2022.09.01

B1の舞台に返り咲いた笹山貴哉、古巣との初“名古屋ダービー”への思いを語る

名古屋Dで長くプレーし、昨季からFE名古屋に在籍する司令塔の笹山 [写真]=B.LEAGUE
愛知県在住のフリーライター。バスケットボール、サッカーなど主にスポーツを取材。週末は岡崎市の乙川で船頭をすることも

 B1で初めて実現する“名古屋ダービー”で、両チームの在籍経験を持つのがファイティングイーグルス名古屋笹山貴哉だ。名古屋ダイヤモンドドルフィンズからB2のFE名古屋に移籍した昨季、目標に掲げた「B2優勝B1昇格」を果たした。古巣とも対戦するB1復帰のシーズンを迎える心境を聞いた。

「アウェーの選手がすごいプレーをするとホームのお客さんがざわつく。そういう“悪者感”ってけっこう好きなんですよ。ホームで応援してもらえるのはもちろんいいんですが、アウェーの“ガヤ”の立場から沸かせるのもすごく楽しい。ドルフィンズアリーナにアウェーで足を踏み入れるのは初めてになるんですけど、なんか楽しみ。成長し、少しでも変わった自分を見せたい」

 三重県から洛南高校(京都府)へ進み、筑波大では主将を務め、名古屋Dの前身の三菱電機に入団。全国タイトル獲得の歴史を持つチームでずっとプレーをしてきた。そんな陽の当たる経歴や童顔のイメージからは意外なヒール(悪役)発言で、2シーズンぶりのB1で挑む“名古屋ダービー”への気持ちを語る。

 シーズン中の2023年2月に30歳となる。「大台ですね。びっくりです。早いなっていうのもあるし、よく30歳までやっているなと自分で思います。昔からケガが多かったので」。ケガが移籍を考える一つのきっかけだった。

 Bリーグ初年度の2016-17シーズンは全60試合で先発した。得点能力も高い左利きの司令塔は日本代表合宿にも参加。翌シーズンに就任した名古屋Dの梶山信吾ヘッドコーチ(現ゼネラルマネージャー)は当時、「うちはササのチーム」と信頼を寄せていた。しかし、脚の肉離れなどケガにたびたび見舞われ、年々、出場機会が減った。在籍7シーズン目を終え、「開幕でいなかったり、途中で外れたり、ケガもあって試合に出ていなかった。B1で控え選手としてある程度のプレータイムでやるのか、B2に行ってしっかり試合に出るのか、と考えると、やっぱりメインで試合に出てチームを勝たせたい、という思いの優先順位が高かった」。大学時代に入団を誘ってくれた梶山HCの退任が決まったことも、気持ちを移籍に傾かせた。「プロ選手としていろいろ経験させてもらったチームで感謝もあり、寂しさもあった。ただ、自分のキャリアを考えた時、大きな変化、決断をするなら今だと思った」

 いくつか届いたというオファーの中からFE名古屋に決めたのは「本気度」を感じたからだ。「『B2優勝B1昇格』という目標は以前からあったようでしたが、新しいメンバー構成を知って、本気だと感じた」。B2屈指の顔ぶれに「一緒にやれたら楽しそうだったし、僕にすごく必要性を見出してくれた。迷いなくトントン拍子で話が進んだ。なので、同じ名古屋のチームだから来たわけではないです(笑)」。その感触や高い下馬評のどおりに、FE名古屋は昨シーズンを勝ち抜いた。

昨季レギュラーシーズンは1試合平均6.8得点3.6アシストを記録 [写真]=B.LEAGUE

 FE名古屋は初のB1へ、川辺泰三HCが続けて指揮を執り、大きなメンバーの入れ替わりはない。笹山は、2年ぶりのB1は厳しい戦いが続くと覚悟している。「新しいメンバーも含めてちゃんと意見を言い合ってコミュニケーションが取れているし、去年からの選手が多いのでチームビルドはスムーズにできると思う。昨シーズンはB2でこれだけいたら勝てるよというメンバーで結果もそうなった。しかし、B1は自分たち以上のチームしかないので、それを超えないといけない。これまでに昇格したチームは苦労しているし、必ず僕らも壁にぶち当たる」と予測する。

 このオフは新任トレーナーの指導で強度の高いウエートトレーニングに取り組み、笹山も肩周りが大きくなってきたようにみえる。「B2とは体のサイズもフィジカル面も全然違うので、みんな『あーだこーだ』と言いながらも、ちゃんとわかってキツいメニューをやっています。でも、一番必要なのはチーム力と団結力だと思う。1人では絶対に打開できないし、守ることもできない。その部分はまだB1で戦うには足りない」。昨シーズンのFE名古屋は、レベルの高い個性的な選手たちが、我を捨てて一つになったことが勝因と言われた。笹山はその強みをさらに磨き上げてB1の開幕を迎えようと考えている。だから“名古屋ダービー”について「思い入れはあるし、負けたくない。だが、僕だけが古巣の戦いということで前のめりになってもいけない。チームの中での自分というところをしっかりと持ってプレーできればいい」と話す。

「若い時は自分勝手にやっていた部分が正直あって、先輩たちが尻拭いしてくれるっていう気持ちがあった。ベテランの部類に入って来ているので、流れの中で必要なことを必要な時にできるかってところがすごく求められていると思うので、そういう選手になりたい」。もう一花咲かせたい、と決断した移籍を経て、考え方も変わってきた。「ケガのことを悩んでも、どうにもできない部分がある。最近は、骨折とか大きなケガじゃなければいいのかなと思い始めた。自分がずっと試合に出るわけでもないですし、頼れるチームメートも大勢いるので、自分がすべてを背負いこむ必要はない」。プロとして持ち続けている向上心や熱さを保ちながら、少し肩の力を抜いた自然体が同居している。

“名古屋ダービー”は9月3、4日に両チームのホームアリーナでプレシーズンゲームが1試合ずつ開かれ、レギュラーシーズンは2023年3、4月と終盤に対戦が組まれている。「古巣と戦う、という経験が初めてなので、どういう感情で試合に入ればいいのか、やってみないとわからない部分がある。プレシーズンは調整途中なので雰囲気を楽しめればいいかな。シーズンの対戦はお互いにどんな位置にいるかで戦い方が変わってくるでしょうね。そこまでケガをしないように頑張りたい」

古巣との初対戦へ「プレシーズンは調整途中なので雰囲気を楽しめればいい」 [写真]=松本行弘

■プレシーズンゲーム情報
・9月3日15時5分
名古屋ダイヤモンドドルフィンズvsファイティングイーグルス名古屋(@ドルフィンズアリーナ)

・9月4日15時5分
ファイティングイーグルス名古屋vs名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(@名古屋市枇杷島スポーツセンター)

文=松本行弘

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