2023.05.16

「本当にすごくうれしくて涙が出てきた」…昨シーズンの悔しさを自らのスコアで喜びに変えた安藤周人

勝利の瞬間、雄叫びをあげたA東京の安藤 [写真]=鳴神富一
1981年、北海道生まれ。「BOOST the GAME」というWEBメディアを運営しながら、スポーツジャーナリストとしてBリーグを中心に各メディアに執筆や解説を行いながら活動中。「日本のバスケの声をリアルに伝える」がモットー。

 勝利すれば、セミファイナル進出――。

 松江市総合体育館で行われた「日本生命 B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2022−23」クォーターファイナル第3戦は壮絶な試合となった。アリーナはホーム、島根スサノオマジックのチームカラーでもあるスサノオブルーに染まり、アルバルク東京のオフェンス時には島根ファン・ブースターのディフェンスコールとメガホンを叩く音が駆けつけたA東京のファンの声援を打ち消した。Tシャツの胸に記された「島根一丸」の雰囲気を作り出して、相手にプレッシャーをかけた。

 異様と思える雰囲気の中、先に主導権を握ったのはA東京だった。「ディフェンスでは相手の狙いどころを定めて、いいオフェンスにつなげる。そして、オフェンスではインサイド中心に攻めて、ペイントからアウトサイドに展開。そして自信を持ってアウトサイドシュートを打つ。この2つのポイントを修正して臨みました」と試合後にデイニアス・アドマイティスが語ったが、その言葉どおりに島根を攻略。第1クォーターでA東京が22−10としてリードを2ケタに広げた。

 ホームで負けられない島根も応戦する。第1戦にCSでは初となるトリプルダブルを達成したペリン・ビュフォードを中心にオフェンスを展開。安藤誓哉谷口大智ら、日本人選手の3ポイントシュートも決まりだし、点差を縮めていく。

 それでも島根の勢いを阻んだのがA東京の安藤周人だった。

「最初はセバス(セバスチャン・サイズ)がボールを要求していたので、任せていた部分もあったんですけど、少し上手く行かない部分が出てきて。流れが悪くなって得点が停滞していたので、そこで自分が攻めて悪い流れを切らないといけないという気持ちで、シュートを狙って決め切れたので良かった」と語ったように、安藤周人は第2クォーターで3連続3ポイントシュートを含む、11得点をあげた。

 後半に入るとプライドを懸けた一進一退の攻防を繰り広げれた。そして、その最後の最後にまさかの結果が待っているのだが、それは後にじっくりお伝えしたい。

 第4クォーター残り3分を切った時点からビュフォードがさらに牙を剥く。持ち前のドライブからのスコアだけでなくアシストなどでコートを掌握すると、ついに島根は残り1分で同点に追いついた。アリーナは大歓声に包まれる。A東京は次のオフェンスでザック・バランスキーがフリースローを2本沈めて再び逆転。そして残り11.7秒のラストプレー、島根ボールでゲームは再開した。

 ボールをキープしたビュフォードがトップの位置から1対1を仕掛ける。それをバランスキーと安藤周人が挟み込んだ瞬間、ビュフォードがまさかの転倒…、ボールはサイズの元へ転がっていった。即座に前に走り込んでいた安藤周人へロングパスでボールが渡り、ここでゲームセット。A東京が83-82のスコアで死闘を制し、セミファイナルへの切符をつかんだ。

 試合終了のブザーが鳴った瞬間、安藤周人は全ての感情を爆発させる。まさに、昨シーズン、同じ場所で味わった悔しさをうれし涙に変えた瞬間だった。

「昨シーズン、ここで負けて……最後に自分のところにボールが来て勝った瞬間、本当にすごくうれしくて涙が出てきました。チームメートも涙を流していて、それを見ているとみんなこの試合に懸ける想いを感じて、何としても勝ちたかったんだというのが伝わってきました」

安藤周人は大切な一戦でゴールを目指した [写真]=鳴神富一


 その安藤周人に対してアドマイティスHCは全幅の信頼を寄せている。

「今シーズン、非常に成長していてうれしいかぎりです。向上心はもちろん、リーダーシップがあり、チームの中心的人物。シュートを含めたスコア能力に加え、周りを活かすプレーもでき、今シーズン本当に自信を持っていますね。本当に自分たちのチームの選手で良かった。セミファイナルでも期待していますし、チームの勝利に貢献してくれると思います」

 そのセミファイナルの相手は「リーグのナンバー1にして、今シーズンのベストチーム」(アドマイティスHC)、レギュラーシーズンのB1最多勝利数を記録した千葉ジェッツだ。

「非常にフィジカルが強く、オフェンスでのペースが非常に速いチーム。まずはフィジカルで負けないこと、そして自分たちのペースにするためにゲームをコントロールするのが必要」とアドマイティスHCがセミファイナルのキーポイントを語る。

 一方の安藤周人は「レギュラーシーズン最後に戦った時の2連敗は、あれはあれで忘れていいと思います。やはりチャンピオンシップは別物だし、相手に対して何をすべきかを考えて準備しないといけない。前回の反省をしっかりして、それを活かして、僕自身も含めて全員で挑みたいと思います」とチャレンジャーとしての気持ちを強調した。

 田中大貴をはじめ、ジャスティス・コブスらが欠場の中、ライアン・ロシターも第2戦以降コートには立てなかった。その苦しいロスターでも全てを懸けて戦い、島根の地で喜びに変えたA東京の面々。再びファイナルの舞台に上がるために……安藤周人の強い想いが絶対に必要だ。

取材・文・写真=鳴神富一

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