2017.12.30

2年ぶり5度目の栄冠、明成に欠かせなかった主将相原アレクサンダー学の“優しさ”

創部12年の中でも、群を抜いて“優しい”キャプテンであった相原[写真]=兼子慎一郎
大学時代より取材活動を開始し、『中学・高校バスケットボール』編集部を経て独立。メインフィールドである育成世代から国内バスケット全体を見つめる"永遠のバスケ素人"。

 12月29日、東京体育館で「ウインターカップ2017 平成29年度 第70回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の男子決勝戦が開催された。インターハイ決勝の再戦となった福岡大学附属大濠高校(高校総体1/福岡県)と明成高校(高校総体2/宮城県)の戦いは、明成が序盤に奪った点差を守り切り、79-72で2年ぶり5回目の優勝を達成した。

 明成は例年、インターハイとウインターカップでキャプテンを切り替えることが多い。しかし、今年は相原アレクサンダー学が1人でその役を担った。佐藤久夫コーチは、その意図についてこう話す。

「若い人はどちらかというとリーダー性に欠けていると感じているので、チームの中で一番気持ちの優しいアレックス(相原)をキャプテンとし、大きな責任を与えて強くなってもらいたいと思っていました」

 佐藤コーチは今年の3年生が入学した時から、相原をキャプテンに任命しようと考えていたという。リーダーシップのある選手や得点力の高い選手であれば、それほど珍しい話ではないと思うのだが、入学当時はリーダーシップや目立つ能力がなかった上に、優しい…言い換えれば気持ちの弱い相原に大役を与えるビジョンを持つあたりが、名将・佐藤コーチなのだろう。

 優勝を果たした一昨年から一転、昨年はまさかの初戦敗退。悪い流れを払拭すべき代のキャプテンに任命された相原は、「自分で大丈夫かという心配がありました」と、素直に認める。

 練習中や試合中のコミュニケーションを意識することを第一にキャプテンシーを発揮してきたが、どこか突き抜けられない。インターハイ決勝でも、終盤の大事な場面でそれを発揮できなかった。

 そんな様子を見かねた佐藤コーチは、ウインターカップを控えたある日、相原にこう言い渡した。「さっぱりキャプテンとしての責任を果たしていないから、もうプレーに専念したらどうだ?」

 相原はこの時のことを振り返る。「その時は自分自身のプレーに悩んでいて、チームを全然まとめられませんでした。ここで崩れるよりは、キャプテンという重い立場を一回離れて集中して、最後はまたキャプテンに戻りたいと先生に言おうと思っていました」

 このキャプテン交代劇は、新キャプテンの塚本舞生が突然の重役に混乱してしまったこともあり、わずか3日で終了。「もうちょっと長くやると思っていたんですけど」と相原は笑うが、少し気持ちの余裕ができたことは事実だった。

塚本は3日間だけ相原とキャプテンを交代していた[写真]=兼子慎一郎

 そんな経緯もあり、今大会の明成は相原を中心に、よくコミュニケーションをとった。「序盤は声を出すけど続かないということがこれまで多かった。続けられるようにしないと自分たちのペースでないときに声が出ないと思ったので、常にみんなで出し続けるということを心掛けてやっていました」と相原。中学時代からの盟友である八村阿蓮も、「頼りないところもあったんですけど、そこは自分たちでカバーして、最後のほうは堂々とやってくれたと思います」と、そのがんばりを称えた。

 佐藤コーチはこう言う。「もしそのまま塚本をキャプテンにしていたら、こういう結果にはなっていなかったかもしれません。相原が与えられた責任から逃げずにチャレンジしてくれたことが、みんなにいいカンフル剤となったのではないでしょうか」

 創部12年の明成でも、群を抜いて“優しい”キャプテン・相原。八村やシューターの田中裕也が目立つ大会にはなったが、五つ目の星を取る上で欠かせない存在だった。

文=青木美帆

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