2022.11.07

佐々木クリス単独インタビュー「バスケを楽しむためのアプリ的存在、それがスタッツなのです」

佐々木クリス氏がバスケとスタッツの関係性を解説 [写真]=野口岳彦
2000年より、バスケットボール専門で取材活動中

Bリーグが開幕して約1カ月。現在、B1は代表活動によるバイウィークに入っている。そこで今シーズンの各チーム、選手の戦いぶりについて、佐々木クリス氏にお話をうかがった。インタビューでは、『B.LEAGUE #LIVE 2022』の話を交えながら、バスケットボールにおけるスタッツの重要性、楽しみ方を聞いた。

取材・文=吉川哲彦
写真=野口岳彦
※インタビューは10月14日に実施。チーム成績、スタッツはその時点のもの

スタッツはバスケの試合を楽しむためのアプリのようなもの

――まずは開幕した7シーズン目のBリーグについて、ここまでの印象はいかがですか?
佐々木
 正確にはBリーグではありませんが、B3リーグで東京ユナイテッドバスケットボールクラブが国内クラブ主幹試合最多入場者数(9295名)の記録を作って、コロナ禍でまだ歓声を上げられない中でもバスケットボールを楽しむ文化が着実に前進してくれていると感じました。パフォーマンス面では、宇都宮ブレックスは昨シーズンも1勝3敗でスタートしていますし、体制が新たになったチームも多いので、チーム作りが早いのはどのチームなのかというところを今は見ていますね。具体的には三遠ネオフェニックス滋賀レイクスに注目していますし、選手でいうとドワイト・ラモスレバンガ北海道のディフェンスを改善するのにうってつけの人物。他にも小粒だけどピリッと辛いような選手が、掘れば掘るほどいるのがBリーグだと思います。

――この先どういうシーズンになっていくと期待されていますか?
佐々木
 ファイナル進出の経験がある、いわゆる四天王のチーム(宇都宮、千葉ジェッツアルバルク東京川崎ブレイブサンダース)がある中で、昨シーズンは琉球ゴールデンキングスが一つ風穴を開けてくれました。それに続くのがどのチームなのか。今シーズン、また来シーズンとファイナルに進出するチームが様変わりしていくようだと、本当の意味で群雄割拠になる。シーズン前の予想のしづらさも含めて、どこが優勝してもおかしくないとファンの心理を駆り立てていくことにつながると思いますね。

――今シーズンは3地区制に戻りましたが、それぞれ優勝予想は?
佐々木
 野暮な質問ですね(笑)。東地区に関しては、宇都宮は最後まで成長し続けることの強さを昨シーズン手に入れて、それは今シーズンも変わらないと思います。ただ、Bリーグはオフェンスリバウンドの獲得率の相関が非常に高くなっていて、その意味ではA東京が強い。中地区は川崎が頭2つくらい抜けていると思いますが、逆に2位争いがすごく面白い。西地区に関しては、予想と言われれば琉球ですかね。良い補強もした一方でもっと積極策も取れたはずですが、“内なる成熟”を選択して、軸がブレない。でも、島根スサノオマジックもオフェンスに新しい引き出しが加われば下位への取りこぼしが減りますし、名古屋ダイヤモンドドルフィンズが1位になっても驚きません。

――なるほど。ではここからは、話題のファンタジースポーツゲーム『B.LEAGUE #LIVE 2022』の話を交えながら、バスケットボールにおけるスタッツの重要性について聞いていきたいと思います。佐々木さんはどうお考えですか?
佐々木
 重要かそうでないかは、その人の感じ方次第だと思います。スタッツを見なくても試合は楽しめるから。だけど、例えばどこかに出かける時に地図アプリを開くのと同じで、皆さんの観戦体験が深まる、より魅力的になるツールでもある。この攻防を決めた要因が何だったのか、そういったことを知りたい時にさらに深い探求に役立つものだと思います。

 皆さんに知ってほしいのは、ボックススコアはコーチも選手も確認するということ。何かの判断基準にしたり、あるいは自分のプレーを改善する、相手のプレーを上回るために一つの手引きにしているものなんです。つまり、コートで起きている選手たちの行動の裏にある理由を、そのスタッツの中に見つけることができるわけです。この選手は3ポイントの成功率が30パーセントを下回っているから、そんなに頑張って止めにいかなくても良いという考え方ができる。観戦歴があまり長くない方は「3ポイント打たれちゃった」と思うかもしれませんが、彼が3ポイントを打つようにあえて仕向けている場合もあるということです。そういう判断基準がわかってくると、スタッツを見た時にこの相手はこういう特色が表れているからこれを警戒しないといけないとか、自分なりのゲームプランを立てて楽しむこともできるようになります。テーマパークに行ってもアプリを開いたり地図を見たりして、次はどのアトラクションに行こうかと考えるわけで、ベンチから出てきた選手がどのアトラクションに該当するのかを知っておくことは損にならないと思います。

