アルバルク東京の小酒部泰暉、「何もできなかった」敗北と屈辱を糧に

チームの主軸として初めて臨んだ大会だけに悔しさもひとしおだ [写真]=日本バスケットボール協会

「何もできなかったです……」

 小酒部泰暉にとって、2021年3月12日の試合はこれまでのバスケ人生の中で一番の大舞台だった。

「第96回天皇杯 全日本バスケットボール選手権大会」ファイナルラウンド準決勝、アルバルク東京宇都宮ブレックスに54−64で敗れた。

 ケガで戦列を離れている田中大貴に代わり、直近のリーグ戦4試合でも先発を務めている小酒部はこの日も先発出場。しかし、堅守の宇都宮相手だとしても、どことなく持ち味の積極性が足りていないように見えた。

 立ち上がりの場面、ドライブでペイント内へ切り込んでも、相手との接触を嫌がり中途半端なプレーが続いた小酒部は、第1クォーター序盤で交代を告げられた。前半は約8分間のプレータイムに留まり無得点。シュートも1本しか打てていなかった。小酒部は自身の前半の出来をこう振り返る。

「やっぱり出だしの部分で、相手のディフェンスに対してアジャストするのが遅くなってしまいました。普段の試合だったらそんなに緊張はしないですけど、こういう大きい舞台でちょっと硬くなってしまったなと……」

 試合前は「いつもどおりミスを恐れず思い切りやろう」と意気込んでいた。だが、全日本の頂点をかけた準決勝、さいたまスーパーアリーナという最大37000人を収容できる大規模会場での試合という独特の雰囲気が、22歳のルーキーをのみ込んだのだ。

 それでもハーフタイム明け、ルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチに肩をつかまれながらコートへ戻ってきた小酒部は、「HCから『いつもより思い切りがない。いつものようにミスを気にせずにアグレッシブやってほしい』と声をかけられたことで、少し切り替えることができました」と、徐々にリズムを取り戻す。

 第3クォーターは積極的にボールに触れ、3ポイントシュートで初得点をマークすると、中盤には思い切りのいいドライブからレイアップを沈めた。しかし、第4クォーターにはディフェンスを変えてきた相手に苦しめられ、この日4つ目のターンオーバーを犯すなど再び影を潜めた。

小酒部泰暉は「今までで一番悔しい」と明かした

「特に若い選手は、このような大きい舞台で緊張してしまうことがあると思うんですけど、そこを早めにアジャストしなきゃいけないです。スタートで出ている以上、やらなきゃいけないと言う気持ちはあったんですけど、今回の大会はそこができなかったです」

 暗い表情のまま試合後のミックスゾーンに現れた小酒部は、最後まで表情が晴れなかったが、「次の試合から切り替えて、アグレッシブにやっていくことが一番価値につながると思います。試合に出ている以上はミスも少なくして、チームを勝たせらように自分のプレーをしていきたいです」と前を向いた。

 リーグ2連覇中のチャンピオンチームに所属しているにも関わらず、今シーズンは既にチームの主軸として欠かせない存在になっている小酒部。昨年からはプレータイムも飛躍的に伸び、現在のリーグ戦では平均17.20分の出場で7.4得点という数字を残している。内に秘めるものにも変化が現れ、「今シーズンはチームを勝たせる、貢献するという気持ちのが大きい」と話す。

「今までで一番悔しい」とも明かした今回の経験を経て、小酒部泰暉はもうひと回り大きな選手に進化してくれるだろう。

 県大会2回戦止まりだった無名の高校時代から、瞬く間にA東京加入まで駆け上がった若者の成長スピードは緩まる気配がない。現在も、そしてこれからも。

宇都宮のタフなディフェンスにあうことで学んだことを今後のシーズンに生かしたい [写真]=日本バスケットボール協会


文=小沼克年
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