2019.10.13

宇都宮ブレックスが原点に立ち返ってつかみ取った今シーズンの初勝利

両チーム最多の23得点をあげた宇都宮の渡邉裕規(左)[写真}=鳴神富一
1981年、北海道生まれ。「BOOST the GAME」というWEBメディアを運営しながら、スポーツジャーナリストとしてBリーグを中心に各メディアに執筆や解説を行いながら活動中。「日本のバスケの声をリアルに伝える」がモットー。

ナベタイムも発動!後半一気に宇都宮が逆転!!

怪我から復帰の鵤誠司。約18分出場で5得点 [写真]=鳴神富一

 10月12日、滋賀県草津市のYMITアリーナで行われた滋賀レイクスターズのホーム開幕戦は宇都宮ブレックスと対戦。ともに開幕節ではアウエーでの戦いとなり、残念ながら連敗を喫したこともあり、シーズン初勝利をつかみ取るために臨んだ一戦となった。台風19号の接近で開催が危ぶまれたが、何とか開催までこぎつけ、悪天候の中でも2752名と多くのファン・ブースターがアリーナに駆けつけて声援を送った。

 この日アリーナに来ていたあるファンが「今日が開幕だから」と冗談を残すくらい、チームにとっても組織としても非常に厳しくもあり、悔しい開幕2連敗スタートとなった宇都宮。課題のゲームの出だしという部分において、この日も強度の高いプレーを見せることができず、試合開始早々に10-2と滋賀にリードを広げられる。

 ホーム開幕戦、そして軸となるヘンリー・ウォーカーの出場停止という難しさを逆に力に変えた滋賀のアグレッシブなプレーに対して、明らかに押されて受け身になり、ディフェンスが機能せずにスコアを与えてしまう。開幕から続いている悪い部分が露呈して、なかなかペースをつかむことができなかった。

 その流れを変えたのは持ち味でもある激しいプレッシャーディフェンスだ。第3クォーターの残り5分を切ったあたりから、チームとしてそれが機能し始めたからにほかならない。その時間帯までも相手に押されて一時は10点ビハインドの状況に陥ったが、身にしみついている今までやってきたことを我慢してやり続けることによって、勢いがあった滋賀のオフェンスの流れをシャットアウト。

 そうなればいいディフェンスはいいオフェンスを生む。宇都宮はその点差を縮めただけでなく、一気に逆転までもっていった。その中心にいたのが渡邉裕規である。入ったら止まらないアウトサイドシュートが相手のリングに次々と吸い込まれていく。まさしく今シーズン初の「ナベタイム」の発動だ。そうなると宇都宮は強い。勢いそのままに第4クォーターでは滋賀に流れを渡さずに突き放していった。最終的には84-71というスコアで待望の今シーズン初勝利を手にしたのであった。

「ディフェンスから本来のリズムがつかめた」渡邉裕規

10得点12リバウンドのダブルダブルを達成したジェフ・ギブス(右)[写真]=鳴神富一

 その渡邉は最終的に両チーム通じて最多の23得点を獲得。「シュートを決めにいくというよりも、いいセレクションで打てたのもありますし、最初でしっかりと決められたのが大きいかなと。自分自身の気持ちの部分やそのタイミングでのチーム状況もありますけど、今日は自分の良さが出たと感じています。でも、やはりディフェンスから入っていけたのが大きかったと思います」と渡邉は振り返った。

 さらに「開幕戦の連敗は川崎(ブレイブサンダース)さんが本当に素晴らしく、自分たちは相手のスカウティングに対して酷いというか難しく本当に悔しい試合になりました。そういう意味でも今日の勝利は自信を取り戻す機会だったかなと感じています。僕らは最終的にチャンピオンの位置にいるというのが大切であって、そこを追い求めて目指しながら良い意味で焦らずにこれからも戦っていきたいと思います」と力強く意気込んだ。

 ディフェンスでの勝利、これに関しては他の選手も同じようなコメントを残している。驚異の7オフェンスリバウンドを含む10得点、12リバウンドのダブルダブルで勝利の立役者の一人となったジェフ・ギブスは、「前半は相手のエナジーに押されて彼らのペースになりましたが、後半に自分たちのディフェンスから流れを持ってこられて勝利をつかめました。開幕2連敗は当然良くないことで難しい部分はありましたが、そこからこの試合までに自分たちのやるべきことにフォーカスして練習をして、今日は自ら崩れずに40分間集中してプレーを遂行できたと感じています」と胸を張った。

原点に戻ってつかんだ宇都宮のスタイル

持ち前のドライブを比江島慎が見せるようになってきた [写真]=鳴神富一

 自分たちのやるべきことを遂行する――これに関しては宇都宮の安齋竜三ヘッドコーチも同様に感じていた。「この天候の中でも多くの方が来てくれて、一方で色々な事情でこのアリーナに来られなかった方もいます。全ての人たちに何か伝わるようなゲームにしようと臨んだ中で、最後はそれを出せたかなと。ゲーム序盤は攻防両面でやりたいことができず、またやプレーの強度もなく。相手の勢いに受け身になってしまいました。その部分は本当に早く修正しないと長いシーズンで苦しい展開になるし、どのチームとやっても勝つチャンスは少なくなります。それでも後半は自分たちが以前からやってきたバスケットをある程度の時間で展開できて勝てました」。

 さらに「シーズン前から続いていた自分や選手の中にもあるだろう、モヤモヤ感みたいなものに関して1つ結果が出たことで少し晴れたのかなと。自信を持って自分たちのやるべきことを、明日以降は最初から出し切る方向にしなければなりません。自分たちのやるべきことや決められたルールを当たり前のようにフォーカスして戦うようにこれからもしていきたいです」と、安齋HCも本来の姿を見出したようだ。

 チームとしては長いシーズンではあるが、しっかりと1つ勝利を収めた事によって安堵の気持ちになっているのは事実かもしれない。そして、この日は怪我で戦列を離れていた鵤誠司がコートに戻ってきたのも加えてチームにとっては嬉しいニュースであろう。コンディション的には問題ないと語った彼は「僕がやれる事をやっただけで、その中で連敗脱出できたのは良かったです。後半から強度の高いディフェンスをしようとハーフタイムでも話して、それが結果として遂行できました。それが勝利につながりましたね。まずはチームとしてハードに40分間戦うことを継続していきたいと思っています」と冷静に勝利を分析した。

 冷静に分析したという点では比江島慎も同じだ。彼の口からは課題感と自分自身がやらなくてはという決意みたいなものを感じた。「まだまだチームとしても正直やりたいバスケットを展開できていないし、その中で自分自身も持ち味のドライブなど出せていないので、もっともっとやらないといけないです。出だしに自分たちらしさを出せないのも課題です。まだまだチームとしては完成していない状況ですね」と、反省の言葉を忘れなかった比江島。

 自分たちの原点に立ち返ってつかみ取った勝利。長いシーズンの中ではたった1試合かもしれないが、宇都宮にとっては本来のスタイルを取り戻したという意味からも大きな価値のあるものだったであろう。その価値を保つためにも更なるフォーカスが必要だ。ここから彼らは変わっていく。

写真・文=鳴神富一

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