2019.05.31

「日本はアナリティックなバスケットをしたい」3年目を迎えた女子日本代表のトム・ホーバスヘッドコーチ

厳しい目で練習を見つめるトム・ホーバスHC。東京オリンピック開幕までどのようにチームを育てるかに注目だ [写真]=兼子慎一郎
中学や高校、大学などの学生バスケットをはじめ、トップリーグや日本代表と様々なカテゴリーをカバー。現場の“熱”を伝えるべく活動中。

 来年に東京オリンピックを控える女子日本代表。今年は、4連覇のかかるアジアカップ2019が控えるが、オリンピックまでの準備の1年として活動を行っている。

 トム・ホーバスヘッドコーチ体制となり3年目。4月10日から始動したチームは、ここまで5月31日、6月2日の「バスケットボール女子日本代表国際強化試合2019 三井不動産カップ」に向けて強化を図ってきた。そんな現在のチームの状況、また東京オリンピックや日本が世界で戦うためのプレースタイルなどを指揮官に聞いた。

取材・文=田島早苗

東京オリンピックまで1年。「すべての面でレベルアップしたい」

ホーバスHCは質問の一つひとつに丁寧に答えてくれた

――4次合宿の途中ですが、月末には国際強化試合も控えています。ここまでの手応えや課題などがありましたら教えて下さい。
ホーバス
 ディフェンスに関しては手応えはあります。今年で私が(ヘッドコーチとして)3年目、昨年や一昨年を経験している選手たちも多く、その選手たちが早い段階で私のディフェンスへの考え方というものを思い出してくれました。

 逆にオフェンスはディフェンスと比べれば少し遅れてはいますが、それでもここ最近はいい練習ができてきていますし、よいリズムが出来てきたと感じています。

――5月21日の公開練習でもディフェンス練習に力を入れていたように感じました。
ホーバス
 あの日は、たまたまディフェンスの日でした。オフェンス練習も結構やっていますよ。以前、JX-ENEOSサンフラワーズにいた時は、7割ぐらいがディフェンス練習でしたが、今は50;50。オフェンスでも選手は覚えないといけないことが多いと思います。
日本は80点近く点を取らないと、(国際大会で)勝つことが難しいと思っていて、新しいプレーを増やすというよりは、”efficient”(※効率の良いといった意味)。例えばターンオーバーを少なくするとか、シュートパーセンテージを上げる、スペースやスクリーンなどといったことの一つひとつをしっかりやっていきたいです。

――今年はアジアカップ2019が予定されていますが、日程、開催地が未定。その中でのチーム作りとなっています。
ホーバス
 今までとは違うけれど、大変というよりはチャンスだとも考えています。今までは合宿も長期間でやっていましたが、今年は短くしているので、どのやり方がチームに合っているか、来年のオリンピックのためにもそれを知ることができるからです。

 日程や場所が決まらないのは仕方がないことで、他のチームも同じ条件。とりあえず今は(国際強化試合の)ベルギー戦に集中すること。この2試合でいいバスケットをして、今後の国際試合や海外遠征などに繋げていきたいです。

 昨年は、(9月末開催の)ワールドカップのためにやってきましたが、今年は、ベルギー戦、海外遠征など、それぞれの試合に向けて短い合宿を行い、そして試合に臨むようなスケジュールで活動しています。選手も試合ごとに(候補者26人の中から)参加選手も変えていく予定です。

――今年は東京オリンピックに向けての準備の一年。特に強化したいところなどはありますか?
ホーバス
 オフェンスもディフェンスもレベルアップしたいです。どちらも昨年から少し変えているので、それがいいのかどうか、テストしたいですね。今年の動きは『来年のため』。全てにおいてレベルアップしたいと思っているし、それは選手についても同じことで、経験のある選手も少ない選手も、体やメンタルなど、本当にいろいろな面でレベルアップしないと目標達成はできないと思っています。

――3月末に正式に東京オリンピックへ開催国枠での出場が決まりました。これでチーム作りの進め方も変わりますか?
ホーバス
 変わります。今、他の国は出場枠を取るために動いています。(国際強化試合の相手である)ベルギーでも、ヨーロッパの大会で少なくとも上位6チームに入らないと、最終的なオリンピック予選には進めない。そのための準備は大変なものです。日本は、今年の6月は(国際強化試合の後)特に大きな予定(海外遠征など)はありませんが、これが今の時点で出場が決まってなかったとしたら何か(強化のための)予定を入れたでしょう。選手も、ケガなどがある場合はしっかりと治す時間ができましたし、今年に限っては、合宿によってベテランの選手を休ませることもできる。ですから、出場が決まっているということはチームにとっても、選手にとっても良いことです。

――以前、日本はパワーバスケット(power)ではなくアナリティックバスケット(analytic)のスタイルを目指したいとおっしゃっていました。
ホーバス
 日本は(高さがないので)パワーバスケットはできない。それに世界を見ると今、男子はヨーロッパもNBAもパワーバスケットではなくアナリティックバスケットです。3Pシュートの得点も増えてきています。逆に女子ではまだ、203センチのブリトリニー・グライナーがいるアメリカやリズ・キャンべージ(203センチ)のいるオーストラリア、それに2メートルを超える選手が2人もいる中国などは、パワーバスケットをしています。だからこそ、日本はアナリティックなバスケットで勝負したいと思っています。

