2020.10.02

【井口基史のスカウティングレポート】2020-21シーズン・各チームの現在地は?(西地区)

開幕を目前に控えたBリーグ。各クラブの「現在地」は?(写真は昨年の開幕戦)[写真]=B.LEAGUE
鹿児島南高-愛知学泉大-カリフォルニア州立大ベーカーズフィールド校-ベーカーズフィールドカレッジ出身。帰国後FIBA国際代理人資格をアジア初の受験取得。プロリーグ発足後まもなく資格返納しチームスタッフへ。富山-滋賀-岩手-大阪でスカウト/通訳/GM/クラブ代表を経験。現在は様々なカテゴリーのバスケ解説を務める。座右の銘「一緒に日本のバスケを熱くしよう!」

バスケットボールレポーターとして人気の高い井口基史氏の経歴は非常に興味深い。なぜなら氏のプロフィールにあるように「スカウト・通訳・GM・クラブ代表まで経験」しているからだ。開幕を目前に控えた各クラブの現在地はどこなのか? 今シーズンの各クラブの注目すべきポイントはどこなのか? クラブの裏事情を知る井口氏だからこそできるレポートを、東西2地区に分けてお届けする。

文=井口基史

[西地区]

信州ブレイブウォリアーズ 「念願の場所へ。そしてその先の未来へ」

 念願の場所へたどり着いた。2018-19シーズンにB2制覇を果たすも、クラブライセンスを満たせずB2残留となり、2019-20はチームとブースターが自力でもぎ取ってきたB1昇格だ。ただし安心はまだ早い。B1昇格直後にB2へ再び戻るケースは珍しくないからだ。過去B1昇格後1年で降格したのは、4シーズンで西宮・島根・福岡と残留することの難しさがこれからの信州のチャレンジだ。今シーズンはコロナの影響により「降格無し」とはいえ、カルチャーとして常にこのステージで戦う覚悟が試されると言っていいだろう。その覚悟の象徴として、新しく認められたアジア特別枠で、ヤン・ジェミン選手(韓国籍)獲得にいち早く着手したのもその表れだろう。かつ千葉ジェッツから小野龍猛選手の移籍に成功するなど、勝つカルチャーを求めていることが感じとれるリクルートだ。

 目先の1勝と、勝つ文化を同時に求められる、難しいシーズンであることに間違いないが、コントロールの難しいライセンス問題を乗り越えてきたことを考えると、日本アルプスの未来は明るい。昨シーズン、長く球団を支えてきたボランティアチームのウォープル(ウォーリアーズ・ピープルの略)のリーダーに取材した際の言葉を紹介したい。「ウォリアーズの活動はもはやライフスタイルです。怒られるかもしれないがB1、B2はあまり関係ないと思っているので、B1がゴールでは無いと思っています。それよりも私たちが大事にしているのは、ウォリアーズを継続していく、拡大していくことで仲間のつながりを増やしていくこと。それが私達ウォープルのできる役割だと理解しています。」オーケー! ウォリアーズ is READY!!

念願のB1昇格を果たした信州[写真]=B.LEAGUE

三遠ネオフェニックス 「コロナの中で大きな舵を切るフェニックス」

 昨シーズンは開幕から16連敗と歯止めがかからないフェニックスの姿に、苦しんだブースターが多かったシーズンだ。シーズン途中に高校生の特別指定選手として河村勇輝選手がチームのみならず、リーグ全体も盛り上げてくれたが、彼が居た期間も2勝9敗と高校生に重い仕事を託してしまった感は否めない。Bリーグ初年度以降に勝ち越しが無いフェニックスはバスケの先進国であるセルビア化に踏み切った。ヘッドコーチ・アドバイザーともにセルビア籍のスタッフを迎え、外国籍選手にも2人のセルビア人選手がおり、うち一人はPGだ。セルビアはFIBAパワーランキング5位、旧ユーゴ、セルビアモンテネグロ時代も含めると5回のW杯を制すバスケ先進国。

 クラブとして大きな決断を伴うオフだったはずだが、ここでも心配はコロナの影響だ。新規契約となるコーチ・選手ともに入国から合流がスムーズにいくのか。また英語を母国語としないコーチとチームの関係で、特にセルビアは徴兵制の名残からメンタルや規律に訴えかけるコーチも多く、細かいニュアンスが伝わるのか母国語通訳の必要性も見極めたい。ブースターにとって安心材料は河内修斗氏が引き続きトップACとしてチームの一員にいる事。OBでありクラブの歴史も知る河内氏の存在は、急激な変化の中で貴重な潤滑油になるはずだ。クラブとしてはフィリピン代表で自国の注目を浴びるサーディ・ラベナ選手を獲得し、アジア枠も使い打てる手は打った。まずはカルチャーの変化を楽しみながらシーズンが過ごせれば、強いフェニックスが帰って来るはずだ。

