2021.08.26

【2021-22シーズン版井口基史のスカウティングレポート】各チームの現在地は?(東地区編Part2)

6年目のシーズンに臨むB1各クラブの現状を井口基史氏が独自の目線でチェック[写真]=B.LEAGUE
鹿児島南高-愛知学泉大-カリフォルニア州立大ベーカーズフィールド校-ベーカーズフィールドカレッジ出身。帰国後FIBA国際代理人資格をアジア初の受験取得。プロリーグ発足後まもなく資格返納しチームスタッフへ。富山-滋賀-岩手-大阪でスカウト/通訳/GM/クラブ代表を経験。現在は様々なカテゴリーのバスケ解説を務める。座右の銘「一緒に日本のバスケを熱くしよう!」

 Bリーグ開幕までいよいよ1カ月を切った。この日を待ちわびたファン・ブースターは各クラブの状況に気をもんでいることだろう。そこで今シーズンも開幕を前にバスケットボールコメンテーター井口基史氏による各クラブのレポートをお送りしたい。

文=井口基史

千葉ジェッツ「ハングリーなチャンピオン」

2連覇を目指す千葉ジェッツ[写真]=B.LEAGUE


 あらためてバスケは同じロスターを見続けることが難しいプロスポーツだと実感させてもらったのが昨シーズンチャンプ千葉。セバスチャン・サイズ選手(アルバルク東京へ移籍)だけでなく、CSでエナジーを爆発させ、千葉にモーメンタムをもたらしたコー・フリッピン琉球ゴールデンキングスへ移籍)も移籍するという「優勝しても同じロスターはないのね」と、最近Bリーグを好きになってくれた人にはある意味驚きだったかもしれない。

 ただしその移籍もすべてがネガティブではなく、見方を変えるとロスターがシェイプされた印象にもなる。バスケは40分しか試合時間はなく、それぞれ違う仕事のできるタレントを持つロスター全員に、平等にチャンスを与えることは困難で、新シーズンは一人ひとりの役割がよりクリアになりそうな印象。

 その分それぞれの仕事に対する責任は増しそうだし、なにより誰誰の移籍で負けたと言われるのは絶対に嫌なはず。日本代表活動が長かった富樫勇樹選手、ギャビン・エドワーズ選手には心と身体をフレッシュに戻す時間が必要なはずだが、それ以外のメンバーがさらにハングリーになったチャンピオンを見せてくれるかもしれない。

 誰にも聞かれていないが、次期日本代表HC候補を挙げるなら大野篤史HCに日本を率いてほしいと個人的には思っています……周りはBリーグの同世代HC陣にアシスタントとして固めてもらって……アシスタントは4人でも5人でもいいと思っています……失礼しました。

アルバルク東京「アルバルクか? アカツキファイブか?」

A東京は安藤、ロシターといった日本代表クラスの選手の獲得に成功した[写真]=B.LEAGUE


 A東京のことは日本のウォリアーズ? ネッツ? なんとお呼びすればいいんでしょうか⁉ 昨シーズン終盤に不在だったこともあり、契約最終年と噂されたルカ・パヴィチェヴィッチHCの残留&再びリーグ制覇するんだ、という強い決意表明ととれるライアン・ロシター選手(宇都宮から移籍)、セバスチャン・サイズ選手(千葉から移籍)獲得にリーグ全体が揺れたこのオフ。さらには日本代表候補の安藤周人選手(名古屋Dから移籍)も加えたとくれば、ほぼ日本代表かと思える彼らが、アカツキファイブユニフォームで試合に登場しても、暗転中は意外と誰も気付かないのではと余計な心配をする。

 いくぶんスリムになったがまだロスターは12名を超えており、試合より練習がキツイと評されるA東京のロスター争いは今シーズンも健在だろう。数えてみたらBリーグチャンピオンの味を知るのは5選手と、それだけこのクラブに居続けることは難しいのだろうと思い知らされた。お台場での1万人規模のアリーナ構想も報道されており、プレミアリーグ(新B1)への階段へエンジンふかせて登り始めるシーズンの開始だ。

 宇都宮戦(ロシター選手)、千葉戦(サイズ選手)、名古屋戦(安藤周人選手、須田選手)、島根戦(安藤誓哉選手)、大阪戦(竹内譲次選手)、三遠戦(津山選手)と見どころ満載のシーズンを一番エンジョイできるのはアルバルカーズではないか!

サンロッカーズ渋谷「五輪でベンドラメ・レオをもっと見たかった」

日本代表活動を経て、今シーズンさらなる躍進が期待されるベンドラメ[写真]=B.LEAGUE


 このオフのSR渋谷の編成は難しかったはずだ。献身的なハッスルを見せてくれていたチャールズ・ジャクソン選手(広島へ移籍)、苦しい時のリズムチェンジャーだった山内盛久選手(三遠へ移籍)、どのポジションでも結果を出してくれたユーティリティー野口大介選手(B3長崎へ移籍)の移籍ニュースは、フリーイエローには難しい感情のオフだったはず。

 ただこれまでSR渋谷はロスターが12名を超えており、毎節誰かがベンチ入りするかはチームもブースターも悩んでいただろう。特別指定加入の時期になるとその悩みは増したはずで、他チームから請われた結果の移籍であれば受け止めるしかない。

