2021.10.28

『Tokyo Samurai』が凄腕リクルーターを招いてウェビナー開催…望まれる選手像とは?

講師を努めたグレース氏はUCLAでアシスタントコーチを務めた経歴を持つ [写真]=Getty Images
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。

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グレース氏はどのような選手をリクルートするかを話してくれた


 東京五輪日本代表のシェーファーアヴィ幸樹らを輩出し近年、徐々に認知度を上げるクラブチームの『Tokyo Samurai』が日本時間、24日夜、全米の優れた大学リクルーターとして知られたデビッド・グレース氏をゲストスピーカーとしてウェビナーを開いた。

 八村塁(ワシントン・ウィザーズ)や渡邊雄太(トロント・ラプターズ)らがアメリカの大学でプレーした後にNBA入りを果たしていることもあり、近年ではNBAなど高いレベルでプレーすることを視野に彼らのようにアメリカの大学へ進学を考える日本の若い選手たちも増えてきた。今後、バスケットボールをプレーするためにアメリカの大学への進学を考える日本人選手は増えることが予想される中で、グレース氏のプレゼンテーションは参考になるところも多分にあっただろう。

 過去14年にわたってNCAAのディビジョン1の大学チームのコーチ陣に加わり、13年から5年間アシスタントコーチを務めた名門UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)ではザック・ラヴィーンやロンゾ・ボール(ともに現シカゴ・ブルズ)のリクルートに携わった氏は、2016年にはESPNから西海岸ではナンバー1、全米でも7番目の凄腕リクルーターという高い評価を受けている(八村は前ゴンザガ大ACだったトミー・ロイド氏、今季からネブラスカ大学へ編入した富永啓生は同校ACでグレース氏同様、全米のトップリクルーターの評判を得ていたマット・アブデルマッセイ氏による勧誘を受けている)。

 アメリカの大学バスケットボール界の選手リクルーティングがどのように行われているかについて、日本ではなかなか情報が入ってこないが、この日、グレース氏は彼のようなリクルーターたちが選手たちのどういった素養を見た上で自分のチームに勧誘するのかを事細かく話してくれた。

 プレゼンテーションの中でグレース氏は、大学のコーチたちが選手の才能や運動能力ばかりでなく、確かな人間性を有しているかどうか、高いバスケットボールIQを有しているか、チームにとって信頼の置ける選手であるか、といった内面についても重視していると説明した。

 アメリカの大学アスリートは“スチューデント・アスリート”と呼ばれるが、UCLAを全米大学選手権で史上最多10度制覇に導いた名将中の名将、ジョン・ウッデン氏(故人)は学生が本分であるから“スチューデント”が先に来るのであって“アスリート・スチューデント”ではないとし、勉学の重要性を説いた。グレース氏も同様に学業をおろそかにしてはどれだけ選手として優れていても不十分であると述べている。

「仮にチームにあと1つだけ枠があってそこに2人の、バスケットボールでは同じレベルの選手がいるとしましょう。片方はクラスルームでも良く勉強し、もう片方はそうでなかったとしたら、チームは前者を獲る場合が多いと言えるでしょう。ですから、1日の24時間という限れられた時間の中でバスケットボールも勉強もとなるのは大変ですが、それでも高い目標があるならば両立させるべきです」(グレース氏)

 アメリカを目指すにあたって日本人の選手の多くに待ち構えるのが英語というハードルだが、海を渡るという気持ちがあるならば英語も含め学業に力を入れておかなければ、後悔をすることになる。

 余談ながらグレース氏は、ボールやトレイ・ヤング(現アトランタ・ホークス)といった特別な選手には高校1、2年生時から食指を伸ばしていたそうだが、中には自身の努力もあって急激に頭角を現す選手もいるという。グレース氏がアソシエイトHCを務めたバンダービルト大学で指導していたセイベン・リーなどはそのケースで、急成長を遂げて今現在はデトロイト・ピストンズでプレーするまでの選手になっている。日本で言えば、渡邊雄太なども不断の努力によって、周囲の懐疑的な目をはねのけてNBA入りを果たしている例がそれに近い。

 他方でグレース氏は、アメリカの大学バスケットボールが「ビジネス」であるとも説いた。この場合の「ビジネス」は純然たるプロ的に意味合いとは少し異なる。だがアメリカの男子大学バスケットボールは莫大なカネを産み出す産業であるという点ではやはり「ビジネス」と言え、その意味では選手たちが受ける扱い等もある種、プロ的なものとなってくる、という趣旨だ。

 具体的には、高校までと比べると選手たちはチームからより勝負に徹した役割等を求められることが往々にしてあるということで、それを甘受しながら成長につなげていくことが肝要であるということだ。換言すれば、大学生といえど「大人」である必要があるといったところか。

「ザック・ラヴィーンは大学時代、先発出場が1試合しかありませんでしたが、そのことで彼が不満を漏らしたことは一度もありませんでした。そして彼はNBAドラフトで全体13番目で指名を受けたのです」(グレース氏)

アメリカ留学を目指す高校生に機会を提供するTokyo Samurai

 日本の選手たちがたとえアメリカの大学でのプレーを希望したとしても、リクルートを受けるなどというところまでは考えが及ばない場合が大半ではないだろうか。しかしこのウェビナー主催したTokyo Samuraiは、所属選手をアメリカの大学のコーチの目に触れてもらう機会を提供している日本では稀有なチームだ。

 同チームは設立された2014年当初は東京のインターナショナルスクール通う選手たち中心に構成されていたが、その後、他の学校等の生徒たちにも存在が知れ渡るようになり、外国をルーツに持つ選手のみならず、最近はアメリカ行き目指す「通常の」日本の高校の選手らも加わりはじめている。

 Samuraiは毎夏、選抜チームを組んでアメリカ・カリフォルニア州のAAU(アマチュア・アスレティック・ユニオン、ユーススポーツの大会を運営する非営利組織)の大会に遠征参加し、大学コーチらの目に触れる機会を作っている。

 シェーファーが一時期、ジョージア工科大学でプレーしたのもそうした機会を生かしてのことだった。他にもSamurai での活動を経てアメリカの大学へ進学した例は少なくない。

 シェーファー以外にも、このチームでのプレーを経てBリーグクラブと契約する例は増えてきている。一方でアメリカとのコネクションを生かし同国の大学でのプレーを目指す日本の若い選手たちへ今回のグレース氏のウェビナーのように様々な形で情報を提供しており、今後、ますます注目度は上がっていきそうだ。

Tokyo Samurai出身のケイン・ロバーツは東京Zを経て、NCAA1部のストーニーブルック大学に進学 [写真]=永塚和志


文=永塚和志

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