2022.08.14

攻防両面で日本を活性化させる河村勇輝「トムさんのバスケットが僕に合っている」

イランとの第2戦で、3得点5リバウンド5アシスト3スティールを挙げた河村[写真]=伊藤 大允
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。

 14日、男子日本代表が「FIBA ワールドカップ2023 アジア地区予選 Window4」へ向けたイランとの強化試合、「SoftBank カップ 2022」に臨み、80-58と前日に引き続き勝利を収めた。

 馬場雄大のダンク、富樫勇樹千葉ジェッツ)の連続3ポイントシュート、比江島慎宇都宮ブレックス)のドライブインレイアップなど、光るプレーを見せた選手はほかにもいたが、新鋭・河村勇輝横浜ビー・コルセアーズ)も彼「ならでは」と唸らされるプレーぶりで、ゼビオアリーナ仙台に集まった3126人の観衆を沸かせた。

 ワールドカップアジア地区予選Window3から選出されているポイントガードは、この日もこれまでと同様にベンチから登場し、いきなり持ち味を発揮する。

 第1クォーター残り2分強。相手のバックコートからポイントガードにプレッシャーをかけスティールに成功した河村は、横を走り抜ける馬場の姿を認めるとすかさずパスを送り、同選手のダンクにつなげる。

 その直後には、ディフェンスリバウンドを取った永吉佑也ライジングゼファー福岡)からボールを受け取るやいなや、フロントコートを走る馬場にボースハンズで強いパスを送ると、馬場がレイアップで再び得点。人気選手2人による連続の好プレーに、スタンドが揺れた。

 後者のプレーについては、河村は自陣のリングの近くにいて馬場までの距離はかなりあり、かつ彼を追うディフェンダーもいたため、簡単なパスではなかったように見受けられた。が、河村は武器である視野を生かしてボールをもらう前に「誰が前を走っているかは確認」(河村)するなど、状況を把握していたという。

「オフェンスだけじゃなくてディフェンスの位置など、前方で起こっていることを確認しながらです。特に馬場選手だと強くパスをしても(身体)能力もありますし、相手選手よりも飛べる感覚もあると思うので、そこは思い切りでも大丈夫かなという気持ちで投げました」(河村)

河村はアグレッシブなプレーにより、攻防両面でチームを活性化させた[写真]=伊藤 大允

 素早さと手の使い方を生かしてプレスをかけながらスティールを奪う場面はアジアカップから何度もあったが、それ以外のディフェンスにはまだ課題も多いとして河村。アジアカップでイランと対戦した際には、オフボールで相手のエースポイントガードのベナム・ヤクチャリの狡猾な動きに翻弄されたところがあった。

 14日の試合でのヤクチャリとのディフェンスでのマッチアップでは、オフボールでは体を当てながら自由にプレーさせないこと、またポストアップされても押し負けないよう同様にフィジカルに守り、ターンした相手の手からボールをかきだすなど、上記の課題を克服したかのようなプレーぶりだった。

 試合後の取材で河村は「1対1での対人では負けない自信はありますが、まだまだ高さの部分での問題はあります。平面やフィジカルの部分では戦えると思っているので、今後もそういったコンタクトを嫌がらずにしっかりと戦っていきたいと思っています」と力強く答えた。

 類まれな能力とパスセンスで毎試合アシストとスティールを量産し続ける河村だが、それでも、まだまだトム・ホーバスヘッドコーチが求める高いレベルのパフォーマンスを安定して出せているとは言えない。

 この日の試合でも、オフェンス時にリングを見ない、つまりは攻める機会がありながら自ら得点をしにいこうとしない姿勢を咎められ、ベンチに下がる際にホーバスHCとコーリー・ゲインズアシスタントコーチから言葉をかけられている。
 
 ホーバスHCは試合後の会見で、河村のそういった得点への消極性について「なぜかわからないけど、今日はちょっと注意をしました。リングをまったくみていなくてパスばかりをするポイントガードでした」と話した。

「全員で相手に(得点の)プレッシャーをかけないのは良くないこと。今日の第4クォーター、相手の彼に対するマークマンはずっと下がって守っていたのに、彼はリングを見ていなかったです。相手が下がっているからドライブインもできるし、カッティングもできるはずなのに、なんで打たないのかと思いました。ちょっと町田瑠唯(WNBA/ワシントン・ミスティックス)っぽい(苦笑)」(ホーバスHC)

 その後、コートに戻った河村は、3ポイントを2本放ちうち1本を沈めている。

 もちろん、注意を受けて面白いはずがない。河村はしかし、それも自身の成長への糧になるとポジティブに考えているはずだ。それは、ホーバスHCの採用するオフェンスでのファイブアウトを中心としたスピード感のあるスタイルに、自身が合致していると信じているからだ。

「本当、トムさんのバスケットが僕に合っていると思いますし、自分のプレースタイルを発揮することがトムさんの戦術にも合っているので、(このチームで)できていることがすごくうれしいことですし、やりやすさを感じているので、思う存分、強みを発揮すべきだと思っています」(河村)

 まだ若い。だからこそ伸びしろは大きい。月末に迫るワールドカップ予選のWindow4では、今回の強化試合で得た課題と収穫を経験値に替えた河村のさらに進化した姿を期待したい。

取材・文=永塚和志

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