2020.09.30

リクルートキャリアと『アスリート応援プロジェクト』を推進するDOSA大島伸矢理事長に直撃「可能性を持つパラアスリートを見つけたい」

スポーツ能力協会の大島伸矢理事長は子どもたちの可能性を信じて国内を行脚している [写真]=狐塚勇介
バスケットボールキング編集部。これまで主に中学、高校、女子日本代表をカバーしてきた。また、どういうわけかあまり人が行かない土地での取材も多く、氷点下10度を下回るモンゴルを経験。Twitterのアカウントは @m_irie3

リクルートキャリアは『アスリート応援プロジェクト』を立ち上げ、自らの情熱と可能性にかけてトレーニングを続ける障がい者アスリートを応援している。このプロジェクトは世界で活躍することを目指すアスリートへ応援を募り、アスリートが競技に集中できる環境を整え、強化指定選手や代表選手までの「あと一歩」を支援する施策だ。それではどのようにサポートを行っているのか! 今回、リクルートキャリアとタッグを組んでアスリート支援を実施する一般社団法人スポーツ能力発見協会(DOSA)の大島伸矢理事長にお話しを聞くことができた。

取材・文=入江美紀雄
取材協力=株式会社リクルートキャリア、一般社団法人スポーツ能力発見協会(DOSA)

正確に測定することが可能性のあるアスリートを見つける第一歩

正確なデータを多く取ることでポテンシャルを持つ選手を見つけることができる [写真提供=スポーツ能力協会]


――スポーツ能力発見協会(DOSA)立ち上げのきっかけを教えてください。
大島 元々僕はプライムラボという会社を立ち上げて、子どもたちの能力を発見する取り組みをしていました。これはスポーツに限ったことではなく、小さいころに音楽や芸術、数学などを体験したうえで、どんな志向性があるのかをチェックするものです。僕自身、今もサッカーをしていて、周りにアスリートの知り合いがたくさんいますが、彼らからは幼児期に好きと得意なものが一致して頑張ってきたから、辛いトレーニングも乗り越えられたと聞いています。好きなものを夢中に取り組むことで、短時間で集中的に成長できたと感じています。

――スポーツに関して具体的にどのようなことをされたのですか?
大島 体力測定を正しく行うことで子どもたちがこれまで自分では気づかなかった能力を発見できます。正確に測ることで、全国でどれだけのレベルにいるのかを明確にすれば、オリンピック・パラリンピックでも活躍できる人材を発掘できると思います。そのために、2013年に試験的にイタリア、オーストラリア、ドイツなどから機材を仕入れて、スポーツで必要なスキルのデータを取り始めました。せっかくやるのであれば、適性スポーツ、向いているスポーツをオリンピック、国体の64種目のうちから10個出そうと。それを体験することで、得意なスポーツを見つけることができます。これを行ったところすごい反響をいただき、応募が殺到しました。これは社会貢献になるのではと考え、2014年2月7日、ソチオリンピックの開幕日にDOSAを立ち上げました。いろいろな場所で、測定のイベントを行っていたところ取材を受け、たくさんの自治体さんからオファーをもらい、数を増やし、全国をずっと回っている状況でした。

――障がい者へのアプローチは?
大島 4、5年前に障がいを持っている方も同じことができないかと思い、佐賀県で初めて計測を行いました。ただ障がいは一人ひとり異なり個別対応が必要な事もあるので健常者とは別に、まず車いすの方や視覚障がいの方に合わせた種目を作り、記録を取り始めました。私たちはイベントを行う際に、毎回トップアスリートに参加してもらい、子どもたちと触れ合いの場を作っています。それもあってか健常者の方の申し込みは、1000人を超える場合があるのですが、障がいを持っている方の申し込みは5~7名から程度でした。それでなぜ申し込みいただけないのか、まずそれを徹底的に調べ上げたのです。その過程で分かってきたのはまず障がいを持っている皆さんがどのようなパラ競技があるのか、自分がどの競技に参加資格があるのかを知らないということです。そのため障がいに合わせた競技と習える場所を案内していきました。それでもまだ人が来ない。さらにもっと調べていった、課題もたくさん発見して。そこからサポートがスタートしたと言えるかもしれません。

――この活動を広めるうえで積極的に行ってきたことがあれば教えてください。
大島 最終的にたどり着いたのは、保護者の考え方と個人の考え方です。どうしても健常者と何かを一緒にやるのを嫌がる保護者の方もいらっしゃいます。子どもたちも積極性がなくなってしまいます。そこが1つの原因で、自信がなく「僕なんて、私なんて」というお子さんが多かったわけです。なので、ヒーローやヒロインを作るしかないと思いました。あの人のようになりたいという気持ちがスポーツをやるキッカケになると思います。運動能力の高い子はたくさんいて、その人が表に出やすい環境を作ってあげることが一つ重きを置いて活動しました。