三遠に特別指定選手として加入した河村勇輝はチームに勢いを与えた[写真]=B.LEAGUE

シーホース三河 「チームの象徴が引退するも、新たな象徴が帰還」

 昨シーズンのオフの話題をさらったのはシーホース三河だ。みんな大好き金丸様を支えるためにか、ダバンテ・ガードナー選手の獲得に、1秒あれば逆転できる男・川村卓也選手の加入と、3番バース・4番掛布・5番岡田の伝説クリーンアップ級が揃い、リーグ全体を盛り上げてくれた。タツヲ風に言うと、3番ゲーリー・4番落合・5番宇野の方が正解か。そして今シーズンは、オールドシーホースファンを泣かせる、柏木真介選手の三河カムバックと、引退した桜木JR選手の32番を背負うシェファーアビィ幸樹選手の加入だ。桜木JR選手の引退で心に穴の開いたブースターの心を埋めて余りある柏木選手の加入の影響は、コート上のみならずコート外でもポジティブだと想像できる。鈴木貴美一HCのよき理解者として、佐古賢一イズムを継承する、三河の価値を知る男の凱旋が、三河再浮上の狼煙になるだろう。

今シーズン三河に復帰する柏木真介[写真]=B.LEAGUE

名古屋ダイヤモンドドルフィンズ 「待望のホームコートアドバンテージが生み出せるか」

 2017-18シーズンよりチームを率いる梶山信吾HCは名古屋Dの象徴だ。長く選手として名古屋Dや日本代表でも貢献し、シューターとして梶山氏を慕ってきた選手は多いだけに、若いタレント溢れる選手達をどのように導くのか、多くの人が興味を持つ。その名古屋Dにこのオフ迎えられた日本人選手は、PG齋藤選手とSG狩野選手だ。実績ある2人の加入により、自ずとチーム内に競争があるはずだ。PGの枠ではスターターとして名古屋を牽引する笹山選手に加え、いつ出てきても準備ができている小林選手。短い時間でインパクトを残す木下選手もPG登録だ。SGの枠では名古屋でプロとして再評価された日本代表・安藤選手に加え、クリエイトからシュートまでマルチな仕事をする中東選手、タイプは違うがビハインドの時間に頼られている印象のある中務選手もいる。状況次第では日本代表・張本選手や菊池選手のポジションアップも可能で、ラインナップは豊富な選択肢がある。

 誰がプレイタイムをもぎ取ってくるか楽しみだし、バーレル様が心を落ち着かせて、レオ・ライオンズ様がボールをシェアできるのかも大きな見所の一つ。気がかりなのはホームコートアドバンテージを創りだすことができるか。入場料収入は下から3番目(2018-19シーズン・クラブ決算)とココはクラブとして戦っている部分かもしれない。いち早く「このタレント揃いのチームを見ない手は無いんだがやぁ」ということに気がつかせることができるかも、名古屋浮上のキーになりそうだ。

今シーズン名古屋Dのキャプテンを務める張本(左)と副キャプテンの狩野(右)[写真]=B.LEAGUE

滋賀レイクスターズ 「残留力という力は本当にあるのか」

 このオフ、琵琶湖に波風立てたのはレイクスからの大量移籍のニュースだ。自由契約として5人の日本人選手が退団し、2人のレンタル移籍選手が残留せず、生え抜きの小川ACが京都ハンナリーズHCに招聘という出来事があった。コロナの影響は全チームイコールであり、図らずとも他球団にとってはレンタル移籍という手は、こういう事態も生むことを知るきっかけになった。

 『残留力』という言葉あるが、果たしてそんな力は世の中にあるのか。そのTシャツを着て応援したいと思うのか。レンタル移籍は権利でもあるが、そこに100パーセントコミットしてブーストできるのか。18人ベンチ登録と11人出場するJリーグに対し、12人ベンチ登録と5人出場のBリーグで、レンタル移籍の影響について再考は必要ないのか。こういう緊急事態では選手の権利を守りながら、オーストラリアNBLなどが採用している変則サラリーキャップの検討があっても良かったのではなど、考えるきっかけをくれたレイクスのオフシーズン。地域密着型のチームであればこそ、嫌なことにも目を向けた前向きな議論をレイクスブースターともしてみたい。

