2017.04.21

【独占インタビュー】キャプテン吉田亜沙美が明かすJX-ENEOSの強さの秘訣と自身一番の課題

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前人未踏のシーズン無敗を成し遂げ、オールジャパンとWリーグの2冠を達成。昨シーズン、JX-ENEOSサンフラワーズは非の打ちどころのない成績を残した。圧倒的な強さを見せるチームを引っ張ったのは、キャプテンでポイントガードの吉田亜沙美だ。Wリーグでは2年連続5回目のベスト5に選出され、プレーオフMVPも獲得。リオデジャネイロ・オリンピックでの活躍がまだ記憶に新しい女子バスケット界のヒロインは、貪欲にコートを走り続け再びナンバーワンPGの座を手中に収めた。3月に戦いを終えて一息つき、緊張の糸を解いた吉田に激動のシーズンを振り返ってもらいつつ、オフの過ごし方から来シーズンへの想い、さらに知られざるプライベートまで惜しげもなく語ってもらった。

インタビュー=安田勇斗
写真=山口剛生

――昨シーズンは全戦全勝で2冠を達成しました。どんな1年でしたか?
吉田 シーズンをとおして本当に楽しくバスケットができた1年で、今までにはない感情で終えることができました。

――楽しめた気持ちはどういったところから生まれたのでしょうか?
吉田 今までは勝たなきゃとか、優勝しなきゃとかそういう気持ちが大きくて、バスケットを好きな気持ちだったり、楽しむ気持ちだったりを忘れていた感じがあったんです。でも昨シーズンは自分たちのプレーができて、バスケットが大好きで楽しいんだってことを思い出させてもらいました。トム(ホーバス/現日本女子代表ヘッドコーチ)の考えるJXのバスケットが確立されて、リラックスしてプレーできたことが大きいと思います。私自身もそうですけど、チームメートも楽しそうにプレーしていたのはすごくうれしかったです。

――チームとして、個人としてそれぞれどんな点で伸びたと思いますか?
吉田 チームとしては、控えの選手が成長して全体の底上げができたと思います。トムが開幕前に「スターターと控えの差を埋めたい」と言っていて、そのとおりにできたかなと。控えの選手たちの努力によってチーム力が高まったと感じています。私自身はさっきも言ったとおり、楽しんでできたこと、リラックスしてできたことが良かったところです。気持ちに余裕が出てきて、冷静に判断できるようになったり、流れを読めるようになったり、プレースタイルも少し変わったと思います。

――より周りが見えるようになった?
吉田 そうですね。それまでは自分がやらなきゃとか、結構自分を追い詰めちゃうところがあったんですけど、今は状況に応じていろいろな判断ができるようになったかなと。

――Wリーグファイナルではトヨタ自動車アンテロープスと対戦しました。優勝を決めた第3戦では勝負どころで3ポイントを決めるなど、判断力が光っていたと思います。
吉田 実は昨シーズンは、アウトサイドのシュートが全然入らなくてずっと悩んでいたんです(笑)。何がダメなのかもわからないぐらい深刻でした。強さなのか、足の使い方なのかわからず、シュートフォームも変えたんですけど全然入る感覚がなくて。入っても感覚は違って、形も定まらなくて、ずっとチームに迷惑を掛けていた中、ファイナルでやっと入ったんですよ(笑)。ファイナルだけは絶対決めたいと思ってましたし、あれは気持ちで入ったシュートだと思います。

――では根本的な解決には至っていない?
吉田 至ってないですね(笑)。だからこれからもう一度自分のシュートフォームを作り直して、徹底的に研究して練習して決められるようにします。私のポイントガードとしての一番の課題はシュートで、打つ本数が限られている中で、確率高く何本沈められるかが重要なんです。そのためにもオフに打ちこんで、自分のシュートを確立していきたいと思っています。

――チームの底上げ、という点で具体的にどんな成長が見られましたか?
吉田 みんな気持ちが強くなりました。昨シーズンはトムが開幕戦からいろいろな選手を起用しました。でも、ただ起用しただけではなくて、試合をこなしていく中で結果を残さないと次は使ってもらえないという危機感も植え付けたんです。だから一人ひとりのリングに向かっていく姿勢が変わりました。うちはシューターが多いんですけど、それまでは状況にビビッてシュートを打たない選手もいたんです。でも昨シーズンはみんなが積極的にプレーして、みんながチームに貢献しました。それがチームの底上げにつながったんだと思います。