 伊佐勤HCがCSでも貫き通した『ハチ公』、『スクランブル交差点』に続く渋谷名物『タイムシェア』が今シーズンも継続なのかはプレシーズンから楽しみなところであり、開幕スタメン予想はさらに難しさを増す。オリンピック本番と直前の強化試合を通してベンドラメ礼生選手が見せてくれたパフォーマンスは、他チームのブースターからさらにリスペクトを集めたはず。Bリーグでの躍進はもちろんだが、彼がけん引する天皇杯の一発勝負トーナメントで、再びSR渋谷がタイトルを獲ったとしても、驚いてはいけないだろう。

川崎ブレイブサンダース藤井祐眞が日本代表に選ばれるまで見守る会・会報」

過去2シーズンはBリーグでさまざまな個人賞を獲得した藤井[写真]=B.LEAGUE


 長く川崎を応援する方、最近川崎を好きになった方、ともにこのオフの別れはキツかったはず。彼自身「このクラブでキャリアを終えるのだろうなと勝手に思っていました。」とコメントしたとおり、「えーそうです! 私も、あなたも、みなさんも。そう思っておりました!」辻直人選手の新しいチャレンジには応援しかない。

 また青木保憲選手(広島へ移籍)も広島へ加入したのをみると、広島ホームで川崎ファンの皆さんをお見掛けする機会が増えても不思議ではない……広島のMD担当の皆様、ぜひとどろきでも広島グッズを売っていただきたく、ご準備のほど何卒宜しくお願いいたしますと思ったら、川崎vs広島は4月16・17日の(広島サンプラザホール)だけでした。

 帰化選手であるニック・ファジーカス選手を生かしたスリービッグのラインナップに注目が集まったが、鎌田裕也選手の川崎カムバックを見ると、スリービッグか機能しないケースでも鎌田選手の起用によりラインナップのオプションが増えたとみえ、コーチングスタッフのさまざまなシチュエーションを想定した工夫を感じるリクルートだ。

 また長く川崎を応援する方々の辻選手移籍の精神的ダメージを抑える効果もあったとみていいだろう。永吉佑也選手(川崎→京都ハンナリーズ)→鎌田選手など歴代、川崎のブルーワーカーの系譜をみても、DeNAになっても変わらないものもあるなぁとか言ってみたりする。

横浜ビー・コルセアーズ「ヨキヨキではない」

かつての川村やチェンバースのようなクラブの顔となる選手が求められる横浜[写真]=B.LEAGUE


 カイル・ミリング元HCは「家族のためにもフランスに戻る」という退団情報がシーズン中にあったため、広島移籍の一報の際はさまざまな憶測が流れたが、結果的にビーコルブースターにはヨキヨキなアクションではなかっただろう。しかしビーコルブースターが判断することだし、こういう遺恨移籍(笑)もプロスポーツ的にはエンタメになってしまう。

 注目の遺恨試合(笑)はAWAY 1月26日(水)広島サンプラザホール、HOME 4月20日(水)のトッケイセキュリティ平塚とビーコルブースターがどのようにホームで迎えるのかは楽しみすぎる。個人的には青木勇人HCの横浜復帰はうれしいニュースで、横浜のカルチャー作りに長く携わってほしい。なにせビーコルのアンダーカテゴリーは海賊だけに宝の山で、宝の持ち腐れにせず刈り取れるトップチームになる使命がある。

 ただピンチの時に短い時間でチームを救ってくれた竹田謙選手(今シーズンよりGM就任)はもうベンチにはおらず、困った時に頼れるのは自分の力か、隣に座るチームメートだけだ。横浜には横浜エクセレンス(B3)が東京から転籍してきたばかり。さらにはベイスターズ(プロ野球)、横浜F・マリノス(J1)、横浜FC(J1)、Y.S.C.C横浜(J3)とプロスポーツ大激戦区で、この街でリスペクトを得るにはコート内外で多くのチャレンジが必要だ。

 川村卓也選手(B2西宮在籍)→アキ・チェンバース選手(群馬へ移籍)と続いた「ビーコルは俺だ!」となれる選手の登場も、この街で成功するには必要かもしれない。

新潟アルビレックスBB「再びリスペクトを取り戻す過程」

今シーズンから指揮官として新潟を率いることとなった平岡HC[写真]=B.LEAGUE


 このクラブなければプロバスケもBリーグもなかった。リスペクトし続けてきたクラブだけに、昨シーズン後半からここまで一連の流れでチームへのダメージは無視できない。

 それでもレジェンド達が帰ってきてくれた。昨シーズンの記事(【井口基史のスカウティングレポート】2020-21シーズン・各チームの現在地は?(東地区))でも触れさせていただいたが、日本最古のプロバスケクラブ再建の仕事は、ふたたび新潟を知る男たちに託された。

 観客席までルーズボールを飛び出していく姿で何度も朱鷺メッセを揺らした、ボンバーの異名を持つ平岡富士貴氏がヘッドコーチとして新潟復帰。先輩たちが創った「新潟の選手はこうあるべき」という姿を、プレーと背中で表現した最初の選手といえる藤原隆充ACも新潟へ戻った。しかも二人はB2群馬をB1昇格へ導いた直後であり、古巣の危機を見つめ、招聘に応えた形だろう。

 ブースターは忘れてはいないはずだが、2018-19シーズンに新潟は中地区優勝を果たしているが、その時を知るのは池田雄一選手ただ一人。「もう新陳代謝は終えたんだ」と思うしかない。バスケ界に地域密着型クラブという言葉を生み、プロバスケの歴史を作った新潟が、再びリスペクトされるチームへ生まれ変わるであろう過程を、オールドファンにはもう一度見届けてほしい。

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