2021.09.19

【JBA審判グループに聞く!(後編)】「JBAプレーコーリング・ガイドライン」の解説

[写真]=B.LEAGUE
鹿児島南高-愛知学泉大-カリフォルニア州立大ベーカーズフィールド校-ベーカーズフィールドカレッジ出身。帰国後FIBA国際代理人資格をアジア初の受験取得。プロリーグ発足後まもなく資格返納しチームスタッフへ。富山-滋賀-岩手-大阪でスカウト/通訳/GM/クラブ代表を経験。現在は様々なカテゴリーのバスケ解説を務める。座右の銘「一緒に日本のバスケを熱くしよう!」

待ちに待った新シーズン開始直前! 昨シーズンにトライした、ルールやJBA審判グループの取り組みについて紹介し、リスペクト文化醸成のために始めた企画の第2回! 後編は新シーズンに向けて示された「JBAプレーコーリング・ガイドライン」について解説していただきました。

※各項⽬の映像は本ガイドラインへの理解を深めていただく⽬的で使⽤しています。映像中に登場する特定のチームや選⼿、審判を批判・評価する⽬的のものではありません。

取材・文=井口基史

取材協力

上田篤拓(日本バスケットボール協会 審判グループ シニア・テクニカル・エキスパート)
静岡県出身。bjリーグのプロレフェリー時代にはNBAレフェリーを目指し、日本人としては初となるNBAサマーリーグにてレフェリングを経験した。現在はJBA審判グループ シニア・テクニカル・エキスパートと国際バスケットボール連盟(FIBA)レフェリーインストラクターを務める。

高森英樹(日本バスケットボール協会 審判グループ アシスタントマネージャー)
神奈川県出身。新潟アルビレックスBBにて通訳~強化部まで13シーズンに渡り従事。現在はプロチーム所属経験を活かし、JBA審判グループにて審判派遣、研修などの運営を担当し、コートの外から全カテゴリーのバスケットボールを支える。

「JBAプレーコーリング・ガイドライン」からピックアップ

――後編では先日公開されたばかりの「JBAプレーコーリング・ガイドライン」の中からピックアップして解説をお願いしたいと思います。

トラベリングについて
上田
 各カテゴリの競技者の間でも話題となったと思います「0歩目」、いわゆる「ゼロステップ」に絡めて、トラベリングについて少し触れたいと思います。

 新しいルールではありませんが、2017年にトラベリングのルールが一部変更され、人間の生体的な動きを制限してしまうような当時のトラベリングに関する規則や、バスケットの自然な動きの中で生まれるステップを、細かく制限してしまうトラベリングの判定が無くなり、よりバスケットボールを楽しめる環境になりました。

 その後、0歩目=ゼロステップと呼ばれるほど、理解度が少しずつ浸透したのですが、国内においては競技者や指導者からも、0歩目とは呼べないような足の動きについて、「トラベリングではないのか?」という声が多くなってきました。そのようなルールの浸透度と、現場からの声をふまえて、改めて周知と確認の意味で、ご紹介します。

 特にこちらの映像のように、0歩目が適用されないシーンで、トラベリングがあやふやなケースになっていないかという確認です。特に今シーズン、トップリーグでも気を付けたい「軸足の踏みかえ」と呼ばれるステップです。このように、止まった状態でボールをもらったとき、ゼロステップは適用されないため、「踏みかえ」としてトラベリングのコールが適切な場面です。

 Bリーグ・Wリーグは大学、高校などのカテゴリからモデルとされ、彼らの練習で参考にされている存在です。改めて「正しいステップを踏もう」という啓発の意味を込めてトップリーグの「ヘッドコーチミーティング」(プレーコーリング・ガイドラインの紹介の場)でも共有させていただきました。

 トラベリングコールはファウルと同じように、難しい判定でもあります。普段の練習からプレーヤーやコーチもアジャストしていただければゲームでのトラベリングが減り、チームと協力して、よりスムーズなゲーム展開を提供していけると思っています。

プロテクトシューターとは
――コチラは言葉として元々あったと思いますが、新しいファウルではないですよね。
上田
 そのとおりです。ファウルの種類が増えたわけではなく「オフェンス側のプレーヤーがショットのために正当にジャンプをした場合、そのあと着地場所を確保する権利がある」という確認の意味で示しました。

 過去には、ショットがリリースされたあとの接触として、または、シューターの足もとにディフェンスが入ったとしても、マイナーなコンタクトと、ノーコールとして判断されていたケースが多い時期があったと思います。