――完璧と言えるシーズンでしたが、その中であえて課題を挙げるなら?
吉田 周りは「圧倒的な強さだった」と言ってくれますけど、自分たちの中ではダメな試合もあったし、JXのバスケットができなかった試合もありました。私自身も今は調子が良くないなと思う時期もありましたし、その波をなくすことが課題だと思っています。1シーズンをとおしてJXのバスケットをする、質を落とさず続ける、それを来シーズンは徹底していきたいです。

――そのチームを、キャプテンとしてまとめる立場にあります。自分ではどんなキャプテンだと思いますか?
吉田 言葉で伝えるタイプではなく、プレーで付いてきてもらえるようにと思っています。私自身、しゃべるのが苦手ですし、ダメなところはダメとは言いますけど声を掛けるのは大事な時だけです。ただキャプテンである以上、自分に付いてきてもらえるようにしないといけないので、1つのルーズボールでもリバウンドでも体を張って取りにいくところなど、そうした気持ちの部分をプレーで見せていきたいです。

――コート外でもチームメートとコミュニケーションはよく取りますか?
吉田 少し前までは後輩と仲良くしようと思ってなくて(笑)。私がそういう感じだったので、後輩も話しかけづらかったと思いますけど、でも最近になって、後輩が大事な存在だと理解して、自分からコミュニケーションを取るようになりました。

――先輩とはどうだったんですか?
吉田 逆に先輩とは仲が良かったですね。末っ子なので、上の人とは話しやすいかもしれないです。私めちゃくちゃ人見知りなんですけど(笑)。

――人見知りでもファンサービスはしっかりとやっていますね。
吉田 最近意識してするようになりました。(リオデジャネイロ)オリンピックの後、内海(知秀/前女子日本代表HC)HCからファンが増えるだろうから、ファンサービスはしっかりやろうと言われて。私は内海HCにずっと指導していただいて、言われたことは絶対に守ると決めているので、どこに行ってもファンの方々にはしっかり対応しようと心掛けています。

――リオ五輪の話が出ましたが、昨シーズンはこれまでとは違ったシーズンだったと思います。3年後に東京五輪も控える中、どういう位置付けのシーズンとして臨んだのでしょうか?
吉田 バスケットはまだメジャーなスポーツではないので、リオ五輪の盛りあがりだけで終わらせないようにと思っていました。そのために良いプレーをして、もっともっとファンを増やさないといけないなと。一方で東京五輪に向けて第一歩になるシーズンで、日本がより強くなるための成長の年になると考えていました。リオ五輪に出た選手は、その実績に恥じないプレーを見せないといけないですし、東京五輪で良い成績を残すためにはもっとステップアップしないといけない。リオに行けなかった選手も、2018年の世界選手権(FIBA女子バスケットボール・ワールドカップ)や東京五輪に向けてアピールしないといけない。大きな目標に向けての成長のシーズンであり、実際そういうシーズンになったと思います。

――では来シーズンは?
吉田 来シーズンが終わると世界選手権があるので、そこを見据えたシーズンになると思います。全選手が日本代表に選ばれるチャンスがありますし、高いモチベーションで臨めるかなと。みんながそういう気持ちで戦うことで、日本代表のレベルアップにもつながっていくと思います。

――JX-ENEOSの目標は?
吉田 HCが変わりましたけど、昨シーズンと同じく2冠を目指します。トムがいなくなる不安はありますけど、まずはトムが教えてくれたスタイルや楽しさを継続して、さらに成長していく。昨シーズンのチームを超えることを目標に戦っていきます。

――昨シーズン、無敗で2冠という最上級の結果を残した中で、モチベーションはどう維持していくのでしょうか?
吉田 昨シーズンは対戦相手よりも、毎試合トムと戦っていたイメージが強かったんです。トムはいつも「もっとできる」と言ってくれました。自分たちを信じて、期待してくれて。それがうれしかったですし、トムの期待に応えたいという気持ちが大きなモチベーションになっていました。トムがいるいないの差はありますけど、HCが変わってもその気持ちを変わらず持ち続けてプレーしていきます。

