8月23日から山口県でおこなわれていた「平成30年度全国中学校体育大会 第48回全国中学校バスケットボール大会」の男子決勝戦は、実践学園中学校(東京都)が昨年度の優勝校、福岡市立西福岡中学校(福岡県)を54-53で破り、2年ぶり3度目の優勝を果たした。男子で同一校が3度全中を制するのは史上初のこと。敗れた西福岡は大会連覇とともに、実践学園が達成した「同一校による3度目の全中制覇」もあと一歩のところ――残り23秒――でつかみ損ねてしまった。
「結果として逆転負けになってしまいましたが、選手たちが気迫を持って戦ったことは誇りに思います」
敗れた西福岡の鶴我隆博コーチは試合後にそう語った。
前半は1点リードして折り返したが、第3クォーターは5得点とスコアが伸びなかった。一方で実践学園に13失点し、7点ビハインドで最後の8分間を迎えることとなる。その最終クォーターもバスケットカウントを含む3連続失点からのスタート。残り4分43秒で14点ビハインドを背負ってしまった。
それでも鶴我コーチも、西福岡の選手たちも諦めてはいなかった。タイムアウトで指示を出したのは、今年一度も使っていないというフルコートでのプレッシャーディフェンス。「ゲームで使っていないのに選手たちがよく頑張ってくれた」という、そのディフェンスが功を奏して、そこから怒涛の反撃が始まる。
それまで得意の1対1で実践学園ゴールへアタックし続けていた西福岡のエース岩下准平が、2本連続でチームメイトにアシストする。そうしてパスがあることを意識させておいて、そのあとの自分の1対1をよりやりやすくさせたかったのかもしれない。まるで『スラムダンク』の流川楓が山王工業戦で見せたプレーを思い起こさせるシーンだった。アシストの直後、岩下選手は3ポイントシュートを決めると、相手が2つのゴール(1つはフリースロー)を決める間にバスケットカウントを含む5連続ゴールを決めて、残り1分5秒でついに逆転へと導いたのである。
しかし残り23秒、実践学園の家永淳之介にシュートを決められて再逆転を許すと、その1点をもう一度乗り越えることはできなかった。
岩下は試合後、目に涙を浮かべながら、反撃の3ポイントシュートのあと、5連続得点に入る直前に打ったフリースローを悔やむ。
「あの2本を僕が決めていれば、僕たちが1点勝っていたのに……」
しかし、勝敗を分けた要因を探るとしたら、そのフリースローではないはずだ。
「西福岡がシュートを落としたとき、自分たちがルーズボールとリバウンドを拾えたのがよかった。西福岡の早田(流星)選手、鷹野(祐磨)選手がこれまでの試合でリバウンドに飛び込んできたのが嫌な感じだったんです。それを最初に抑えられたのも大きかったと思います」
実践学園の森圭司コーチがそう言えば、西福岡の鶴我コーチも実践学園のリバウンドを警戒していたと認める。
「実践学園の大きな選手たちは決して力強いポストプレーをするわけでないのですが、忠実にリバウンドに飛び込んできます。シュートが決まらなくても、それがアシストになるわけです。そこは警戒していたのですが、やられてしまいました」
両エース――実践学園の新井翔太と西福岡の岩下はともに自分の力を存分に出し切り、お互いにゴールを決め合ったが、要所でリバウンドを制していたのは実践学園だった。勝敗を分けた1点の違いを見出すとしたら、そうしたリバウンドへの執着心や、それをさせまいとするボックスアウトの徹底度ではなかったか。上記のマンガにも出てきた「リバウンドを制する者はゲームを制する」である。
それでも鶴我コーチが「負け惜しみではなく、14点離されても諦めずに気持ちを出して戦ってくれた子どもたちに敬意を表したいと思います」と言うように、最後まで諦めずに戦った西福岡はグッドルーザーだった。勝者はグッドルーザーがいてこそ、よりその輝きを鮮明にすることができる。
彼らの中学バスケはこれで幕を下すが、彼らのバスケットはまだまだ始まったばかりである。優勝した実践学園の選手たちはもちろんのこと、敗れた西福岡の選手たちもまた、この試合から多くを学び、その糧を高校バスケットへと引き継いでいく。
写真・文=三上太