 ここで改めて示す理由として、ファウルがあればコールすることを再確認し、プレーヤーをケガから守ることも目的の一つです。ファウルを伴うコンタクトで足もとに入ったことで、足首や膝のケガのリスクを回避することも、プレーヤーを守るために大切なことです。

 またシューターの着地場所の権利を明確にすることで、ひょっとするとケガを恐れず気持ちよくプレーでき、個人得点やリーグ平均得点が上がるなど、副産物が生まれる可能性もあるかもしれません。プレーヤーは分かると思いますが、これらのコンタクトは見た目は大きく見えにくいですが、実はシューターやゲームに与える影響は大きいという点から、新しいファウルではありませんが、意識付けしようという趣旨です。

 ここ数シーズンは、レフェリーもしっかりコールするシーンが増えていますし、プレーヤーもしっかりアジャストしてきてくれているように感じています。

シューターのキックアウトとは
上田
 そうしたプレーヤーのアジャストにより、ディフェンス側はファウルや接触をさけてシューターに対してプレーしますが、今度はオフェンス側が「シューターのキックアウト」などと呼ばれるディフェンスファウルに見せかけるコンタクトを誘うプレーがあります。

 シューターが、必要以上に手や足などを広げて触れ合いを起こした場合は、ショットのボールが手から離れる前はオフェンスファウルとして判定します。

 補足としては、この動画のようにショットのボールを「リリースした後」に、シューターのキックアウトによりコンタクトがあり、ファウルがコールされたケースがあるとします。

 これはFIBAルールではボールのリリースが先ですので、ショットが入った場合の得点は認められます。チームファウルが5つ以上の場合は、オフェンスファウルではなく、ボールにコントロールがない状態でのファウルですので、相手にボーナスの2ショットが与えられます。

 余談ですが、NBAなどではこのようなシューターが起こすファウルは、すべてオフェンスファウルとして処置していましたので、「ショットが入ったとしてもキャンセル」「5ファウルだとしてもボーナスなし」で処理されますので、勘違いしやすいケースかもしれません。

レフェリーが普段から行わっている取り組み
高森
 あまり馴染みがないと思いますが、審判の専門用語では「FOOT・UP・LANDING(FUL)」と呼び、以下の3点にしっかりとアングルをもって判定できるポジションに行こうという技術的な取り組みをしています。

●FOOT
ショットが2点なのか3点なのかに関するラインの確認

●UP
空中のシューターにイリーガルな接触はないか、ブロックショットはリーガルかの確認

●LANDING
シューターの着地場所を確保する権利が守られているか、シューターのキックアウトがないかの確認

 それらに加えて、スクリーンが同時に起きていることも多いですので、マルチタスクの状況で判定が求められる、ある意味レフェリーの腕の見せ所でもあるかもしれません。

上田 判定にアプローチするために、さまざまな取り組みをしていますが、最近のトレンドであるステップバックなどのショットもあります。

 よく起きるようなプレーは事前に映像でスカウティングし、FOOT・UP・LANDINGまでを一連のセットとして見極められるように、ポジションアジャストと呼ばれる、判定に必要なポジション、アングルにいるように技術的な向上を常に目指しています。

アクトオブシューティングとは

上田 アクトオブシューティングとはショットの動作を意味します。ここでは、下記の2種類を特に紹介したいと思います。

リップスルー

 このシーンはディフェンスの手はイリーガルな状況ですので、ディフェンスファウルをコールしています。

 ファウルのコンタクトが起こされた時点では、オフェンスは持っているボールを「横から横(Side to Side)」に動かしている時点で起きており、実際にショットのためのアップモーションを起こす前にコンタクトが起きているため、アクトオブシューティング中とはみなさず、フリースローは与えられません。

 これを許してしまうと、ディフェンス側はファウルとフリースローという二重のペナルティになってしまうともいえると思います。ただチームファウルが5つの場合はボーナススローの対象となります。

ファウルによってボールが一時的にシューターの手を離れるケース

上田 アクトオブシューティング中のプレーヤーが、ファウルをされたことで、ボールが⼀時的に⼿から離れ、その後もプレーを止めずにひと続きの動作の中でボールをキャッチしてショットを完了した場合、アクトオブシューティングは継続されていると判断され、ショットが成功すると得点を認め、さらに1本のフリースローが与えられます。

 競技者や指導者の中には、ひと続きのプレーだったとしても、ファウルが起きてボールが手から離れて、つかみなおした場合は、新しいショットだと捉える方も多い状況に関して、FIBAから通知があり、ココで改めて整理しました。ひと続きの動作であるかどうかがポイントですので、ご覧いただく中で違和感のないプレーだと思います。

――余談ですが、このオフにNBAのジェームズ・ハーデン(ブルックリン・ネッツ)選手に見られる、ショット・フェイクによって相手を飛ばせて、そのディフェンスに当たりにいき、フリースローをもらうプレーについて、オフェンスファウルをコールするケースがあるという方針が示されました。JBAでの理解はどうなのでしょうか?