――佐藤清美HCはどういうタイプの指導者ですか?
吉田 以前JXのHCを務めていて、スタイル自体はトムと変わらないので、私自身は何も変わらないと思っています。

――あれほど完璧なシーズンを送ると、次のシーズンを迎えるのが嫌にならないですか(笑)?
吉田 そうですね(笑)。もちろん怖さはありますよ。周りの期待も大きくなるので。でもこれまでも連覇を続けてきて、いろいろなことを言われてきたので慣れました。無敗というのは、トムのバスケットを続けた結果であって、勝敗数のこだわりはありません。来シーズンもそこは気にせずやっていきます。

――バスケットのスタイルにこだわりを持っていますが、自分たちのバスケットをすることと、勝敗ではどちらを優先しますか?
吉田 自分たちのバスケットをすることです。

――それができたら負けてもいい?
吉田 それで勝てなかったら、相手がそれだけ強かったというだけなので。でも自分たちは、JXのバスケットができれば絶対に負けないという自信を持っていますし、少なくとも昨シーズンは、自分たちのバスケットができれば負けることはなかったと思います。

――5月からチームは再始動しますが、オフはどのように過ごすんですか?
吉田 とりあえず体を休めて、好きなことをします。甥っ子と一緒に遊んで癒されたり(笑)。

――Twitterのカバー写真も子どもの写真ですね。
吉田 子どもが大好きで、あそこに写っているのは甥っ子と親戚の子どもたちです。

――甥っ子とはどんな遊びをするんですか?
吉田 実家で会うことが多くて、電車とかバスとかのおもちゃで遊んでいます。あとこの前、ディズニーランドに行ってきました。

――その他にオフはどんなことをしていますか?
吉田 友達と遊んだり、シャンソン(シャンソン化粧品シャンソンVマジック)の本川(紗奈生)と仲がいいので2人で出掛けたり、JXの先輩や同期と食事に行ったりしてます。

――趣味はありますか?
吉田 うーん、ないかな。インドア派なので、ずっと家にいます(笑)。出掛けるって決めたらとことん行きますけど、基本的にはダラダラしてテレビを見てケータイを見て、お腹がすいたらご飯を食べて。

――自炊もするんですか?
吉田 しないです(笑)。練習がある日は寮で食べて、あとは外食が多いですね。

――テレビでは他のスポーツも見ますか?
吉田 他のスポーツにあまり興味がなくて。だからといってバスケットの試合を見るかというとそうでもなくて。自分の試合はなおさら見たくないです(笑)。テレビは、録りだめしたドラマを見ることが多いですね。

――趣味ではないですが、髪型はよく変えますね。
吉田 はい、そこはこだわってます。常に違う髪型、やったことがない髪型にしたいなと。JXに入ってからいろいろやるようになって、色もコロコロ変えたり、長さも短くしたり伸ばしたり。これも1つのモチベーションになりますね。でも、もう入れたことがない色がなくて困ってます。黒に染めるぐらいしかなくて(笑)。

――髪型もそうですし、見た目に気を遣っていて、多趣味なのかなと思っていました。
吉田 無趣味です(笑)。髪型以外だと、バッシュは好きですけど、あとはもう甥っ子だけですね。私は2人姉妹で、姉(吉田沙織/元日本航空)ともすごく仲がいいんです。姉と甥っ子に会うことが趣味になってますね(笑)。

――どんなお姉さんですか?
吉田 バスケット選手だった時はバスケットの考え方だったり、努力することの大切さだったりを姉から教えてもらい、今もすごく尊敬しています。あまり試合に出られなかったんですけど、バスケットが好きでずっと続けて。そういう姿を間近で見て、見習うようにしていました。姉から学んだことは本当にたくさんあります。

――今はどんなことを話すんですか?
吉田 自分が今後どうしていきたいかを話したり、姉も今指導者なのでどういう状況かを聞いたり、いろいろな話をしますね。甥っ子の話もしますし(笑)。

――人生相談もするんですね。
吉田 そうですね。でも私、少し前までは家族にバスケットのことを話さなかったんですよ。ここ最近ですね、姉に話すようになったのは。

――それまではチームや友人に相談相手がいたんですか?
吉田 1人だけ、同期の寺田(弥生子/元JX-ENEOS)には話していました。自分の本当の気持ち、バスケットに対する気持ちを話せたのは寺田だけで、昨シーズンもずっと話してましたし、彼女がいたからここまで踏ん張ってバスケットを続けることができたんだと思っています。

――その中で新しい相談相手も見つかったんですね。
吉田 はい。姉にも少しずつ話せるようになって、相談……というか話を聞いてもらって、いろいろな言葉をもらい支えてもらっています。

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