2021.05.22

琉球OBの小菅直人が歩むセカンドキャリア…「新潟と沖縄をつなぐものになれたら」

那覇市内で飲食店を経営する琉球OBの小菅直人さん[写真]=バスケットボールキング
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 2004年に地元の新潟アルビレックスBBでキャリアをスタートさせ、2010年に移籍した琉球ゴールデンキングスでは3度のリーグ制覇を経験。輝かしいキャリアを歩んだ小菅直人は、2016年の現役引退を機に飲食店の経営者に転身し、現在は那覇市内に料理店「酒処 色珠」を構え、訪れた客をもてなしている。故郷を離れて沖縄に定住し、意外とも思えるセカンドキャリアを選んだ理由とは。その選択に至った思いを聞いた。

■沖縄の好きなところは「人」

――まずは、出身地でもある新潟でキャリアを始めた小菅さんが、沖縄に来るに至った経緯を教えてください。
小菅 沖縄に来たのは2010年のことですが、当時所属していた新潟(アルビレックスBB)ではなかなか試合に出られない状況が続いていました。現役である以上は試合に出たいという思いがあったので、自分を求めてくれるチームへの移籍を考えて。そこで最初に声を挙げてくれたのがキングス(琉球ゴールデンキングス)だったので、移籍を決断しました。

――それまで沖縄や琉球ゴールデンキングスにはどのような印象がありましたか?
小菅 移籍するまではあまり沖縄に来たことがなくて、印象としては漠然と「暑いところ」という感じでした(笑)。キングスはお客さんの応援がすごく盛り上がっていて、バスケを好きな方が多いんだろうなというイメージ。当時は桶谷(大)さんが率いて、ディンフェスからすごく走るバスケットをしていて、戦術的にも自分と合っているのではと思ったのも移籍を決めた要因です。

――実際に琉球に移籍して、沖縄に住んでみて、事前の印象と違ったことは?
小菅 特になかったですね。自分が思っていた通りのチームだし、思っていた通りの土地でした。だからこそ、今年で11年になりますが、これだけずっと居れるのかなと思います。

――引退後も定住するほど、沖縄に愛着が芽生えたのかと思いますが、どんなところが好きになったのでしょうか?
小菅 「人」ですかね。沖縄は人と人とのつながりが濃密で、僕もこちらに来てから人付き合いがすごく多くなったし、全く知らない人との交流も新潟にいる時より増えました。そういうところが気に入って、今もずっと残っているのかなと。

■「元キングスの店」ではなく「新潟の料理とお酒が美味しい店」として

――現在は沖縄で飲食店の経営をされていますが、そのセカンドキャリアを選んだ理由は?
小菅 30歳を過ぎたあたりからセカンドキャリアについては考えていたのですけど、コーチ業にはあまり興味がありませんでした。そこで飲食店の経営という道を選んだのは、遠征で全国を周って美味しいものを食べるのが好きだった、というのが一つの理由です(笑)。

――経営されている「酒処 色珠」はご自身の故郷である新潟の料理やお酒を取り扱っていますね。
小菅 僕は縁があって新潟から沖縄に来ましたが、沖縄の方が新潟に行くことってあまりないなと思って。どうせなら地元のものを知ってもらいたいという思いがあって、新潟の料理やお酒を取り扱おうと。うちは父親がお米を作ったりもしていますし、新潟でお世話になった方々を通じて仕入れ先も全部開拓して。そうして、新潟と沖縄の架け橋ではないですけど、二つをつなぐものになれたらなと思って店を始めました。

――沖縄のお客さんもあまり食べられない新潟料理を喜んでくれるのでは?
小菅 そうですね。知らない料理ばかりだと思うので、最初に食べてもらった時はいい感動をしてもらっています(笑)。おすすめはランチで出している蕎麦とタレカツのセット、夜だと佐渡島から仕入れたお刺身を出したりもしています。

[写真]=本人提供


――とはいえ、お店を始めた当初は苦労も多かったのではないでしょうか?
小菅 最初の頃は現役時代の自分を知っているお客さんにたくさん来てもらいましたが、それ以外の一般の方に認知してもらうまでは、すごく大変な時期もありました。5年目になってようやく一見さんが入ってきたり、ネットを見てきましたという方が増えてきたりしています。今はコロナ禍で大変ではあるんですけれど、なんとか乗り越えてまた通常営業ができるようになればと思います。

――一見さんを増やすために意識されたことなどもあったのではないでしょうか?
小菅 EC事業を始めたり、SNSも積極的に毎日アップしたり、クラブのスポンサーの方が来たときは覚えてもらうような挨拶をしたりとかも(笑)。元キングスだったことはそういうところで武器にさせてもらっています。「ああ、キングスの」と多くの人が覚えてくれるので。全然違う仕事なので当たり前ですけど、選手の時にはあまりやってこなかったことをいろいろトライしています。

――そうした努力が実りつつあるんですね。
小菅 最近は自分のことを知らないお客さんも来てくれるようになりました。そういうお客さんにキングスの試合を見ながら、「自分も昔このチームにいたんですよ」なんて話をすると、「え、そうなの?だからでかいんだねお兄さん!」なんてことも(笑)。

――お店としては「元キングス」という要素をそこまで打ち出さないようにしているのでしょうか?
小菅 「元キングスの小菅の店」ではなく、どちらかというと「板長が作ってくれる新潟の料理とお酒が美味しい店」というのを広げたくて。それが今ようやくちょっとずつ実を結び始めたかなと。とはいえ自分を知ってきてくださる方もいるので、玄関に現役時代のユニフォームなどを飾ったコーナーも設けてはいるんですけど、中のほうにはあまりそういう展示はしていません。玄関だけで止めておこうと(笑)。

店の玄関を彩る現役時代の写真やユニフォーム[写真]=バスケットボールキング

■リーグ優勝に匹敵する喜びを求めて

――お仕事の中で一番喜びを感じる瞬間は?
小菅 それはもう、お客さんが帰る時に「おいしかったです」と言ってくれる瞬間です。お酒も、料理も、それが一番の喜びです。自分が作っているわけではないんですけどね(笑)。

――現役時代に感じた喜びと比較すると?
小菅 現役の時の喜びとはまた違うかな……。勝った時のあの感じとは。引退してこの仕事を始めてから、まだ現役の時を越える喜びはないですね。

――リーグ優勝を成し遂げた時に匹敵する喜びを今の仕事で感じるとしたら、どんな瞬間になると思いますか?
小菅 「自分がいない時に店が満席になる時」ですね。扉の影からそーっと見て「あとはよろしく」ってできたらいいなと(笑)。今は人が少ない時はいいんですけど、お客さんがたくさん入った時は自分が出ないとなかなかお店が回らないので。

――その満席の瞬間が、現役時代とは違う現在の目標ですね。
小菅 そうですね。自分は働かずに、もうずーっとお客さんと一緒にお酒を飲みながらキングスの試合を観戦できるような時が来ればいいですね(笑)。

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