2017.08.07

倉石平氏が強豪ウルグアイを撃破した日本代表に賛辞「よくぞここまで変わってくれた」

ウルグアイとの強化試合を終え、アジア杯に挑む男子日本代表 [写真]=圓岡紀夫
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バスケットボール日本代表として活躍し、引退後は古巣の熊谷組、大和証券、日立(現サンロッカーズ渋谷)、日本代表などでヘッドコーチを歴任。現在は早稲田大学スポーツ科学学術院教授を務める倉石平(くらいし・おさむ)氏に、7月29、30日に行われたバスケットボール日本代表の国際強化試合、ウルグアイ代表戦を振り返ってもらった。強豪相手に1勝1敗の成績を収め、プレースタイルでも変化を見せたフリオ・ラマスHC率いる新生日本代表を、倉石氏は「よくぞここまで変わってくれた」と称えた。

インタビュー=安田勇斗
写真=圓岡紀夫

――7月29、30日に行われたウルグアイ代表との国際強化試合は69-79、72-57の1勝1敗でした。
倉石 第一印象として、今までのバスケットとはガラッと変わりました。前任のヘッドコーチであるルカ(パビチェビッチ/現アルバルク東京HC)が、いろいろな戦術、戦略に対応できるようにベースとなるトレーニングを続けてくれたおかげだと思います。大きな違いとして、ルカの下ではピック&ロールが中心でしたが、(フリオ)ラマス新HCの下ではその回数が減って代わりにドライブが増えました。

――ルカHCが取り組んだベースのトレーニングというのは具体的には?
倉石 アグレッシブなディフェンスと、スペースを取る動きです。オフェンス時のボールマンと受け手の距離感などが良くなりました。

日本代表を率いるフリオ・ラマス新HC [写真]=圓岡紀夫

――結果として第1戦で敗れ、第2戦で修正して勝つことができました。この結果をどう捉えていますか?
倉石 結果は良かったと思います。1試合目もスタートが悪くなければ、もっと競っていたかもしれません。先ほどドライブが増えたと言いましたが、ドライブからのキックアウトもすごく増えています。1試合目ではゴール下まで行けなかったのが、2試合目ではそこまで行けるようになってより点数が取れるようになりました。今までの日本人選手はあそこに行くことを怖がって外からのジャンプシュートで終わることが多かったんです。今回もジャンプシュートは結構ありましたけど、その前にドライブしたり、ゴール近辺でボールを回せたり、相手に脅威を与えられていたと思います。あとキックアウトで言うと、距離が伸びました。狙ってそうしていると思いますけど、シュートを打つ選手もある程度決まっていていい形が作れていました。まだパスミスはありますが、もっと精度は上がるはずです。

――1戦目で敗れたのは、出だしの部分が大きかったのでしょうか?
倉石 出だしと、ゴール下を荒らすことができなかったことです。ゴール下にある程度仕掛けられないとディフェンスを崩すことができません。特に相手ディフェンスを縦にずらすようなオフェンスが少なかったですね。

――それが2戦目でドライブを仕掛けて崩せるようになった?
倉石 はい。キックアウトもそうです。距離が伸びたので、ディフェンスがクローズアウトしづらくなりました。最後の方で点差を開くことができたのは、日本のしつこさにウルグアイの選手たちがやる気をなくしたからだと思います。これもウルグアイをよく知っているラマスHCの戦略かなと。しつこくやれば相手を追い詰められるとわかっていたんだと思います。

――ウルグアイはどういうメンバー構成だったのでしょうか?
倉石 アメリカ選手権や、国内リーグの決勝を見たのでウルグアイはある程度知っていますが、今回はベストに近いメンバーだったかなと。そのチームに勝てたのは評価できると思いますよ。

――新体制になってディフェンス面での変化はありましたか?
倉石 高めの位置からプレッシャーを掛けるようになりました。相手のガード陣が嫌がっていましたね。ポイントガードの富樫(勇樹/千葉ジェッツふなばし)と篠山(竜青/川崎ブレイブサンダース)を中心に、2番(シューティングガード)の比江島(慎/シーホース三河)や田中(大貴/アルバルク東京)も順番に相手のポイントガードにプレッシャーを与えていました。 190センチ台の比江島や田中がポイントガードにマッチアップするのは非常に効果的でした。

ディフェンス面で存在感を発揮した篠山竜青 [写真]=圓岡紀夫

――選手たちは「HCのやろうとしていることが全然できなかった」と口々に言っていました。その他にはどんな狙いがあったのでしょうか?
倉石 おそらくゲーム全体をとおしてもっと緩急をつける、つまりゲームテンポのアクセントをつけようとしていたと思います。 アルゼンチンがそうで、高速バスケットを仕掛けたり、わざとゆっくり仕掛けたり、相手にアジャストさせないオフェンスをやろうとしていたのかなと。自分たちでイニシアチブを取り、ゲームをコントロールできればもっと違った展開になっていたと思います。

