若き新戦力が出現する中で選考レースの競争が激化した男子代表。「チャイニーズ・タイペイ戦だけに集中する」とフリオ・ラマスHC

サイズに加え、優れたジャンプ力が魅力の渡辺飛勇[写真]=小永吉陽子

ターゲットは2月22日のチャイニーズ・タイペイ戦

Bリーグオールスターの翌日、同じ熊本で男子代表合宿が行われた[写真]=小永吉陽子

「今、フォーカスしているのはチャイニーズ・タイペイ戦。その試合だけに集中する」

 フリオ・ラマスヘッドコーチはそう言って、2018年の初練習をスタートさせた。

 ワールドカップ1次予選に向けた男子代表の第12次強化合宿が、Bリーグオールスターを開催した熊本にて、オールスター明けの1月15日から3日間行われた。今回の強化合宿は、11月のワールドカップ予選に参戦したメンバーをベースとして、再度選考された候補22名が招集された。

 その中で今回の参加者は17名。欠席者は竹内公輔(栃木ブレックス)、川村卓也横浜ビー・コルセアーズ)、富樫勇樹千葉ジェッツ)、馬場雄大アルバルク東京)、西田優大(東海大学)。それぞれチーム事情や負傷などの理由があり、大学生の西田は授業の関係で欠席。いずれも、ラマスHCと面談をしたのちに欠席している。

 昨年11月の予選ではホームでフィリピンに、アウェーでオーストラリアに敗れ、崖っぷちに立たされた日本。2月25日には前回敗れたフィリピンとの再戦があるが、一番のターゲットとなるのは、冒頭の言葉にあるように、2月22日に対戦するチャイニーズ・タイペイだ。

 勝たなくてはならない試合を前に、2018年の初練習は予定時間を大幅に超えるハードなものとなった。今回の合宿ではチャイニーズ・タイペイへの戦略的なことの前に、1対1の攻防、ピック&ロールの際のディフェンスやリバウンドを獲るためのボックスアウトなど、日本のファンダメンタルとなる部分を重点的に行った。

 初日の練習では、中学3年生の田中力(坂本中学校)がマッチアップしていた比江島慎シーホース三河)を抜いたシーンがあり、選手からは冷やかしのような、はやしたてるような声が飛んだ。選手としてみれば盛り上げるつもりで発した声だったが、このとき実技指導していたエルマン・マンドーレアシスタントコーチは「ディフェンスで抜くシーンなんてよくあること。お祭り(オールスター)はもう終わった」と一喝。一瞬にしてピリピリした空気が体育館中に流れ、そこからの練習はさらに引き締まったものとなった。

若く可能性のある渡辺飛勇と田中力を候補に選出

日本代表への意識も高い田中力[写真]=小永吉陽子

 2月に予選を控え、選手間の競争は一層激しいものとなっている。中でも注目を集めたのが、日米の両国籍を持つ207㎝のビッグマン、渡辺飛勇(ヒュー・ワタナベ・ホグランド/ポートランド大学)と、2回目の選出となった中学3年生の田中力だ。ともに父親がアメリカ人、母親が日本人のハーフ選手。渡辺はハワイのイオラニ高校出身で、現在はNCAAディビジョン1のポートランド大1年生(今季はレッドシャツのため試合出場はなし)。田中は坂本中(神奈川)で関東大会に出場し、横浜ビー・コルセアーズU15チームに所属。U16代表候補でもある。

 ラマスHCは若き2人の選出理由について、「ヒュー(渡辺)は高い身長のわりには身体能力が高く、チカラ(田中)はタレント性と可能性がある。2人とも今すぐに勝利を決定づけるような選手ではないが、長期で育てることが必要」と語るように、育成の意味を込めての選出でもある。とくに、207センチで登録されている渡辺は、日本に現れた待望のビッグマンということで、今後も注目度は高まっていくことだろう。

 だが現時点での渡辺は、体の幅はあるものの筋力がないために、竹内譲次永吉佑也らインサイド陣とマッチアップしても力負けしてしまうし、身長に関しては、竹内譲次と並ぶとほんの数センチほど小さいサイズだ。それでも、期待のビッグマンに変わりはなく、ジャンプ力には目を見張るものがある。今回も攻防練習のほとんどをダンクで決めてみせるポテンシャルの高さを披露した。

 本人いわく、一歩踏み込んでのジャンプ力は「36インチ(約91センチ)」あるだけに、リバウンドとブロックショットを得意とする。そのジャンプ力はバレーボール仕込み。「大学の奨学金を目指すために、高校では一時期バレーボールをしていたので、ジャンプ力がついたのはバレーボールのおかげです」と笑う。まだ荒削りながらも、2メートルオーバーから繰り出すジャンプ力は魅力いっぱいだ。

「将来的にはリバウンドやショットブロックで貢献できる選手になりたい」と渡辺飛勇[写真]=小永吉陽子

 日本代表の練習に参戦した渡辺と田中は、以下のような手応えと感想を語っている。

「日本代表はビッグマンでスキルがある選手が多く、強くて速い。今まで僕の周りのアメリカにはそういう選手があまりいなかったので、すごくいい経験になりました。

 日本代表候補に呼ばれたことは名誉に感じます。小さい時から日本には特別な思いがあったので、日本のためにプレーできる夢がかないました。2月のチャイニーズ・タイペイ戦に選ばれたならば、自分の持っているものを全部出し切りたい。まず選ばれることが第一で、選ばれたら全力でチームをサポートしたい。将来的にはリバウンドやショットブロックで貢献できる選手になりたい」(渡辺飛勇)

「日本代表選手とはフィジカルもスキルも違うので、自分ができないことがとても多くて悔しいですけど、それが現実なので頑張るしかありません。日本代表の合宿は慣れていないので、全部に苦労しています。前回は緊張しすぎて自分のプレーが出せず、今回も緊張はしているけど、前回よりはアピールできたと思います。でも、ディフェンスで抜いてもシュートが入らなければ意味がありません。

 中学では自分がやらないと点が取れないけれど、日本代表では周りを生かすことを覚えて、シュート力をつけて全体的にレベルアップしたい。ポジションはまだわからないけれど、1番と2番ができるようになりたいです」(田中力

試合前日までエントリー変更可能。代表入りをかけた熾烈な競争は続く

 今回は22名の選手が代表候補として招集されたが、次回の合宿はこのメンバーが選出されるとは限らず、常に競争となる。FIBA(国際バスケットボール連盟)の規定では、ワールドカップ予選の試合ごとに24名の予備エントリーを事前に登録し、その中から12名の代表を選出することになっている。エントリー変更がある場合も登録した24名の中から行い、試合の前日まで変更できるシステムだ。

 ラマスHCは「いい選手がいたら常に合宿に呼びたい。コートの中では年齢は関係ないから常に競争してほしい」と話す。2月のワールドカップ予選における24名の登録は2月上旬。次回は、Bリーグの再開を挟み、1月末から2月22日のチャイニーズ・タイペイ戦まで、毎週3日間の強化合宿を予定している。

ロースター入りを勝ち取る激しい争いがチーム力を自然と高めていくはず[写真]=小永吉陽子

取材・文=小永吉陽子

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