上田 それぞれのプレーによって種類が違いますので、一概には言えませんが、ショットフェイクによって実際にディフェンスが飛んでしまっているが、降りてきている位置が必ずしも、シューターのシリンダーの中ではないケースだと思います。

 フェイクで飛んでしまったディフェンダーに対して、相手に向かって必要以上に飛んで体を当てに行っているプレーに対しては、NBAでもFIBAでもオフェンスファウルはコールできますので、同じ理解で大丈夫です。オフェンス、ディフェンスともに、イリーガルに飛んでしまっている場合は、どちらがより大きな責任があるかによって判定されますので、オフェンス側により大きな責任がある場合はオフェンスファウルになります。

アンスポーツマンライクファウル

上田 こちらも変更ではなく、昨シーズンからの引き続きのルールですが、改めて「クリアパス・シチュエーション」と呼ばれるシーンで、どのような状況ではアンスポなのか、ノーマルファウルなのかを紹介しています。

 大きな影響のある判定ですので、改めて足並みそろえるために共有しておきたいですね。

アンスポーツマンライクファウルにならないケース

上田 この動画のように、スティール直後で、それまでディフェンスをしていたチームにボールのコントロールが完全に移っていなかったとしても、その後、速攻などで確実にスコアにつながる状況(クリア・パス)で、攻めようとするプレーヤーとバスケットの間に相手のプレーヤーがいない、かつ、接触を横や後ろからイリーガルに起こしてしまった場合は、アンスポーツマンライクファウルと判定されるケースがあります。

アンスポーツマンライクファウルになるケース

レフェリーの取り組みとは

上田 以上、2021年9月のJBAプレーコーリング・ガイドラインより抜粋して説明させていただきました。いずれもルール変更ではありませんが、理解の共有のためにトップリーグのヘッドコーチたちにご参加いただき、オンラインミーティングで案内しました。ファンの皆さんに知ってもらいたいのは、試合中の判定について、レフェリーたちも1回見れば判定できる、判断できる、誰でもできる訳ではありません。

 トップリーグでの判定が国内のモデルケースになるように、毎試合映像で確認し、ポジションのアジャストが甘くないか、ルールの理解が整理できていたのか、ミスがあった場合は何が原因でミスがあったのか。難しい判定でもコールが上手くできた場合は、何が良かったから正しい判定に繋がったのか?

 そういった細かい改善を現場の審判は常に繰り返しています。メカニクスと呼ばれる「いいアングルに入るにはどうすべきか」「ローテーションはどうだったか」といった技術をアップデートし、次の試合につなげています。判定が、ゲームの結果だけでなく、プレーヤーには契約や人生に大きな影響があると理解したうえで取り組んでいますので、レフェリーの仲間の取り組みにも注目してもらえると、我々にとってはより励みになります。

毎シーズン、選手、コーチ、ファンがレフェリーに求める要求度はあがり、さらにスポーツくじ、新B1という未来が待ち受けている。リーグの発展のために欠かせない存在であるレフェリー、テーブルオフィシャルズなど、支える方々の環境改善にも、応援する姿勢を示していきたいと感じたインタビューだった。甘い目で見るのではなく、イージーなターンオーバーやミスジャッジにブーイングするのと同じように、グッドプレーや素晴らしいコールには拍手を送り、ゲームへのリスペクトを深めたい。(井口)

 さらに詳しい「プレーコーリング・ガイドライン」はコチラから確認できます。
『20210901プレーコーリング・ガイドライン【映像付】』http://www.japanbasketball.jp/files/referee/rule/5on5_Guide20210901.pdf

※各項⽬の映像は本ガイドラインへの理解を深めていただく⽬的で使⽤しています。映像中に登場する特定のチームや選⼿、審判を批判・評価する⽬的のものではありません。

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