――それができていた場面はありましたか?
倉石 2戦目の第3クォーターはできていましたね。最初の5分間は日本がゲームをコントロールしていました。まだ“即席チーム”なのでずっと続けるのは難しいですけど、アジアカップ(FIBA ASIAカップ2017)までの準備期間でもっと安定させられると思います。

――この2試合をとおして特に良かった選手は?
倉石 富樫、比江島、篠山、それと張本(天傑/名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)も良かったですね。

――富樫選手は得点源としては少しおとなしかった印象です。
倉石 それは富樫がポイントガードとしてゲームを作ることに専念したからです。今回は味方をうまく動かしながらオフェンスを機能させていたと思います。ディフェンス面では身長差のギャップを突かれたこともあって、篠山の良さが目立ちましたけど、あれは富樫との“合わせ技”なんですよ。富樫がスタートで出て相手ガードを疲れさせたおかげで篠山のプレッシャーがより効きました。またミスマッチについては、チームで守らないといけません。富樫がマークする選手にパスを出させない方法を考えないといけないんですけど、もっとプレッシャーを掛ける、もしくはダブルチームを仕掛けるなど、途中でその片りんは見られました。

司令塔としての役割を果たした富樫 [写真]=圓岡紀夫

――比江島選手は意識的にドライブを仕掛けている感じがしましたが、あれが攻撃の一つの形になるのでしょうか?
倉石 今のチームでドライブが一番うまいのは比江島です。相手にとっては非常に嫌ですし、オフェンスの切り札になってくると思います。

積極的なプレーを見せた比江島 [写真]=圓岡紀夫

――では、張本選手が良かったところは?
倉石 相手の4番(パワーフォワード)、5番(センター)とは身長差があるので、引きずり出してドリブルを突いてバンクショットを狙ったり、相手の嫌がるオフェンスができていました。これからは5番や4番にビッグマンではなく張本を使う形も出てきそうですね。“ストレッチ4”という格好での起用です。

――実際5番不在のような時間帯もありました。
倉石 アルゼンチンもそうだったんですよ。リバウンドでは相手の4番と5番に真っ向勝負しても勝てないので、4番と5番は抑えることに専念して、1番(ポイントガード)、2番、3番(スモールフォワード)の3人で取る。だから今回もリバウンドはいろいろな選手が取っています。

――そうした戦術を取るチームは結構あるんですか?
倉石 ビッグマンがいないからこその戦術なのであまり多くありません。日本が中国やイランといった国と戦う際には有効な手段だと思います。もちろん、本職のセンターがいるに越したことはないんですけど。例えば太田(敦也/三遠ネオフェニックス)は目立ちませんけどすごくいいプレーをしていました。ファウルがかさんでしまいましたが、ああいうファウルぎりぎりのディフェンスで相手を抑えられるのが太田の持ち味です。

――今回のゲームでは張本選手も、アイラ・ブラウン選手(琉球ゴールデンキングス)もあまりインサイドでプレーしていたイメージがありません。あれは故意にそうしていたのでしょうか?
倉石 そうです。あえてそういうポジションを取っていたんです。4番、5番が高い位置を取るとゴール下が空く。だから2番、3番がドライブを仕掛けやすくなるんです。その形がうまくハマってましたね。

スモールラインナップの日本代表でカギを握る張本 [写真]=圓岡紀夫

――アジアカップではグループリーグでオーストラリア(8月8日)、チャイニーズ・タイペイ(10日)、香港(12日)と対戦します。
倉石 今回のオーストラリアはNBA所属のメンバーがいないので、いい試合ができる可能性があります。サイズの差はありますけど、負けたとしても1ケタ台の点差だったら評価できるでしょう。台湾は東アジア選手権(東アジアバスケットボール選手権大会2017)で敗れた相手であり、ワールドカップ(2019年FIBAバスケットボール・ワールドカップ)の予選でも戦います。連敗を避けることはもちろん、日本には勝てないなと思わせるぐらいの結果を残してほしいですね。最終節で当たる香港には間違いなく勝てると思います。

――ウルグアイに勝ったことは選手たちの自信になるのでしょうか?
倉石 そうですね。率直な感想としてよくぞここまで変わってくれたなと。HCのおかげなのか、選手の成長によるものなのか。個人的にはその両方が相まっているようにも感じます。W杯やオリンピック(2020年東京オリンピック)が控えている中で素晴らしいスタートを切ってくれました。

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