2019.12.31

大会前は控え組に降格…3年間で栄光も挫折も味わった横地聖真が決めた、涙の高校ラストショット

今大会、エースとしてチームを引っ張った福大大濠の横地(中央)[写真]=須田康暉
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 試合終了残り26.6秒でタイムアウト、スコアは65-75。この時すでに横地聖真(3年)は泣いていた。

 残り11秒で回ってきた最後の攻撃、福岡大学附属大濠高校(福岡県)のエースは、目を潤ませながらラストショットとなった遠目からの3ポイントを決めきった。

「自分たちは応援席や保護者とか、みんなの気持ちを背負ってコートに立てています。あの時、ベンチも誰一人諦めてなくて、涙もろくて泣いてしまいました。でも、自分の中では涙を流しながらも『やるしかない』と思っていましたし、みんなが『最後やれ』と言ってくれて、最後に決められて……」

 2年ぶりにウインターカップの舞台に戻ってきた福大大濠は準優勝で大会を終えた。「SoftBank ウインターカップ2019 令和元年度 第72回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の決勝戦は、ライバルである福岡第一高校(福岡県)に一時22点差をつけられたが、決して最後まで諦めなかった。

「なかなか全国の舞台に立たせてもらえなかったですけど、自分たちの力で決勝まで行けて、こうして第一さんとまた全国の舞台に立つことができました。全国の舞台で倒したかったですけど、いいゲームができてよかったです」

決勝では9得点に終わったが、16リバウンドを記録[写真]=兼子慎一郎

 1年生の時にはチームのインターハイ優勝に貢献した横地にとっても、2年ぶりの全国の舞台だった。序盤の山場であった開志国際高校(新潟県)との試合までは「手汗もやばくて、今までにないくらい緊張しました」と振り返る。

 片峯聡太コーチも、大会に入ってからの横地の“異変”には気づいていた。「初戦の前日練習の帰り、横地が僕のところにすっと寄ってきて『先生、めっちゃ緊張しています』と言ってきました。そんなこと自分から言うタイプではないですけど、やっぱり2年ぶりのウインターカップということで、彼なりに背負うものがあったんだと思います」

 決勝戦では9得点と振るわなかったが、横地はプレッシャーを跳ね返し、大会を通じてエースとしての仕事を全うした。最後まで息詰まる熱戦となった開志国際との試合では、殊勲の30得点。この試合はルーキー・岩下准平の3ポイントも光ったが、横地の活躍がなければ間違いなく負けていた試合だった。

「みんなが自分を頼ってくれので、最後までエースとして活躍できたのかなと思います」。大会ベスト5にも選出され、そう仲間への感謝を口にした横地だが、福岡県予選が終わってからの大会約1カ月前は、この3年間で一番とも言える辛い時期を過ごしていた。

「ウインターカップにくる前、初めてスタートから外されました。大会に向けて頑張らなきゃいけないのに、自分は相手チームの対策用にされていて。『これでいいのか』という思いと『これでいいや』という2つの思いがあって、難しい時期でした」

自己主張が強いゆえに、これまで何度も対立することもあったという[写真]=兼子慎一郎

 今年の3年生について、片峯コーチは「サイズもあって能力もある」と認める一方で、「はっきり言って“わがまま集団”」と揶揄していた。横地はその“わがまま集団”の代表ともいえる存在だ。

「自分はわがままというか自己主張が激しくて、みんなと合わない時もありました。先生との言い合いもたくさんあって、自分が逃げてしまったこともありました」

 それでも、横地はチームメートの一声がきっかけでコーチと話し合い、大会直前にスターティングメンバーに戻ることができた。「自分からもお願いしましたし、先生も待ってくれていました。今回はマークがきつくても、『お前がやれ』と信じてくれたので、逃げそうになった時もその一声でやれる自信に変わりました。先生には3年間迷惑をかけて、恩返しの“お”の字にもなっていないですけど、準優勝に導けたのはすごくよかったです」

 自己主張の激しいチームのエースだが、最後は周りへの感謝の言葉が尽きなかった。

「バスケはチームプレーなので、自分だけの力じゃできません。みんなの力があるからできるので、みんなにはすごく感謝しています。やっぱり周りがいないと自分がいないわけで、周りの力があったからこそここまで来れました」

「最後の3ポイントは自分の力だけじゃなくて、みんなの力があったからこその決めきれたと思います」

「将来は日本を背負ってオリンピックにでたい」とさらなる飛躍を誓った[写真]=兼子慎一郎

 栄光も挫折も味わった福大大濠での3年間、新チーム発足当初はポイントガードにも挑戦し、自分の居場所を失ったこともあった。それでも最後は、絶対的エースとしてチームを決勝の舞台まで導いた。

 有終の美とまではいかなかったかもしれない。しかし今大会を振り返った時、多くのファンは背番号「14」の闘志あふれるプレー、大会史上初の“福岡決戦”で見せたラストショットを思い出すのだろう。

文=小沼克年

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