滋賀レイクスターズは昨シーズン躍進を遂げた[写真]=B.LEAGUE

京都ハンナリーズ 「ハンナリーズが新しい道へシフト」

 京都が新シーズンに向けまず着手したのは、東芝や千葉ジェッツでのキャリアを持つ板倉令奈氏のGM就任だ。新たな道に進むための指揮官は、滋賀生え抜きの小川伸也氏をヘッドコーチとして抜擢。板倉GM、小川HCともに法政大学の同門と考えると、浜口HCが積み上げた9年間から新たな道へのシフトには、信頼関係とスピード感が必要との判断か。村上選手の引退と中村選手のKBL挑戦は、こちらも新たな道への挑戦なので、同じ気持ちで応援してあげるべきだろう。ただ2人を除いても日本人選手4人と3シーズン牽引してくれたマブンガ選手も退団と、京都ブースターが受け入れないといけない事実は多い。

 プロスポーツビジネスの世界では「京都」は難しいと言われてひさしい。京都のような歴史的・文化的満足度の高い地域では、新しいプロスポーツのような地域アイデンティティーの欲求度が薄く、逆にプロチームが多い埼玉県・神奈川県・千葉県の住民はアイデンティティーの欲求が高いのではないか、というのが一説だ。事実、京都の2018-19シーズン・クラブ決算時点では入場料収入がB1で最下位、B2上位より苦しんでいるデータがあり、裏付けてしまっている。ひょっとして友達や家族をゲームに誘うのは恥ずかしいのか。プロバスケなんかで熱くなることは、京都人にはみっともないことなのか。負けてもブーストし続ける姿なんか見られたくないのか。仮定ばかりで恐縮ですが、オッケー分かりましたよ。だったら失うものはないな。京都の歴史だって最初はゼロからだったでしょ。はんなりなんかしなくていい。リーグで2番目に若い小川HCに、泥臭くても戦うチームを作ってもらい、新たな歴史を進んでいくぜ。できるだけ泥臭いほうがインパクトはありそうだな。

今シーズンから京都のヘッドコーチに就任した小川伸也氏(中央)[写真]=B.LEAGUE

大阪エヴェッサ 「大阪の盛り上がり無しに、Bリーグの発展無し」

 このオフのストーブリーグで話題を提供してくれたのが、大阪エヴェッサだ。最大4人の日本人選手が退団という、ブースターを驚かせた後に届いたニュースは、日本籍をもつ海外でプレイしていた選手達の加入だ。駒水大雅ジャック選手、エリエット・ドンリー選手が「BASKETBALL ACTION 2020 SHOWCASE」の日本代表のスクリメイジでベールを脱ぎ、大阪ブースターのみならず全国のファンを楽しませてくれた。大阪のさらなる隠し玉は角野亮伍選手だ。藤枝明誠高校時代に強烈なインパクトを残し、さらに成長の場をアメリカに求めた彼が、Bリーグのステージでどのような躍動を魅せるのか楽しみにしている高校バスケファンは多い。

 いちバスケファンとして求めるものは、阪神-巨人戦のような伝統の一戦やねん。宇都宮でも千葉でもアルバルクでも渋谷でも川崎でも横浜でもええから、関東チームをドスンと突き落とすような伝統の一戦を生み出してほしいねん。大阪単独の月曜ナイターかなんかで、全国のBリーグファン全員が中継を見られるような興行が成立するようにでもなったら、1週間くまなくバスケを楽しめる環境の完成やし。気になる天日HCの体調も、一説には選手よりベンチプレスを上げる強靭な肉体を持つという情報もあるだけに、一日も早く元気な姿でバシバシと関東チームをなぎ倒してもらいたい。

大阪エヴェッサの隠し玉、角野亮伍[写真]=B.LEAGUE

島根スサノオマジック 「Bリーグ再開&加速にはマジックが必要だ」

Bリーグの昇降格の厳しさ、残酷さを一番知っているのは島根だ。初年度から2016-17・B2 / 2017-18・B1 / 2018-19・B2 / 2019-20・B1/とBリーグ創設以来B1を2シーズン続けて過ごしたことはなく、チームだけでなくブースターもその苦楽を味わってきた。昨シーズンも最終順位西地区6位と、決して満足いくシーズンでは無かったはずだ。そのシーズンが始まる前に、島根はこれまでの地域密着型の理念に共感を得た、エンターテイメント業界の雄、バンダイナムコの参画を発表し、さらなる飛躍へ舵を切った。その効果が出始める前に、コロナの影響でシーズンが全うできなかったのは痛かったが、逆を言えば昇降格の影響を気にせずにチーム作りが出来る、初めてのオフを過ごしとも言える。