 Bリーグにハマっていけばいくほどライバルチームの動向なども気になると思いますし、このゲームをプレーすればひいきにしているチーム以外も絶対気になってくると思うんですよね。なぜこのチームが勝ったのか、負けたのかを知りたくなるというのは、人間の知的好奇心という意味では根本的なこと。それに対してスタッツが提供してくれる視点は、それが全ての答えになるものではないとしても、有意義なものだと思います。

――参考にすべきスタッツ、注目すべきポイントは何でしょうか?
佐々木
 それはチームと選手では異なってきます。Bリーグの場合は選手から入るファンも多いと思いますが、一番シンプルなのは「好きな選手が何分出場しているか」ということです。得点が2点だとしても、37分出場していればその選手は数字に表れないすごいことをしている、チームから信頼されているということになる。それと、フィールドゴール試投数ですね

 例を挙げると、昨シーズン安藤誓哉(島根)はリーグの日本人選手で唯一1試合平均13本以上のフィールドゴールを放ちました。要するに、彼はそれだけの本数を打つことが許されているんですよね。仮に僕がBリーグのコートに立ったら、13本も打つ前に交代させられている(笑)。自分のひいきの選手は1試合に7本、これってどれくらいの立ち位置なんだろうかということを考えるだけでも、チームからの信頼度がわかると思うんです。特にこのゲームの場合はまず試合に出ないと数字に表れないので、試合に出る人をドラフトしたほうが良いし、あとはプレータイムとフィールドゴール試投数を見て、シュートが少なければリバウンドやアシストなど他に何か良いことをしているのかというのを見ていけば良いと思います。

島根の安藤のシュート数の多さはチームからの信頼の証 [写真]=B.LEAGUE


 チームとなるとまた別で、相手と得点を争う競技なので、最終的には差し引きで見るのが大事。フィールドゴール成功率が47.8パーセントでも、相手に50パーセント許していたら大問題なわけです。攻撃の質で上回れば勝機は高いし、量で上回っても勝機は上がる。質を見る場合にはフィールドゴール成功率とフリースロー試投数、量を見る場合にはターンオーバーの少なさとオフェンスリバウンド数がその指標になりますが、それが優秀な数字かどうかを見るにはリーグの平均値を知る必要もある。今日9ターンオーバーでしたと言って「少ないね」とすぐ返してくれる人は観戦上級者ですからね。そこがリーグの課題であり、このゲームの力も今後必要になってくるのかなと思っています。このゲームはすでにプラットフォーム化している印象もありますからね。

推し選手が移籍しても「Bライブ」でマイドリームチームを結成可能

――バスケットの本場・アメリカはスタッツについても日本より先を行っているのではないかと思いますが、実際はどうなんでしょうか?
佐々木
 バスケットだけでなく、スポーツが日常に深く根差しているのをすごく感じますね。週末の高校のアメフトチームの試合も、日本の盆踊りなどのお祭りのようなおらが町のイベントになる。スポーツをみんなで楽しもうという文化が日本とは圧倒的に違う印象です。

 それに、アメリカ人はディベート好きなんですよ。例えばNBA史上最高の選手はレブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)かマイケル・ジョーダン(元シカゴ・ブルズほか)かという議論になった時に、マイケルは6回優勝したけどレブロンは4回だけだよねとか、議論を聞いている人たちを説得できる材料が欲しいわけです。元は選手を評価するため、記録を残すためにつけているのがスタッツですが、アメリカ人が自分の意見を言いたい、周囲を納得させたいという心理と合わさって、そういった独特で強烈な文化を作っているんだと思いますね。

 ただ、日本でもそれが理想とは限らないというか、日本には日本の観戦文化があって良いのではないでしょうか。ブースターが相手に敬意を表してエールを送るという光景は他の国にはないですし、それは大切にしてほしいとも思います。社会全体がスポーツや芸術の価値を認めて、市民権を与える方向に進んでほしいです。

