2021.01.14

サンロッカーズ渋谷との激戦を制したアルバルク東京…勝敗の分かれ目となったのは『遂行力と状況判断』

熱戦を制したA東京。『遂行力と状況判断』で上回った[写真提供]=日本バスケットボール協会
2000年より、バスケットボール専門で取材活動中

 Bリーグのディフェンディングチャンピオンと、天皇杯のディフェンディングチャンピオン。第96回天皇杯・全日本バスケットボール選手権の3次ラウンド、アルバルク東京サンロッカーズ渋谷の一戦はそのプライドがぶつかり合う激闘となった。

 ただ、ここに至るまでのチーム状況は明暗が分かれていた。SR渋谷はリーグ戦で尻上がりに調子を上げ、12月は9勝1敗という好成績。年明け初戦、1月2日の三遠ネオフェニックス戦では残り2分30秒の時点で11点あったビハインドをひっくり返す大逆転劇を演じ、翌日は41点差の大勝と、勢いが加速した状態だった。唯一不安があるとすれば、12月の唯一の黒星の相手がA東京であり、前日にシーソーゲームを制していながらその勢いを生かせず、100点ゲームの完敗を喫したことくらいだ。

 一方のA東京は東地区3位のSR渋谷に星4つの差をつけられ、同7位と低迷。安藤誓哉が気を吐き、小酒部泰暉が急成長を見せていたものの、田中大貴アレックス・カークの二枚看板の影が今一つ薄く、12月は4勝6敗と負け越してしまった。SR渋谷の大逆転劇と同じ日に残り3分25秒から12点差を逆転する劇的な試合を披露したが、翌日は敗戦。波に乗りきれず、リーグ連覇を果たした本来の姿には程遠い状態と言わざるを得ない。

 そんなチーム状況の差を表すように試合の前半はSR渋谷が先行し、一時は9点リード。A東京も小酒部の思い切りの良いシュートなどで2点差まで縮めて折り返し、第3クォーターには一時リードするが、その時間は長く続かず、SR渋谷から主導権を奪いきれない。しかし、1点ビハインドで後半3回目のタイムアウトを使った残り59秒から、A東京が底力を発揮する。
 
 まず小酒部のドライブで逆転に成功。ライアン・ケリーの得点で再びビハインドを背負っても、ルーズボールに飛び込んだカークからのパスで安藤がフローターを決めて再逆転する。またもケリーに得点を許した残り5.9秒、この時点で自ら決める覚悟でボールを持ったのは田中だった。マークしていたベンドラメ礼生に「左に行くのは読まれていた」と田中は振り返るが、そのベンドラメを振りきって45度から放ったプルアップジャンパーは試合終了のブザーが鳴った直後にリングをくぐった。

 田中はその場面について、「相手に決められた直後にすぐスローインせず、全員がしっかりスペースを確保しましたし、自分がボールをもらうことも誓哉とコミュニケーションを取りました」と語る。冷静さを失うことなく個々が役割を遂行したのは、リーグ制覇2度というA東京の経験値が為せる業だ。

 その経験値が奏功したのは最後の5.9秒に限らない。前述の通り、残り59秒の時点でA東京はタイムアウトを使い果たし、その後の2度の失点の際はタイムアウトを使うことができなかった。コートに立つ5人の遂行力と状況判断に委ねる以外に選択肢はなかったのだ。SR渋谷はその間に2度タイムアウトを使っている。最も緊迫した場面でタイムアウトを使えなかったチームが試合を制した事実は、A東京の地力の証明にほかならない。ルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチも「選手たちに託した。彼らはやってくれると信じていた」と全幅の信頼を寄せていた旨を語り、SR渋谷の伊佐勉HCも「A東京はコーチの考えが浸透していて、5秒でどう攻めればいいかということを選手たちは分かっている。あの場面でタイムアウトがあったとしても、結果は変わらなかったと思います」とかぶとを脱いだ。

 田中がエースの勝負強さを誇示し、カークも15得点17リバウンドという数字に加え、チームメートのためにスペースを空けるなど献身的なプレーで高い貢献度を示した。シーズンが終わった時、この一戦はA東京が本来の強さを取り戻した転機として語られる可能性は十分にあるだろう。

エースの田中大貴が勝負強さを示し、劇的勝利へ導いた[写真提供]=日本バスケットボール協会

 文=吉川哲彦