 バンダイナムコエンターテインメントの企業理念には「アソビきれない毎日を」とある。「そうなんですよ、バンナムさん」島根ブースターは毎年アソビたくても、どこかで「アソビ過ぎたらダメなんだ‼」と心に言い聞かせてきたフシが見受けられますので、ぜひ「アソビきれない毎日を」ご提供のほど何卒宜しくお願い致します。そのためにこの苦しみを誰よりも知る、鈴木HCに再び託したんだと勝手に理解しています。関係ないと言われたらその通りだが、NBAがバブルと呼ばれる集中開催でリーグを再開したのはマジックのホームタウン、フロリダ州オーランドにあるディズニーワールドだ。コロナの状況下でバスケを復活させ、加速させるにはどうしてもマジックが必要なようだ。

島根は昇降格を繰り返している[写真]=B.LEAGUE

広島ドラゴンフライズ 「広島が持つ、バスケどころメンタリティー」

 昨シーズンのB2を信州と並ぶ、8割5分の最多勝率でB1へ駆け上がってきた広島。過去には日本バスケットボール界の司令塔・佐古賢一氏が大野篤史氏(現千葉ジェッツHC)とNBLでチームを率い、天皇杯準優勝まで導いているため、トップカテゴリーへの返り咲きと言ったほうがいいのか。広島といえば過去には、2006年バスケ世界選手権で日本が戦うグループラウンドを招いた地でもあるため、コート上への要求が高いオールドファンも多い。

 その期待に応えるべく、B2で築き上げたベースにさらなる厚みを増してB1へ登場する。先日開催された「BASKETBALL ACTION 2020 SHOWCASE」日本代表のスクリメージで、広島ブースターはお祭り状態、他チームブースターを「あらー」と凍り付かせた、日本国籍を持つアイザイア・マーフィー選手がその一人だ。東京オリンピックに間に合うのではないかと思わせるようなアグレッシブさは広島のみならず、日本全体から注目を浴びるシーズンになるだろう。当然他チームのスカウティングは厳しくなり、B2の時のような高い勝率が維持できるかはチャレンジだが、心強いのは昨シーズン21勝3敗と3回しか負けていないホームでの勝率。初めてのB1を感じさせないホームの雰囲気作りに成功できれば、西地区のみならず東地区からもデンジャラスな存在になるだろう。

今シーズン広島に加入したアイザイア・マーフィー[写真]=B.LEAGUE

琉球ゴールデンキングス 「キングスの歴史と新シーズンの取り組みに注目」

 コロナの影響は2つの点おいてキングスに大きな影響を与えたと勝手に解釈している。1つ目はシーズン中断によるクラブの歴史だ。キングスのホームは今やブースター会員でもチケット入手が困難な状況だ。どれくらい困難かというと、昨シーズンのアルバルクとのCSで、解説後にたまたま入った定食屋でソーキそばを食べていると、お店のおばちゃんからいきなり「あなた井口さんでしょ。私と子供達夫婦も全員ブースタークラブに入っているのに、CSのチケットが手に入らなくて本当に悲しい。井口さんの力で、孫の分だけでいいからなんとかしてほしい」と頼み込まれた。お孫さんのことを考えると胸が痛んだが、なんともならないので、キングスOBの小菅直人氏がオーナーのキングスゲームが見られる名店を紹介しておいたと言えば、伝わるだろうか。それはともかく、歴史を大切にする彼らのホームには、必ずbjリーグ時代からのカンファレンスチャンピオン・リーグチャンピオン・永久欠番のバナーが静かに会場の熱狂を見守っている。コレらは彼らが過去在籍選手・クラブの歴史=ブースターとの歩みをリスペクトし大切に表現しているからだと理解している。

 昨シーズンも中止までに西地区1位につけていたため、西地区優勝クラブになってはいるが、新たな歴史の喜びや、新品バナーを掲げる高揚感を奪われてしまっていないのか気になる。それくらい彼らにとって歴史は重要だ。2つ目は先にも触れたように、入手困難だったチケット収入が与える影響だ。新アリーナ建設の取り組みからも分かるように、キングスのホームにはもう人が入れない。それにもかかわらず2018-19シーズン・クラブ決算でB1・3位の入場料収入を記録しており、おそらく直近もこの数字を上回っているはずで、これらをコロナにより失う可能性があるという現実だ。全チーム同じ影響と理解はしているが、プラスアルファで言うと、誰しもVISITORで悔しい思いをしたことのあるキングスアイランドのホームコートアドバンテージまでも入場制限により、50パーセントに半減させないことがブースターに求められる。どのようにあの熱狂を維持させるのか。キングスの取り組みには注目が集まるし、沖縄でも有明でも代々木でもホームに変えてきた、キングスブースターがどのようにチームを後押しするのか目が離せない。

熱狂的な琉球ブースター[写真]=B.LEAGUE

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