――そのスタイルが日本に合っている。
ホーバス
 合っていますし、女子の場合はまだ他の国がやってない分、チャンスあると感じています。

――参考にしているチームなどはあるのですか?
ホーバス
 (母国の)アメリカに戻った時などは、NCAAやNBAチームの練習などをよく見に行きます。NCAAトーナメントで優勝したバージニア大学にも去年の10月に練習を見に行ってコーチと話をしました。バージニア大はディフェンスがとてもいいチームでしたが、ディフェンスの考え方が(日本女子と)同じでしたね。NBAのデトロイト・ピストンズの合宿も見に行きましたが、こちらはオフェンスのシステムが一緒。ピストンズのコーチングコンサルタントであるコーリー・ゲインズ(かつて日本でプレー。後にWNBAチームのヘッドコーチなどを務める)からも「トム、デトロイトのオフェンスは日本と一緒だよ」と連絡がきたぐらいです。

 他にもNBAの試合を見ながら、ノートに書いて。「今のゴールデンステイト(ウォリアーズ)のアクションをやってみようかな」など、いつも考えています。

私がいつも選手に言っているのは「3Pラインには力があるよ」ということ

キャリアの中で積み上げたコネクションを使って世界のバスケを研究するホーバスHC

――日本の特長の一つがガードからセンターまで3Pシュートが打てることです。
ホーバス
 例えば、大きい選手が2人いて身長が3、4センチしか変わらない場合、小さくても3Pシュートを打てるなら、その選手を選びます。その方が日本のシステムに合っているからです。だって、アメリカのセンターと比べたら2人ともミスマッチになるわけですから。相手にとってどっちが嫌かと言ったら3Pシュートが打てる方。アメリカのグライナーなら、ディフェンスではなるべくアウトサイドには行かず、(リングに近い)ペイントエリアにいたいと考えるでしょう。でも日本のセンターがアウトサイドに行ったら外に行かざるを得ない。そうすれば日本にとってはペイントエリアが開いて、3Pシュートだけでなく、ドライブもできるわけです。

 なにもたくさん3Pシュートを打つということではなく、少しでいいんです。昨年のワールドカップでは、髙田真希(デンソーアイリス)は4試合で打った3Pシュートは10本だけです。1試合でみると約2.5本。でも、そのシュートが入れば、相手ディフェンスは『アウトサイドも守らないと』というイメージになる。実際、大会では、リツ(髙田)につられてディフェンスが外に出てきたところをリツがインサイドへカッティングするなどといったプレーが効いていました。

 私がいつも選手に言うのは「3Pラインには力があるよ」ということ。あのラインの外に行ったら相手が怖くなる。でも、ラインの中に入ったらそこまで怖くない。やっぱり3Pシュートは、それだけ相手に与えるイメージが強いものなんです。

 それと、先日、ジュナ(梅沢カディシャ樹奈)に言いました。彼女は188センチかもしれないけど、『あなたは小さいんだよ』と。中国やアメリカ、ヨーロッパのセンターに比べると小さいんです。だけど、彼女自身、速さは持っているのに使っていなかった。国内だと速さを使わなくてもいい状況かもしれませんが、日本代表では速さ使わないとプレーできない。それこそ203センチのグライナーを相手に188センチのジュナが同じペースで戦ったら負けます。アメリカに勝ちたいなら、大きい選手にも速さが求められてきます。

――今年も練習から選手全員が激しいバトルを演じていて、熱気もあります。
ホーバス
 すごく高いエネルギーですよね。でも、『やらなきゃ、やらなきゃ』という思いが強すぎるのは良くない。それがケガに繋がることもあるので。

 髙田はいつもマイペースにやっていますよね。だけど、彼女の”マイペース”のレベルはとても高いんです(笑)。だから、若い選手には「リツのマネはしないで」って言います。彼女は角度やタイミングなどが上手。ゆっくりしているように見えるけどそんなことないんです。だから、選手それぞれが自分なりの”マイペース”を見つけてほしいと思っています。

――改めて伺いますが、日本の良さを教えて下さい。
ホーバス
 速さ、集中力、チームプレー。チームバスケットでわがままな選手はいません。ボールがたくさん回る、最高で綺麗なバスケットです。みんながボールを触って動いて、チームディフェンスもタイミングもいいです。

――いろんな人に見てほしいバスケットですね。
ホーバス
 そうです! だから昨年のワールドカップは本当に残念だった。(予選ラウンドで)ベルギーに勝ったのに、その後ベルギーが4位になったらヨーロッパやアメリカのメディアがベルギーのバスケは綺麗、すごいと言っていました。私は日本の方がいいのに! と思ったけど、日本はあの大会では4試合しかできませんでした。

――最後に、5月31、6月2日に行われるベルギー戦に向けて抱負をお願いします。
ホーバス
 日本のファンの方の前での試合は少ないので、いいバスケットボールを見せたいと思っています。ディフェンスも良くてオフェンスも楽しいバスケット。そして当たり前ですが、勝ちたい。負けたくない。日本のファンの方たちの前では特に。逆に、1点差で勝っても内容が悪いのも嫌ですね。昨年のカナダ戦(国際強化試合)のようにいいバスケットをして、日本の強いバスケットを見せる、強い気持ちも出していきたいです。

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