2018.08.08

無冠の前年から夏の女王に返り咲いた、桜花学園のコミュニケーション

2年ぶり23回目のインハイ優勝を喜ぶ桜花学園の選手たち [写真]=兼子慎一郎
本格的に取材を始めたのが「仙台の奇跡」と称された2004年アテネ五輪アジア予選。その後は女子バスケをメインに中学、高校と取材のフィールドを広げて、精力的に取材活動を行っている。

 名門と言われて久しい桜花学園高校(愛知県)であっても、1986年の全国初優勝以来、これまで無冠に終わったことがないわけではない。しかし、それはたったの6回(6年)しかなく、そのうち2年連続で無冠に終わったのはたったの一度しかない(2010年、2011年)。それ以外はたとえ前年が無冠であっても、翌年には必ず女王の座に返り咲いている。

 その返り咲く時のキャプテンのプレッシャーはどのようなものか――。

「平成30年度全国高等学校総合体育大会 バスケットボール競技大会(インターハイ)」女子で桜花学園が2年ぶり23回目の優勝を果たした。2年ぶりというからには昨年はインターハイを獲っておらず、さらには国体も、ウインターカップも逃している。

 3年生の坂本雅はキャプテンに就くにあたって、コミュニケーションを大切にしようと決めていた。無冠に終わった昨年がコミュニケーションを取れていなかったわけではない。ただ坂本自身が先輩たちに話しかけるシーンが少なく、それが結果としてチームを一つにできなかったのではないかと考えたからだ。

「下の子たちが上級生に声を掛けるのは難しいと思ったので、上級生である自分が下の子たちに声を掛けていくようにしたんです。そうするうちに後輩たちも自分の思っていることを言ってくれたり、試合中でもしっかりとコミュニケーションを取っていけるようになりました」

坂本は主将として「コミュニケーション」を大事にしたという [写真]=兼子慎一郎

 ディフェンスのポジショニングから始まり、スクリーンの有無やプレーコールの確認、コート内で感じた違和感の修正など、試合の中では至るところにコミュニケーションが求められる。些細なことかもしれないが、「神は細部に宿る」ともいうとおり、そうした些細なことをないがしろにせず、チームみんなで共有していくことが勝利につながる。

 昨年は山本麻衣(現トヨタ自動車 アンテロープス)と藤本愛瑚(現JX-ENEOSサンフラワーズ)に頼りっぱなしで、同じく主力としてコートに立っていた坂本や伊森可琳らの得点が伸びず、エース2人を止められると苦しい展開に追いこまれていた。

 しかし今年は井上眞一コーチから「エースがいない」とバッサリ“斬られた”ことで、コート上の5人がしっかり得点を取りにいけるよう意識してきた。そのためには学年に関係なく、コミュニケーションを取らなければならない。

 しかも井上コーチは「レベルが同じであれば下級生を使う」と明言している指揮官だ。今大会も伊森のケガによる戦線離脱はあったものの、気づけばスタメンは坂本以外、みんな下級生である。より緊密にコミュニケーションを取らなければ、自分たちが目指す日本一は奪い返せない。

 坂本が言う。

「インターハイ前のゲームでは1、2年生の声があまり聞こえなかったんです。でもインターハイを戦っていくにつれて、今日の決勝戦でも下の子の声がすごく聞こえてきたし、下の子たちの声で自分も励ましてもらったところもあります。チームが一つになっている感じがありました。これはすごく大きなことでした」

試合を重ねるごとにまとまりが強まっていった [写真]=兼子慎一郎

 才能豊富な選手たちが集まっても、それが一つにならなければ大きな力にはならない。分散された優れた才能は、それぞれが小さな力でも一つになったチームの和に敵わないのだ。それをつなぐ役割を果たすのがコミュニケーションである。

 いくつものタフなゲームを制した今夏の桜花学園は、日を追うごとに大きなまとなりになっていった。言葉でつながり、夏に返り咲いた“桜”は簡単にその花びらを散らせるつもりはない。

ウインターカップの舞台でも指揮官を胴上げできるか [写真]=兼子慎一郎

文=三上太

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