2020.05.19
今オフ大型補強で話題をさらったシーホース三河だが、蓋を開けてみればレギュラーシーズン24試合を終えて7勝17敗で中地区4位。開幕5連敗スタートでチャンピオンシップ進出を逃した昨シーズンよりも厳しい序盤戦を過ごしてきた。
天皇杯2次ラウンドを機に、ようやくチームの形が見えはじめ、第13節のレバンガ北海道戦、第14節の新潟アルビレックスBB戦で今季初の連勝。そんな中で、チームの成長に比例するように急成長を遂げている選手がいる。ポイントガードの熊谷航だ。
ちょうど1年前の2018年12月23日、ウィングアリーナ刈谷での2018年ラストゲームとなった新潟戦。三河のブースターにとっては願ってもない“クリスマスプレゼント”として、プロのコートに足を踏み入れた大学No.1ガードは、そのわずか3ヶ月後に名門・三河のスターターの座を獲得。今シーズンはそのまま開幕から正ポイントガードの座に収まった。
しかし特別指定選手として「勢いでやっていた」という昨季から、状況は一変した。今オフに3人の先輩ポイントガードがチームを離れ、長野誠史、會田圭佑の若い2人が加入。実質のルーキーイヤーながら、三河での経験が最も長い熊谷の双肩にかかる重圧は、比べものにならないほど大きくなった。
「今シーズンからは色々と考えることが増えました」という熊谷の言葉通り、シーズン序盤はプレーに迷いが垣間見えることも多かった。当然、発展途上のポイントガード陣を、対戦相手は容赦なく狙い撃ちにした。「どのチームも三河がどういうバスケットをするか分かっていて、ポイントガードにプレッシャーを掛けながら、まず2番、3番にボールを出させない、悪いパスを出させるようにしてくる」。ポイントガード陣が激しいプレッシャーを受けてスムーズなボール運びができず、要所でターンオーバーを犯して勝ち星を手放す試合が続いた。
「正直、僕も『教えてほしい』という気持ちがあったので、(先輩ポイントガードがいない状況で)今シーズンどれだけ成長できるのだろうと考えていたんですけど。現状では助けてくれる人がいないですし、自分で考えながらやっています。
ただ試合をこなすだけでは成長につながらないので、毎試合自分の中で振り返って、良かったところは継続し、悪かったところを改善していくことで、自分自身もレベルアップしていけるんじゃないかなと思っています」
身近にお手本がいることは成長への近道だが、三河の若いポイントガードたちは試行錯誤し、助け合いながら苦境に挑むことで大きな進化を遂げようとしている。
対戦相手のポイントガードからも貪欲に学んだ。
例えば11月2、3日に行われた第7節のサンロッカーズ渋谷戦。第1戦で渋谷のオールコートのプレッシャーディフェンスに苦しめられた熊谷は、翌日の第2戦で、渋谷と同様に前線から激しいプレッシャーを掛け続けた。試合後、熊谷はその意図をこう話している。
「昨日はポイントガード陣が非常に苦しめられて、僕たちも同じことをやらなきゃいけないと思った。渋谷は首位を走っているチームですし、ポイントガードのベンドラメさんは日本代表でもある。これがB1で戦うために必要なレベルだと再認識できました。だから今日は第1クォーターが始まった瞬間から相手のポイントガードにずっとプレッシャーを掛け続けようと決めていました」
渋谷戦以降も、熊谷は激しいディフェンスを継続。12月16、17日の第12節川崎ブレイブサンダース戦では、篠山竜青とバチバチのマッチアップを演じて、観客を沸かせた。
「ディフェンスは自分の持ち味。コートに立ったら年齢も相手が日本代表だとかも関係ない。いかにチームのためにハードにプレーするかということにフォーカスしているので、そこが評価されるのはうれしいことですね。
ディフェンスにフォーカスしないと勝てないことはみんな分かっていると思うし、第1クォーターから自分がハードなディフェンスをして、みんながそれを見て『やるぞ』という気持ちになってくれれば、自分のディフェンスとしては成功だなと思っています」
持ち味のディフェンスだけではなく、北海道戦、新潟戦では持ち前のスピードを活かした鋭いドライブで、橋本竜馬や五十嵐圭らベテランポイントガードを置き去りにして見せた。
「前まではボールへのプレッシャーがすごくて、ボールを運ぶところで苦労していたんですけど、ここ1ヶ月くらいでボール運びにも自信が持てるようになりました。ボールをキープしながら周りを見たり、ピック&ロールの時も3人目の選手が見えるようにもなってきたので、試合を重ねるごとにフィジカルのコンタクトやボールさばきがだいぶ良くなってきたと感じています」とオフェンスでも自信を深めている。
最も固い物質であるダイヤモンドは、同じ硬度を持つダイヤ同士をこすり合わせることでしか磨くことができないそうだ。まさに三河のラフダイヤモンドも、他チームのダイヤモンドたちとのぶつかり合い、研磨され、1試合ごとにその輝きを増している。
「(学んだポイントガードを)挙げだしたら、ほぼ全チームのポイントガードを挙げなきゃいけないですけど。篠山さんの勝負どころでの得点力だったり、北海道戦で言えば橋本竜馬さんの自分の味方を奮い立たせるような声掛けだとか。横目でチラチラ見ていたんですけど、橋本さんの巻き込む力というか、フリースローの時の声掛けはすごく良いなと思いました。僕は持っていない部分なので、ああいったところも勉強になりますね。中地区は他のチームもあまり勝ててないので。そういう運も味方につけて、なんとか年内の残り試合を連勝して来年につなげていきたいです」
三河が本来の輝きを取り戻せるかは、巻き返しを誓うこの若きポイントガードの成長にかかっている。
取材・文=山田智子
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