2018.08.06

エース不在でも決勝進出を決めた、中部大第一のいぶし銀たち

ともに途中出場で2ケタ得点を挙げた井戸(左)と小澤(左)[写真]=山口剛生
本格的に取材を始めたのが「仙台の奇跡」と称された2004年アテネ五輪アジア予選。その後は女子バスケをメインに中学、高校と取材のフィールドを広げて、精力的に取材活動を行っている。

 お互いにタフな「平成30年度全国高等学校総合体育大会 バスケットボール競技大会(インターハイ)」準決勝になることはわかっていた。エースガードの中村拓人を「FIBA U18アジア選手権大会」のために欠く中部大学第一高校(愛知県)と、2010年の沖縄インターハイ以来の準決勝進出となった東海大学付属諏訪高校(長野県/2010年当時は東海大学付属第三高校)との一戦は、76-72で中部大第一が競り勝ち、地元インターハイで同校初の決勝進出を決めた。開催地のチームが決勝戦に進むのは、男子は1997年の京都インターハイでの洛南高校(京都府)以来である(女子は2001年の熊本インターハイでの熊本国府)。

 接戦を分けた要素はいくつかある。そのうちの一つは中部大第一のベンチメンバー、しかも3年生の選手が活躍したことだろう。ポイントガードの井戸光邦とパワーフォワードの小澤幸平である。

 ポイントガードの井戸は「途中から出るほうが流れを持っていきやすい」と自身も認めるように、ベンチスタートを得意とするプレーヤーだ。これまでスタメンで起用されたこともないわけではないが、「スタートのゲームコントロールは難しい」と思っていた。中村の欠場でスタメン起用されるかと思われたが、インターハイに入ると矢澤樹がスタメンのポイントガードに収まり、井戸はバックアップに回った。

 それが功を奏したのか、この日のゲームではインサイドへのパスを狙っていた東海大諏訪の隙を突くような、鋭いドライブで得点とアシストを積みあげた。

「外からのシュートだけの時間帯もありましたが、それではチームが動かないと思って、ドライブからの合わせを狙っていました。でも合わせだけでなく、シュートに行く判断も今日は冷静にできたと思います」

10得点に加え、5アシストと司令塔としての役割を果たした井戸 [写真]=山口剛生

 一方の小澤は春先までスタメンで起用されていた。5月に秋田県能代市で開催される「能代カップ」もスタメンで起用されていた。しかしその途中から留学生とのコンビネーションやトランジションのスピードなどを買われた2年生の深田怜音が、そのポジションに抜てきされるようになった。小澤がそのときの心境を振り返る。

「正直なことを言えば、スタメンを降ろされたことはショックでしたし、暗くもなりました。でも地元インターハイで活躍するためには、ずっと暗くなっていても仕方がないし、練習から積極的にコミュニケーションを取るなどして、今大会に気持ちを向けるようにしていました」

 深田の勢いやシュート力、走力など自分にないところを認めながらも、一方で「メンタルは未完成なところがあるので、怜音が思いきりプレーして、ダメなら僕がしっかりカバーするという気持ちでいました」とも言う。それが東海大諏訪との準決勝で深田がもう一つ波に乗りきれない時、ベンチから出ていった小澤が絶妙な合わせやリバウンドでチームの勝利に貢献できた要因なのだ。

小澤は限られた出場時間で11得点5リバウンドと仕事を果たした [写真]=山口剛生

 チームを率いる常田コーチも井戸と小澤の活躍を認める。

「中村の陰に隠れていた井戸、怜音の陰に隠れていた小澤、この2人が大事なところで仕事をしてくれました。今日の勝利は彼らのおかげです」

 中村からはアジア選手権前に何か声を掛けられたことはないという。「でも(一昨日の)東山戦が終わったときにLINEで『ナイスゲーム』って来ました」と井戸は明かす。今日の試合について中村はどんな言葉を送るのだろう? そして明日の決勝戦に向けては、どんなエールを送るのか?

 もちろん彼自身にもアジア選手権でがんばってもらいたいが、中村君、チームメートはインターハイのファイナルまでたどり着いたよ。

文=三上太