障がいがあってもできるというメンタリティを育んでいく

忙しい時間を縫って取材に対応してくれた大島伸矢理事長


――サポートをするアスリートはどのように決めていますか?
大島 ネットやFacebookを駆使し、とにかく測定したいという人を集めています。それでも日本の代表になれなくても、やれるスポーツを見つけましょうと募集をかけても効果は少なかったですね。高い運動能力を持っているにもかかわらず、気持ちが折れてしまっている方もいました。そんな中で、パラ陸上で日本新記録を作った井谷俊介選手がいます。彼は足を切断することになっても、気持ちをすぐに切り替え、知人から聞いてうちのページを見て、測定に来てくれました。足も速いですし、スポーツ用ではない義足でそれなりのタイムを出しました。しかし、トップアスリートにならないと誰も支援してくれない。早く世界大会に出場しないと世界ランキングの登録ができず、東京2020パラリンピックに参加できないという課題があり、それなら我々から彼に義足を提供しようと考えたのです。結果的には我々がお金を支援する前にスポンサー企業が決まりましたが。

――可能性を持った人はたくさんいるわけですね。
大島 強化指定選手になれるポテンシャルを持っていながら、習う場所や指導者に巡り合えないという理由で、次のステージに上がれない選手もたくさんいます。そこを支援して、結果を出せるようになれば、いろいろな企業様から声がかかるようになるから、我々はそこの間を支援しようと方針を立てました。まずやってみて、結果を出せば支援してくださる企業が見つかり、雇用や引越しなどのサポートしてくれます。ただ我々だけでは、集められるお金も限られていますので、そこでリクルートキャリアさんの協力を得ようとしたわけです。リクルートキャリアさんには「個の尊重」という企業文化を持たれているので目的が一致して、ぜひ一緒にやらせてくださいとお願いをしたわけです。

――リクルートキャリアの「個の尊重」についてもう少し詳しく説明してください。
大島 大島 我々としては、個として良いものを持っているのに、それを表に出さないのはもったいないと考えています。なので、そこは個人種目の選手でもチームスポーツの選手でも、スポーツに取り組んでもらっています。『個の尊重』はリクルートが創業以来大事にしている価値観だと聞いています。1人の人間が「本当に自分に大切なこと」に夢中になることで、その好奇心や情熱からその人自身や周りの人にとってより良い社会を作り上げることができると。スポーツをやりたいと真摯に思っている方を支援することで、良いサイクルが生まれるのではないかという考え方が元々の根本にあるのではないでしょうか。自分の大切なことに真剣に向き合う人を信じ、期待し続けてくれています。

障がい者を受け入れる健常者側の環境作りも大切

大島理事長は「障がい者の受け入れ等、まだまだ解決しなければいけない課題は多い」と語った [写真]=狐塚勇介

――DOSAの活動を行うことで、障がいのある方も運動ができる機会が確実に多くなっていますか?
大島 牛歩ですが、運動し始める子どもたちも増えています。低身長の子を支援していたのですが、背がすごく伸びて、障がいの対象外になった子もいました。その子とは今でも連絡を取りますが、スポーツを通じて、仲間と一緒にバドミントン始めましたと聞き、すごくやってよかったなと実感しました。

――東京2020オリンピック・パラリンピックが終わると選手とサポート企業の関係が変わるのではないかと言われています。それについてはどうお考えですか?
大島 私たちのゴールはオリンピックやパラリンピックではありません。ただ東京2020パラリンピックで選手がヒーローになれば、運動をしたいと思う人も増えるはずです。そういった意味では、東京2020パラリンピックが終わっても次の4年、8年後に向けてまだまだ活動を進めていかなければいけないのではないでしょうか。障がいのある方がスポーツを行うことで、閉鎖的だったものがスポーツを通して積極的になっていくと思います。企業に入った際にでも健常者と同等やそれ以上の力を発揮し、経済にも影響を与えてくれると私は考えています。

――車いすバスケットボールでは、車輪のカスが残ることもあってかなかなか施設を借りられないという現状がありと聞きます。これについてはいかがですか?
大島 あまり変わっていないですよね。日本は体育館の使用について厳格です。フットサルでもシューズのカスが残るといって借りられないケースもありますし、指導者がいないゆえに万が一ケガをした場合のことを考え、プールや陸上でも障がいのある人が利用できないのが現実です。ただ、障がい者スポーツが広がっていけば、その状況が変わってくると思います。しかし、先ほど話したようにスポーツをしないと健常者との溝が大きく、雇用されてもすぐに辞めてしまうということもあります。みんなにケアされてきた方が多いので、業務の指示を受けた場合、それを受け入れられないこともあると聞きます。それを解決してくれるのがスポーツと言えるのではないでしょうか。スポーツを通じて健常者と障がい者がコミュニケーションを持つ機会が増えれば、社会でも常識の溝が埋まると思っています。

――それには健常者の受け入れ方も重要になってきますね?
大島 日本では障がい者の方が切断した部分を隠すことが多いです。見られるのが嫌で、わざわざ長スボンを履くなどということもあると聞きます。ですから内向的になりやすいと言えますが、もっと堂々としていいと感じています。私も多くの障がいのある方と接してきましたが、逆に堂々としている人を見ると「おお!」と思います。そういう環境を作っていかないと閉鎖的になってしまうので、そこをどうやって作っていくのかが一つの鍵となっていくと思います。

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