2023.02.27

W杯へ向けて河村勇輝は高みを目指す「いいときこそ悪いところにフォーカスしてやれるか」

バーレーン戦で日本の勝利に大きく貢献した河村[写真]=野口岳彦
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。

 2月26日に高崎アリーナで「FIBAバスケットボールワールドカップ2023 アジア地区予選」Window6が行われ、男子日本代表(FIBAランキング38位)がバーレーン代表(同84位)に95-72と快勝を収めた。

アジア地区予選で変貌を遂げた若き司令塔

 今、国内でもっとも急速に成長を遂げている選手で、このWindowでもどれだけ活躍するか事前から注目を集めていた河村勇輝横浜ビー・コルセアーズ)はこの試合、前半は無得点も、後半に得意の速攻などから13得点を挙げるなどで日本に勢いを与えた。

 昨夏、A代表で正式デビューを果たしてから8カ月ほど。しかし、その間の21歳のポイントガードは従前からのパスを中心としたスタイルから、自らの得点で相手に脅威を与えるそれへと変貌を遂げた。

 同アジア予選の出場7試合の平均は10.4点だが、得点への意識が高まったWindow5以降の4試合のそれは15.3点へ、平均の3ポイント試投数も前3試合の平均1本から4.5本へと上がっている。3ポイントの成功率はこの4試合のスパンでは44.5パーセントだった。

 そういった進化を今回のWindowではどれだけ見せてくれるかが、見どころの一つだったが、AKATSUKI JAPANでもよりアグレッシブな、スコアラーとしての姿を披露した。

バーレーン戦では13得点9アシスト3スティールを挙げた河村[写真]=野口岳彦

 得点する力量は、以前から持っていたはずだが、それを生かそうという意識を、トム・ホーバスヘッドコーチからの愛情ある「喝」で呼び起こしてもらった。今回のバーレーン戦では前半、シュートが入らなかったことを反省した河村だが、それでも「打ち続けるメンタリティー」(河村)については自負を持ったトーンで話した。

「そういうメンタリティーはBリーグで培ったところもありますし、(自身10得点を挙げた)最終クォーターで点につながった部分もあると思うので、代表でも生きていると思います」(河村)

 Window前の取材対応で、河村が30得点以上の試合を何度もマークしたことについてホーバスHCは「あそこまでできるとは思っていなかった。代表レベルでどこまであれくらいできるかどうかが楽しみ」と語っていたが、河村が昨夏以来描く成長曲線に同指揮官も満足げだ。

「Window3、4のころの彼はパッシングのポイントガードでした。しかし今の彼は3ポイントを、自信を持って打ちますし、相手からすれば何をしてくるかわからない選手になっています。相手守備選手が出てくれば、なかに入っていって得点ができます。彼の才能は花開きましたし、もっと良くなっていくでしょう。彼の判断を下す速度はかなり速くなりましたし、相手守備がやってこようとしているのを見てアタックしています。去年までの彼なら、プレーが進行するのを待ってしまって、相手には引いて守られてしまっていました。ですが今の彼はアタックができますからね」(ホーバスHC)

河村は代表デビューから、驚異的なスピードで進化を続けている[写真]=野口岳彦

世界との戦いへ向け、気を引き締める河村

 今シーズン、自チームの信州ブレイブウォリアーズが、河村に試合残り数秒から逆転ショットを決められ敗戦しているジョシュ・ホーキンソンは、この若き172センチのポイントガードが「Bリーグでもっとも恐れられる選手の一人になるのではないか」としている。今回のWindowから新たな帰化選手として代表入りしたホーキンソンは「いいコネクションを築くことができた」(ホーキンソン)と、河村との相性の良さについて話したが、このタンデムは今後、日本代表の「ワン・ツー・パンチ」の一つとなっていくかもしれず、楽しみだ。

 バーレーン戦ではまた、河村と富樫勇樹千葉ジェッツ)が同時にコートに立つという場面もあり、会場を沸かせた。河村は所属の横浜BCでも最近ではポイントガードの森井健太と同時に出場することも増えている。いずれの場合でも、その得点力から河村にいわばシューティングガード的な役割を期待する部分もあってのことで、ホーバスHCもこういったポイントガード2枚の今後の起用について「長い時間は難しいかもしれないけど短い時間ならありうるかもしれない」と示唆した。

ホーバスHCは試合終盤に富樫と河村の同時起用を試した[写真]=野口岳彦

 一方、周囲からの称賛の声をよそに、河村本人が浮かれる様子はまったくない。バーレーン戦の前半、とりわけ第2クォーターで日本がやや波に乗り切れず、大きく突き放すことができなかった点については「チームを乗せきれなかったのはポイントガードの責任。ファウルが多くなってしまったところでもコートにいるポイントガードとして声がけはもっと必要だった」(河村)と、快勝のなかにも反省の弁も少なくなかった。

 このままいけばワールドカップ本戦のメンバー入りの可能性はかなり高いと思われるが「代表定着とかまったく甘い考えはない」(河村)とあくまで自身を律する。まだまだ世界レベルの相手と伍していくには足らないと感じているからだろう。

「まだ高みを目指していかないといけないと思いますし、いいときこそ悪いところにフォーカスしてやれるかっていうのが大事。シーズン後半戦、Bリーグでしっかり成長してチームとしていい成績を残せるように引っ張っていきたいなと思います」(河村)

 引っ張っていきたい、と言った。その思いは、日本代表においても同じであるはずだ。

 ワールドカップ本戦でも日本の中心選手としてやりたい――。

 河村が目指す「高み」はそういったところにあるのではないか。

取材・文=永塚和志

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