2022.12.16

東京医療保健大・伊森可琳が特別な思いで臨んだラストイヤー…「私にとってはプレーできただけでも」

運命の最終学年を無事終えた東京医療保健大の伊森可琳 [写真]=伊藤大允
中学や高校、大学などの学生バスケットをはじめ、トップリーグや日本代表と様々なカテゴリーをカバー。現場の“熱”を伝えるべく活動中。

最上級生として戦った1年間

 12月15日、「第89回皇后杯 全日本バスケットボール選手権大会」のファイナルラウンド準々決勝が行われ、4日前に「第74回全日本大学バスケットボール選手権大会(インカレ)」を制した東京医療保健大学が富士通レッドウェーブと対戦した。

 190センチのジョシュア ンフォノボテミトペ(4年)のインサイドプレーや林真帆、池松美波(いずれも3年)らの3ポイントシュートなどで得点を重ねた東京医療保健大は一時10点以上のリードを奪う展開に。しかし、終盤にジリジリと詰められると、最後は富士通の町田瑠唯らに要所でシュートを許し、67-69で惜敗した。

「テミトペが起点となってペイントアタックから外という流れを作れたと思うのですが、個人的にはシュート確率とディフェンスでのパフォーマンスが今一つだったと思います」と、試合を振り返ったのは東京医療保健大の伊森可琳(4年)。

学生としての最後の試合、富士通に互角の戦いを見せた [写真]=伊藤大允


「インカレではもう少し余裕を持って視野も広くプレーできたのですが、Wリーグの選手はディフェンスの『圧』があり、オフェンスでも一つ、二つとこちらが止めてもその次まで攻めてくる。大学生なら(一つ二つ止めれば)あきらめるのですが、しっかりその先までやってくるなと感じました」とも感想を語った。

 この試合では約23分の出場で2得点2リバウンド2アシストに留まった伊森だが、今年は最上級生として奮闘。春のトーナメント戦は優勝、秋のリーグ戦では準優勝、そして冬のインカレでは優勝と、輝かしい成績を残したチームの中心となり勝利に貢献した。11日のインカレ決勝で15得点6リバウンドを奪取したことは記憶に新しいだろう。加えて、個人では10月に3x3U23日本代表として「FIBA 3x3 U23 World Cup 2022」にも出場している。

中3と高3で味わった大ケガによる戦線離脱

 大学最後の年に持てる力を存分に発揮した伊森。だが、この1年は彼女にとって特別な思いのある1年だった…。

 伊森は、藤浪中学校(愛知県)の2年生のときに全国中学校バスケットボール大会(全中)で準優勝を経験。もちろん、3年ではエースとしての活躍が期待されていたのだが、3年生に進級する直前、春先に足の大ケガを負ってしまう。その後チームは、夏の全中に出場したものの、伊森はそのコートでプレーすることはできなかった。

 それでも、中学卒業後は名門の桜花学園高校(愛知県)に入学。着実に力を付けていくと、2年生ではスターターに名を連ね、インターハイ、ウインターカップと戦い抜く。

 だがしかし、またしても最終学年となった3年生のときに大ケガに見舞われてしまう。主力として臨む予定だったインターハイの約1週間前でのアクシデント…。結局、この年は全国大会でエントリー入りすることはなく、復帰に向けた治療とリハビリに明け暮れた。

 中学、高校と相次ぐケガによる離脱。いずれも最後の年に懸ける思いは強かっただけに、その心境は図り知れないものがある。

 だからだろう、「中学、高校とケガでつらい思いをしていたので、大学4年生になったときもすごく心配だったんです…」と、当時を思い出しながら語った伊森の目からは大粒の涙があふれ出した。

「でも、そこでブレちゃいけないと思ってやり続けて。初めて“ラストイヤー”のコートに立てたことはすごくうれしかったし、私にとっては、プレーできただけでもうれしかったんです」
 

“ラストイヤー”を無事終えただけでなく、収穫の多い一年となった [写真]=伊藤大允

これからも憧れの人の背中を追って…

 中学、高校の無念を大学で晴らした形となった伊森。その東京医療保健大での4年間を「2年生から試合に出させてもらい、インカレで連覇できたことはすごく良い経験になりました」と、語る。

 プレーでは高校時代のセンターからフォワードへと変更し、「そこで結果を残すという目標を達成できた」という手応えもつかんだよう。また、「人としてもすごく成長できました。それまでは遠慮したり、コミュニケーションを取るときもあまり言えなかったりしたのですが、それだと成長しないし、力を100パーセント出し切るにはそういうことも必要だと気づきました。自分の軸を持つようになったし、考えをしっかりと持って、それを人に伝えるといったことが、バスケットにも生きていると思います」と、気持ちの変化は大きかったとも振り返った。

 皇后杯をもって学生バスケは終了となった伊森だが、この先は昨シーズンのWリーグ準優勝チーム、富士通レッドウェーブへの入団が決まっている。すでにWリーグからも発表されているように、アーリーエントリーの選手として1月6日以降の公式戦には出場が可能だ。

 そんな伊森にはずっと憧れてきた人がいる。それがトヨタ自動車アンテロープスの山本麻衣。ともに広島県出身で学年が一つ上の先輩でもある山本は、広島時代に同じミニバスでプレーした仲。その後、山本を追いかけるように伊森も藤浪中学校、桜花学園高校と進み、とともに日本一を目指した。

 山本は高校卒業後、トヨタ自動車へ入団。伊森は大学へと進んだため、5年間は異なるカテゴリーでプレーしていたが、「高校を卒業して違う道に進んでも気にかけてくれて、インカレで優勝したときもメッセージをくれました。本当に良い関係を築けていると思っています」と、伊森は言う。

 これまで何度となく心が折れそうな経験をしてきた中、自らの手で日本のトップリーグへの扉を開いたのは伊森の努力にほかならない。

「別のチームではありますが、私も麻衣さんのようにWリーグで注目されるようなプレーヤーになりたいと思っているし、同じコートでプレーできることがすごくうれしいです」

 大学でのかけがえのない4年間を過ごし、最後の1年では大きな存在感を放った伊森。これからは新たな目標を胸に、憧れの人が立つ舞台へと足を踏み入れる。

これからは憧れの先輩がプレーするステージへ踏み出していく [写真]=伊藤大允


取材・文=田島早苗
写真=伊藤大允

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