしたが乗りきることができました」と語り、「本当にありがとうございました」と感謝を伝えた。

 2018-19シーズンは、谷口にとってもどかしい1年だっただろう。ケガで出遅れ、なかなかプレータイムを得られない時期もあり、レギュラーシーズンは60試合中27試合の出場にとどまった。本人はこう振り返る。「思うようなシーズンにできず苦しかった。でもそれは自分の力不足によるもので、ケガも自分の責任。試合に出る上でまだまだ足りないところがある」

 もっとも、リーグ屈指のチームで4年にわたってプレーを重ね、選手としての成長も実感している。「ここに来てバスケとの向き合い方が大きく変わった。戦術なども含めてプレーについていろいろ考えるようになり、その中で自分が何をすべきか、自分の持ち味をどう発揮するかを強く意識するようになった」。また、在籍時に最も影響を受けた言葉として、2017年に引退した元チームメートのアドバイスを挙げた。「(ジュフ)磨々道さんから『全部やろうとしてもできないから、自分のいいところを出せばいい。もっと自信を持て』と言われ、それが心に一番残っている」

 特に印象的な出来事は2つの大一番だという。「1年目(2015-16シーズン)にNBLで優勝したことと、2年目にBリーグのチャンピオンシップファイナルで負けたこと」。ルーキーイヤーは試合にあまり絡めず「“悔しい優勝”だった」。2年目のファイナルではコートに立てず「こういう場でプレーしたいと強く思った」。そして2つのゲームを通じて、共通して芽生えたのは「もっとこのチームの力になりたい」という気持ちだった。

 しかし、谷口は来季、愛着のある川崎に別れを告げ、違う道を歩むことになる。一足先にチームを離れた仲間についてこう語る。「川崎で同期だった野本(建吾)や(晴山)ケビンが他のクラブでがんばっているのは刺激になっている」。プレーヤーとして目標としているのはゴールデンステート・ウォリアーズに所属するシューターのクレイ・トンプソン。「キャッチ&シュートだったり、スクリーンをうまく使って味方を活かしたり、少ないドリブルで勝負できるような、そういう選手になりたい」

 移籍先はまだ未定というが、名門クラブで鍛えられた経験は他クラブで大きな力となるはずだ。「トンプソンのような選手に近づくためにも、次の行き先は本当に大事になる。性格も含めて自分に合うチームに行きたい」

 最後に改めてファンへの想いを聞いた。「川崎のファンは本当に温かい。自分たちが苦しい時に寄り添ってくれるし、だからこそ自分たちもがんばろうと思えた。その輪がどんどん広がっていくのを感じられたし、チームの一員として本当に誇りに思う。ファンには感謝の気持ちしかない」。そしてちょっとだけ悔しさをにじませた。「感謝はコートで表現することが一番だけど、自分はそれができなかった。ファンの方々にはこれからも自分のことを少しでも気にしてもらえたらうれしいし、来シーズン以降、プレーで恩返しできるようにがんばっていきたい」

 厳しい状況下に置かれながら、表情は終始穏やかで、ファンについて話す時はほほを緩め笑みもこぼれた。川崎ブレイブサンダースで修練を積んだシューティングガードは感謝の想いを胸に抱き、不退転の決意をもって新天地へ歩を進める。まだ26歳、ピークを迎えるのはこれからだ。

文=安田勇斗

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