2019.10.04

【Wリーグ開幕特集/昨季4強の指揮官に聞く今季展望】トヨタ自動車・ルーカス・モンデーロヘッドコーチ

トヨタ自動車の指揮を執る世界的名将のルーカス・モンデーロヘッドコーチ
中学や高校、大学などの学生バスケットをはじめ、トップリーグや日本代表と様々なカテゴリーをカバー。現場の“熱”を伝えるべく活動中。

「日本とヨーロッパのスタイルを合わせることで強化していきたい」

 第21回のWリーグが10月4日より開幕する。昨シーズン、前人未到の11連覇を達成したJX-ENEOSサンフラワーズが連覇を“12”に伸ばすのか、はたまたJX-ENEOSを止めるチームがでるのか、興味は尽きない。

 今回は昨季の4強、JX-ENEOS、三菱電機コアラーズ、トヨタ自動車アンテロープス、デンソーアイリスのヘッドコーチにシーズンに向けての話を聞いた。

「トヨタ自動車の選手たちはタレント性があり、才能を持っている選手が多い」

――最初にトヨタ自動車のヘッドコーチを選んだ理由を教えてください。
モンデーロ 私は中国で4年(山西)、ロシアで3年(ダイナモ・クルスク)、その国の女子のトップチームのヘッドコーチをしていました。それぞれに違う挑戦がありましたが、日本のバスケットは今、進歩できる瞬間に立っていて、その日本で挑戦する機会が訪れたので、オファーを受諾しました。トヨタ自動車自体もチームを強くするいい時期であると思ったので、断ることは考えなかったですね。

――現在も女子スペイン代表のヘッドコーチです。昨年の女子ワールドカップでも日本と対戦しましたが、日本のバスケットについてどのような印象を持っていますか?
モンデーロ 私がスペインの代表として初めて日本と対戦したのはU-19女子世界選手権、2009年のタイで行われた大会でした。その後、オリンピックでも日本のプレーを見てきましたし、世界大会でも対戦してきました。日本はプレーの中で状況を把握し、意思決定を取れる選手たちがもっと育てば、他国と比べて身長は低いけれど、そのデメリットを今以上に補えるのではないかと思います。また、今の女子日本代表のメンバーは歴史上一番いいメンバーだとも感じています。

――トヨタ自動車の印象はいかがですか?
モンデーロ スペイン代表として日本代表対戦したことがあるので選手の何人かはすでに知っていました。タレント性のある、才能を持っている選手が多いですね。特にアウトサイドの選手たちは若手も多く、まだまだ成長できる選手がそろっていると感じます。

――初めて指揮を執る今シーズン、目指すプレースタイルは?
モンデーロ 日本人のプレースタイルがどのようなものなのかをしっかりとサーチして、そこからヨーロッパのプレースタイルを組み合わせていきたいと思っています。つまりは日本人のプレースタイルを変えるということではなく、日本人のプレースタイルとヨーロッパのスタイルを組み合わせることでさらに強化していくということです。

 私が選手たちに教えていることはプレーでの状況を読めること、そこで意思決定を取れるような選手になるための育成をしたいと思っています。ファンの方々が楽しめるようなダイナミックなプレースタイルを目指して行きたい。トヨタ自動車アンテロープス独自のスタイルを作っていきたいとも考えています。

 特にディフェンス面は強化したいところで、「私たちのオフェンスはディフェンスから始まっていく」というキーフレーズの下、相手オフェンスを守るのではなくて、オフェンスに対してアタックしていく、相手のミスを待つのではなくミスをさせるようにしていくことを意識しています。でも、これは言葉にするのは簡単ですが、行動に起こすことは難しいですね。

――WリーグはJX-ENEOSが11連覇中です。
モンデーロ JX-ENEOSは、長い間上手にチームを構築しています。それに日本でも素晴らしいガードが一人いますね、吉田亜沙美です。その他にも日本ではなかなか存在しないビックマンである渡嘉敷来夢がいて、日本の中でも良いガードと良いビックマンがそろっている。勝つのは大変だと思います。現時点でトヨタ自動車の選手たちはとてもいい練習をしていますが、大きな目標をクリアするには長期間が必要で、すぐにJX-ENEOSを倒すことは難しいかもしれません。でも、数年間にわたってチームを作っていけば勝てるのではないかとも思っています。

 もちろん、目標は優勝すること。でも、3年計画で少しずつその目標に導きたい。今シーズンはまずファイナルまで行くこと。そして来シーズンは皇后杯かWリーグのどちらかで優勝すること。さらに3年目では2冠獲得ができるチームに築き上げたいと思っています。