――スタッツで見るバスケットが浸透していくためには何が必要なんでしょうか?
佐々木
 ファンの絶対数を増やすことですね。バスケ好きがスタッツの話をしても、それは少数派かもしれない。平日に30000人を集めるプロ野球の少数派と、3~4000人のBリーグの少数派はイコールではないわけで、絶対数が増えればスタッツに興味を持つ人も増えるということです。実は僕も、スタッツの魅力を解説したことはないんですよ。あくまでバスケットの魅力を伝えるためのツールでしかない。「鶏が先か、卵が先か」と同じで、スタッツの魅力を伝えることでバスケットの魅力がわかるのか、それともバスケットの魅力を知るとスタッツに興味が湧くのか、今はその両方をやっていくのが良いのかなと思っています。数字には愛されていないけどバスケットには愛されている選手もいますからね。

 その反面、スタッツを使って話せる人はどんどん使ったほうが良いと思います。今はSNSやYouTubeでも発信できますからね。僕もあくまで視点を提供しているだけで、それを聞いた皆さんが「ああそうだよね」と思うのも、「いや違う、自分で調べたらこうだった」と言うのも自由です。スタッツを語る人が増えると、それを聞く人にとってもタッチポイントが増えることになるわけです。「今日の解説の佐々木、適当なこと言ってるよね」くらいになったほうが良いんじゃないですか(笑)。

――そうですか(笑)。このBライブ、昨シーズン版をプレーしたそうですが、やってみていかがでしたか?
佐々木
 めちゃくちゃ楽しかったです、負けず嫌いが遺憾なく発揮されて(笑)。仕事柄なるべく客観的、俯瞰的にという立場なんですが、めちゃめちゃ感情移入しましたよ(笑)。Bリーグのファンが良いなと思うのが、自分の推しチームにいた選手が移籍しても応援を続けるところで、そういうファン心理にも合致したゲームだなと思いました。好きな選手がいろんなチームに散らばっていても、それをドラフトで集めることができる。いろんな楽しみ方ができますよね。僕ですらあれだけのめり込んだので(笑)、ファンの皆さんがBリーグにハマるきっかけにもなりますし、Bリーグとしても、NBAと同じようにここからいろんなビジネス展開ができる。新しい扉が開くんじゃないかと思います。

――昨シーズンもそれだけハマったということは、今シーズンも……。
佐々木
 いや、やりたいですよ! やりたいけど、ちょっと仕事にならないレベルだったんで(笑)。仕事に支障が出ない程度に自制しながらやりたいと思います。皆さんも、自分の趣味の範囲内でやっていただければと思います。アナリストとしては、独自の変数があるので興味深い選手評価もあって刺激的ですし、ファンタジースポーツゲームの枠に収まらない、とにかく面白いゲームです。

佐々木氏はBライブを「ファンタジースポーツゲームの枠に収まらない、とにかく面白いゲーム」と分析

夢のチームを作って戦う『B.LEAGUE#LIVE2022』でBリーグをもっと楽しもう

 Bリーグ2022-23シーズンの開幕とともにスタートしたリーグ公認ファンタジースポーツゲーム『B.LEAGUE#LIVE2022』は、実在のB1・B2選手からドラフトしてチームを編成しプレーヤー同士で対戦するシミュレーションゲームだ。

 プレーヤー同士の勝敗は、選手の実際のスタッツ=活躍に応じたポイントで争い、複数人だけでなく1人でも楽しめる豊富なコンテンツが用意されている。すでに多くのBリーグファンがプレーヤーを楽しんでおり、他のユーザーと交流するツールとしても活用されるなど、上々の反響を得ているということだ。

 このゲームの最も面白いところは、日本代表クラスの選手や個人タイトル争いの常連だけでチームを編成できない点。勝敗を競う上ではスタッツが何よりも重要となるが、実際のプロスポーツの世界で過去の実績によって選手の年俸に差が生じるのと同様に、これまでに高いスタッツを残してきた選手とそうでない選手を同じ条件で獲得することはできない。サラリーキャップ(選手総年俸額に上限を設ける制度)のようなシステムがあるこのゲームでは、未知数ながら将来性のある若い選手や、移籍などで出場機会増加が見込まれる選手などを見極め、チームに加える必要があるのだ。

 本記事で紹介した第3節までの各選手の活躍度を参考に今後の展開を予想し、GM気分が味わえるこのゲームをより楽しんでみてはどうだろうか。

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