無観客の金丸劇場。「お客さんがいたら、あとスリー1、2本はいけた」
「なんでこんな時にお客さんいないんだろうと思いましたね」
ヒーローインタビューで金丸晃輔はそう語ると、笑顔を輝かせた。
無観客試合で行われたシーホース三河と横浜ビー・コルセアーズの第2戦。三河のエース・金丸はBリーグ最多記録タイの1試合11本の3ポイントシュートを含む、キャリアハイとなる45得点の大爆発。96-82で快勝し、第1戦の借りを返した。「素直にうれしいですし、チームが勝てたのが一番なので、今日はうれしい日になりました」
クールなオフェンスマシンも、この日のミックスゾーンでは笑顔が絶えず、いつもより少し饒舌だった。
「お客さんがいたら、あとスリー1、2本はいけたんじゃないですか」
そういって報道陣を笑わせると、最後に交代しなければ新記録を達成できたのではという問いかけにも「十分です。チームが勝ったので」と表情を崩した。
今季は怪我もあり、本来の輝きがやや影を潜めていた金丸だったが、中断前の宇都宮戦で7本すべての3ポイントを決める驚異的なパフォーマンスを披露。6年ぶりの代表復帰となったチャイニーズタイペイ戦ではスコアリングリーダーとなる活躍で、点取り屋の才器を見せつけた。
「宇都宮戦の(“ゾーン”のような)感覚とは今日はちょっと違う感じでした。どういう感覚かと言われると難しいんですけど…。試合前から空いたら打つと決めていて、その積極性だけを一試合を通してやり続けようと思っていました。狙い続けた結果、こうなったという感じですね」
それでも、金丸は自分の記録よりもチームの勝利がうれしいと繰り返した。「僕のシュートが入る、入らないに関係なく、うちはみんな攻撃力があるので、今日のように日本人選手が生きるようなバスケットをすれば、ディフェンスにも力が入って自然といい形になる。本当に今日は理想的なバスケットができました」。
第1戦で出た“悪癖”を克服、理想の形で逆転勝利
金丸がチームの勝利を強調したのは、前日の敗戦のショックがあったからだ。
約1カ月の中断期間中、三河は休みなくハードな練習を重ねてきた。「ディフェンスから走る、アーリーオフェンス」に重点を置いて取り組んできたが、前日の第1戦ではその形を全く出すことができず、インサイドの強みを生かそうとするあまりにオフェンスが重くなるという“悪癖”が再び顔を出した。
「この中断期間に相当練習をしてきたにもかかわらず、それを出せなかった。J(ジェイアール桜木)の次に年を重ねている僕からすると、それをチームに落とし込めなかったという部分で感じるところがたくさんありました」
古巣対決となった川村卓也はGame1の敗戦を振り返り、「ゲームを3回振り返って見直した。ああでもないこうでもないと家で色々と考えていたら、なかなか寝付くことができなかった」と悔しさを胸にGame2に臨んでいた。
「昨日は連敗していた開幕当初の良くないバスケに戻ってしまった。今日何とか改善して次に繋げたかった」(金丸)とチーム全員が同じ気持ちを共有していた。
「(PGの)熊谷(航)が結構動かすようなフォーメーションを多くコールすると言っていたので、それに合わせて動いた」と金丸が語ったように、三河は立ち上がりからアウトサイドを起点に攻撃を組み立て、アウトサイドでのテンポの良いパス回しから川村の3ポイントで幸先良く初得点を奪う。
「今日はゲーム中に、若いガードからダバンテ(・ガードナー)に対して、『パスを戻せ』という声が出ていた。ガードとして、遠慮しないでそういう声が出てきたことに成長を感じていた」。一時は13点のリードを奪われながらも、三河の鈴木貴美一ヘッドコーチも選手たちの絶対に勝ちたいというエナジー溢れる戦いに手応えを感じていた。
「前半1桁(ビハインド)だったら間に合うと思っていました」との鈴木HCの想定通り、前半終了間際に金丸が3Pシュートとバスケットカウントで1桁点差に戻して試合を折り返した。
金丸、リーグ最多タイの11本の3ポイント&キャリアハイの45得点
「前半最後のところで金丸選手にバスケットカウントを決められて、あそこから火がついたと感じています」という福田将吾HCが悔やんだように、後半はまさに金丸劇場。
三河は、前半だけで4本の3ポイントを含む17得点をマークし、タッチの良かったエースを起点にオフェンスを展開。「スクリーンに来てくれているし、周りが僕の方を見てくれているなと思ったので、それに合わせて動いて、隙があれば打って。ディフェンスが2人来れば、インサイドの選手に落とすというスタイルでやっていました」(金丸)
金丸はガードナーをスクリーンに使ってマークを引きはがし、3連発で3ポイントを沈め、後半開始4分で一気に9点のビハインドをひっくり返す。横浜も粘りを見せたが、スイッチが入ったオフェンスマシンを止めることはできなかった。
61-60と1点リードで迎えた残り3分から7連続得点、さらにマークを引きつけてガードナーのゴール下をアシストすると、パスカットやリバウンドとディフェンス面でも貢献。この日9本目となる3ポイントを射抜いて、第3クォーターを終える。
第4クォーター開始2分半にコートに戻ると、その1分後に10本目となる3ポイントを成功。ファウル覚悟の徹底マークを逆手に、ガードナーのオープン3ポイントを演出すると、残り3分半に桜木からのパスを受け、Bリーグ記録タイ11本目の3ポイントでキャリアハイに並ぶ42点目を挙げた。
惜しくも12本目とはならなかったが、3ポイントを狙ってファウルを受けると、「しーんとして打ちにくかった」というフリースローを3本しっかりと決めて45得点目をマーク。ガードナーが27得点、川村が14得点で続き、96-82で大勝した。
「今日に関しては、マル(金丸)に『ありがとう』と言いました。言いたいじゃなくて、言いました」と会心の勝利に軽口をたたきながらも、ベテランの川村は気を引き締めることも忘れなかった。
「うちの強さはマルの周りにも得点を取れる選手がいることだと思っています。マルに打たせれば点数が取れるのは分かっているので、その時間を見極めて、あとはテイ(ガードナー)でいくのか、他の選手でいくのか、各試合でそれをばらけさせて総合得点を伸ばしていくポテンシャルがこのチームにはある。ただまだ共通認識が高いレベルに達していないので、チームでもっともっと追求していかなければならない。今日はこのチームが持っているポテンシャルを自分たち自身で少し引き出せた部分があると感じている。今日はマルでしたが、その次は僕自身もチャンスをもらいながら、チームのためにできることをやっていきたいと思います」
金丸を筆頭に、主役級の選手が揃う三河。無観客という難しい状況の中で、チームとしての進むべき道を確信できたこの2試合は大きい。
取材・文=山田智子