情熱を持って指導に当たるルーカス・モンデーロヘッドコーチ

リオ五輪準優勝などスペインを世界トップへと導く現役代表HC

――モンデーロさんは世界的な名コーチです。少しご自身のお話を聞かせてください。バスケットはいつ始めたのでしょうか。
モンデーロ 10歳からです。12年間、22歳までプレーしていましたが、足首痛めたこともあり、引退しました。でもコーチは17歳の時からしていました。

――なぜコーチになろうと思ったのですか?
モンデーロ 情熱を感じられるのがバスケットだったからです。ただ、その時はプロのコーチになるかどうかなどを思ったことはなく、ただ単にバスケットが好きだった。20代の時に3チーム同時に見ていて、土曜日午前に1チーム、午後に1チーム、日曜の午前に1チームといったこともありましたね。

――プロコーチとしてのスタートは?
モンデーロ 20年前の1999年、スペインのチームでした。そこで12年間指導して、ヨーロッパ、中国、ロシアと8年間、指導をさせてもらいました。それと同時に女子スペインの代表チームも見ています。スペイン代表でいえば、2008年にU-19女子代表。2011年からはシニアに移りました。アンダーカテゴリーも入れてスペイン代表自体は約12年間見ていますね。

――そのスペイン代表ですが、男子がワールドカップで優勝しました。モンデーロさんが指揮を執る女子代表も昨年の女子ワールドカップで銅メダル、一昨年のリオデジャネイロ・オリンピックでは準優勝。スペインの強さはどこから来るのでしょうか?
モンデーロ スペインの選手たちは、小さい頃から、どのようなシチュエーションでどのように動いたらいいのかを教わります。だからすぐに試合に溶け込めることのできる選手が多い。そして自分自身を信じている選手も多いです。小さい頃から「失敗を恐れないこと、挑戦すること」と教わっていて、おそらく、コーチたちは挑戦することでのミスは大事だと伝えていると思います。その中で各選手自信が持てるようになっていく。そういった選手が12人集まることで強いチームが出来上がってくるのではないかと感じています。

 また、今回の男子を見てもらったら分かると思うのですが、特に良かったのはディフェンス。先ほど言ったようにオフェンスはディフェンスから始まっていくというキーワードの通りだと思います。そしてなぜディフェンスがいいか。その理由は2つあります。まず一つは集中力を継続すること。そしてもう一つが努力です。バスケットではディフェンスを頑張っていても、残りの数秒のところを守り切らないチームもありますが、スペインは最後まで守る。またディフェンスでの状況判断がいいこともあると思います。才能がある人もいれば、ない人もいますが、ディフェンスに関しては才能がない人に関しても自分の努力次第では徐々に成長できるところ。そこでより良い状況判断ができるようになっていくのだと感じます。

――スペインの男子は2006年以来のワールドカップ優勝。当時は日本開催だったため、実際にスペインバスケットを目にした人も多く、選手ではファン・カルロス・ナバーロやパウ・ガソル(ポートランド・トレイルブレイザーズ)などに注目が集まりました。
モンデーロ (深くうなづいて)スペインでもナバーロ、パウ・ガソルは偉大な選手です(ナバーロは昨年引退)。偉大な選手といった点では日本の女子は吉田や渡嘉敷。日本の女子には今、良いガードとセンターがいますね。女子日本代表は高い才能を持っていて、世界大会でもメダルを獲得できるようなチームだと思っています。ですから、昨年の女子ワールドカップでの8位は驚きで、もっと良い順位になってもおかしくなかった。日本にとって運が悪かったとしか言いようがないです。

 スペイン代表と日本代表の選手はフィジカル面やプレースタイルなど少し似ているところがあります。違いはスペイン代表の選手たちが少しだけ身長が高いだけ。私が、日本のチームに携わることで、日本のバスケットのレベルアップに貢献できればとも思っています。

ルーカス・モンデーロ:1967年7月28日生まれ/スペイン出身/プレーヤーを引退後、2006年から本格的に指導者の道に。スペイン国内のチームでヘッドコーチを歴任した後、2012~2016年までは中国WCBAの山西のヘッドコーチとなり3連覇を達成。初優勝時は大神雄子が司令塔として在籍していた。その後、ロシアのダイナモ・クルスクにてユーロリーグ優勝を果たし、一方でスペイン女子代表のヘッドコーチも務め、2016年リオ五輪準優勝、昨年の女子ワールドカップでは3位と、世界トップレベルのチームをけん引している

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