2020.01.17

香川ファイブアローズの躍進を支えるポール・ヘナレHC、前NZ代表HCがB2の舞台を選んだ理由とは

昨年11月から香川を率いるヘナレHC[写真]=鳴神富一
1981年、北海道生まれ。「BOOST the GAME」というWEBメディアを運営しながら、スポーツジャーナリストとしてBリーグを中心に各メディアに執筆や解説を行いながら活動中。「日本のバスケの声をリアルに伝える」がモットー。

 香川ファイブアローズは今シーズン大きな飛躍を遂げている。B2リーグ第17節終了時点で西地区2位と、プレーオフ進出圏内を維持しながら後半戦の戦いに突入。また、11月下旬に非常に大きなニュースを発表して我々を驚かせてくれた。そのニュースとは、長くニュージーランド代表のヘッドコーチを務めてきたポール・ヘナレ氏のヘッドコーチ就任だ。2006年の世界選手権ではニュージーランド代表の選手として日本に大逆転勝利を収めた立役者であり、昨年のFIBAワールドカップ2019ではHCとして同国代表を率い、順位決定戦で日本を30点差の大差で破っている。ある意味、日本バスケ界にとってのターニングポイントに登場している人物なのだ。

 香川は過去には球団として経営難を経験、勝利に恵まれず低迷期を過ごすなど厳しい状況もあった。加えて、今シーズンオフには当時のヘッドコーチによるパワーハラスメント行為が発覚するなど、ネガティブなニュースが続いていたが、ヘナレ氏のHC就任はファン・ブースターにとっては非常にうれしいニュースになっただろう。ここまでの好成績を考えても、今後ますますチームが良い方向に行くのではないかと期待感を高めているに違いない。

第17節終了時点で西地区2位と好調の香川[写真]=鳴神富一

「オーナーや社長の話に感銘を受けた」

 2019年11月25日からHCとしてチームを率いた約1カ月半を、当人は「非常に楽しんでいます。このチームの一緒に戦っている選手やコーチなど自分の取り巻く環境も気に入っています」と充実した日々であるのが伝わってくるコメントで振り返ってくれた。気になったのは、昨年のW杯直前の強化試合や本戦で日本と4度対戦していた縁でオファーがあったのではないのかということ。しかし、その想像とは実際はまったく違った。

「10月初旬に自分のエージェントと香川のフロント関係者との間に偶然にもつながりがあって、B1というもっと上を目指すためにチームはナショナルレベルのコーチを探していて、それでコンタクトを取ることになった形ですね。日本には何度も来ていて、非常にいい国だと感じていました。この国でコーチングするのは良い選択肢の一つだと考えていましたけど、まさか実際に日本でHCをすることになるとは。本当に良い縁ができてうれしい限りです」

 当時、ヘナレHCはオーストラリアのプロリーグNBLのメルボルンユナイテッドでアシスタントコーチを務めていたが、その10月初旬のコンタクトの後の10月15日にはNBLの公式ホームページに「ポール・ヘナレはメルボルン・ユナイテッドから日本に旅立ちます」というタイトルでリリースが流れてきた。その事実を考えると、コンタクトから非常に速いスピードで物事が順調に進んだことがうかがえる。

 非常にいいタイミングでお互いの意図が合致して香川の地を踏む事になったヘナレHCではあるが、彼のコーチとしての手腕を考えればB1のトップレベルで指揮を執っていてもおかしくはない。なぜ香川というチームを選んだのか、そしてこのチームに関してどんな印象があったのかをストレートに聞いてみた。

「香川に対しての事前の印象はほとんどなくて…エージェントから話を聞いてから、実際にどういう土地で、どんなチームだろうというのをインターネットで少し調べたくらいでした。その後、新しいオーナーや社長とお会いして実際にオファーを頂いて、いろいろと話をしていくうちに彼らが今後どうして行きたいと考えているのか、どういう風にB1を目指そうとしているかなどの計画を聞いて感銘を受けたのです」

「良いコーチとして大成する為にも、国の文化や言葉を取り入れるのは大切」

「いい国だ」と語ってくれた日本の印象ではあるが、実際過ごしている香川の生活はどうなのか。香川といえば、やはり「さぬきうどん」である。その辺も含めて話をうかがうと、コーチング同様に非常に充実している様子をうれしそうに語ってくれた。

「香川は非常に住みやすいですね。気候や自然の多さ、街の雰囲気などが自分の知っているニュージーランドの街に非常に似ていて、加えて日本人が他人に対して感謝の気持ちを持って生活していることも気に入っています。(気に入った料理については)やはり『うどん』と答えるべきですけど、この前旅行で広島に行った時にお好み焼きというものに出会って、そこから大好きになりました。もちろん、うどんやラーメンに刺身など日本食は大好きだけどね」

 その時に発した「お好み焼き、とても美味しい」という日本語が非常に流暢で正直驚いた。日本語のうまさに関して話を聞くと、同席していた通訳の方が裏話を教えてくれた。

「彼は毎日寝る前に日本語の文章を一つ覚えるようにしていて、本当に勉強熱心なんですよ。本人は『少し話せます』と(控えめに)言っていますが、日に日にうまくなっていて。数字を数える時は早口すぎて、たまにどの数字か分からなくなりますけどね(笑)」

 日本という国に馴染もうとしている素晴らしい姿勢、その背景には彼のコーチとしての考え方があった。

「より良いコーチを目指す為、日本で良いコーチとして大成する為にも国の文化や言葉を自分の中になるべく多く取り入れるのは大切で、その事によっていろいろな事につながっていくと思っています」

 海外でのコーチング、日本へのリスペクト、そしてB1昇格という目標を達成させる為にコミュニケーションを大切にする日々について語ってもらう中、最後に今後のビジョンについてうかがった。

石川裕一アシスタントコーチがチームをビルドアップしてくれたお陰で、自分自身はすぐにチームへ溶け込めたし、いいコーチングができていると感じています。B1を目指す中で一つだけでは無く、クラブとしてもチームとしてもいろいろなことを変えていかなければいけません。より魅力的でお客様が来てくれるようなチームを目指して、自分の経験に基づいてアドバイスしていきながら毎日一つひとつ積み重ね、組み立てていって、全員で一緒にB1の舞台を目指していきたいと考えています」

写真・文=鳴神富一