2020.12.28

福岡第一vs明成――見る者の心を揺さぶった王者と挑戦者が迎えた大会大一番。その舞台裏

明成は(左から)山内ジャヘル琉人、越田大翔、山内シャリフ和哉ら3年生が力を発揮した [写真提供]=日本バスケットボール協会
スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者に。国内だけでなく、取材フィールドは海外もカバー。日本代表・Bリーグ・Wリーグ・大学生・高校生・中学生などジャンルを問わずバスケットボールの現場を駆け回る。

 今大会の行方を左右する大一番となった福岡第一高校(福岡)と仙台大附属明成高校(宮城)の準々決勝は、明成が64-61の3点差で激闘を制して準決勝へと駒を進めた。

 両チーム合わせて9度のウインターカップ制覇を誇る名門対決。高校バスケ界をリードしてきた両校の決戦は、見る者の心を揺さぶる試合になった。また、同時にコロナ禍の中での複雑な心境と背景を抱えた中で行われたゲームでもあった。

 12月26日、明成は3回戦で対戦する開志国際高校(新潟)が棄権となり、不戦勝で勝ち上がることになった(※)。佐藤久夫コーチは「私たちには想像もできない辛さ」と相手を慮った。ただ明成としても25日に和歌山工業高校(和歌山)と試合をしたあとは2日間も空いてしまう変則的スケジュールになり、「トーナメントは階段を一段ずつ上るもの。その一段がなくなってしまった」(佐藤コーチ)ことで、試合勘がと実戦経験を積めない調整の難しさがあった。

 また残念なことにケガ人も相次いでいた。12月上旬にはフォワードの加藤陸(192センチ/3年)が右手の人差し指を骨折してエントリー変更、オールラウンダーの菅野ブルース(197センチ/2年)も膝を痛めてベンチを温める事態に至った。得点源の主力2人を欠くピンチに総戦力で戦う覚悟のもとで臨んでいたのだ。

 対して福岡第一も胸中は複雑だった。井手口コーチと開志国際の富樫英樹コーチは日本体育大時代の同期であり盟友。明成を含めたこの3校は春休みのカップ戦などで対戦することも多く、切磋琢磨している仲間である。開志国際の棄権が決まったときに井手口コーチは、涙で声を詰まらせ「僕が一番ショックです。言葉がないです。けれど僕らに明日の試合があるならば、一生懸命に試合をやります」と言い聞かせていた。

 そして明成戦に対しては「僕の中ではこれが決勝だという気持ちです。明成高校というか…佐藤久夫先生の胸を借りて臨みたい」と並々ならぬ決意を語っていた。キャプテンであるハーパー・ジャン・ローレンス・ジュニアも指揮官と同じ気持ちだった。目標を聞かれると必ず「先輩たちの次は僕たちが勝って3連覇をします」と宣言するほど、この大会にかける思いは強かった。

 そんな両者の思いが交差した一戦は、残り58秒で明成が逆転する劇的な内容となった。壮絶だったのは両者が繰り出したディフェンスだ。先行したのは福岡第一だったが、明成の2-3と1-1-3を織り交ぜた半端ない運動量を誇るトラップゾーンと190センチ台を揃えた高さは、最後までディフェンディングチャンピオンを苦しめたのだ。

明成の山﨑一渉は29得点17リバウンドの活躍で勝利にけん引 [写真]=日本バスケットボール協会


 福岡第一もオールコートのマンツーマンプレスとハーフコートゾーンを織り交ぜた自慢のディフェンスで襲い掛かったが、明成は中継しながらボールを運ぶことでクリア。29得点、17リバウンド、3ブロックでエースの働きをした山﨑一渉(2年)の活躍が目立ったが、終盤に意地を見せたのは、ガードの越田大翔、フォワードの山内ジャヘル琉人、センターの山内シャリフ和哉ら、勝負所のシュートをねじこんだ3年生たちだった。

 どちらもオフェンスでは思うように相手を崩せず、明成はガード陣が、福岡第一はセンターがファウルトラブルに陥り、ターンオーバーでは福岡第一が19、明成は16と多かった。それでも見る者の心を揺さぶったのは、最後まで落ちることのない運動量とボールへの執念といった、両者の強みである脚を止めないディフェンスを40分間ぶつけ合ったからだ。両チームが出し合った強度の激しいディフェンスを崩すためには、様々なオフェンスバリエーションや考え方が必要になると考えさせられた点でも高校バスケ界の『大一番』だったと言える。

 敗れた福岡第一のキャプテン、ハーパー・ジャン・ローレンス・ジュニアは試合後にこう語っている。

「ディフェンディングチャンピオンとして、キャプテンとして、エースとしてプライドを持って戦いました。最後は『お前がシュートを打っていい』と言われたのに、それを外してしまって申し訳ありません。自分たちはゾーンが苦手なのでそこを突かれてしまい、明成の強いゾーンにやられて自分が何もできませんでした。チームを勝たせることができなかったのは自分の責任。もっとポイントガードとして成長します」と話すと、我慢していた涙を止めることはできなかった。その責任感の涙は紛れもなく、王者のプライドそのものだった。

シュートが決まるたび雄たけびを上げてチームと自身を鼓舞したハーパー・ジャン・ローレンス・ジュニア [写真提供]=日本バスケットボール協会


文=小永吉陽子

(※)
12月25日、1回戦で開志国際が対戦した専修大附属のチーム関係者に陽性反応者(1名)が出てしまい、対戦チームである開志国際が濃厚接触者になる可能性が出た。そのため「今後陽性者になりうる可能性があるチームを継続してコートに立たせるわけにはいかないと判断した」と日本協会は開志国際に出場棄権を指示することになった。

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