2021.09.22

髙田真希が語る夢「バスケットボールのある家庭が日本中に増えるとうれしい」

東京オリンピックでは女子日本代表のキャプテンとしてチームをけん引した [写真]=fiba.com
1986年生まれ。バスケットボールのライターとして3x3が得意領域。国内外のトレンドを追い、競技の歴史を紡いでいます。5人制もbjリーグ時代から、Bリーグに至るまでカバー。また毎年の楽しみは代々木のALLDAYに行くこと。

今夏の東京オリンピックで日本バスケ界として初となる五輪での銀メダルを獲得した5人制女子日本代表。髙田真希(デンソーアイリス)はキャプテンとして偉業達成に貢献した。その髙田が描く夢について、話をうかがった。

取材・文=大橋裕之

女子バスケを盛り上げるために大事なタイミング

 さかのぼること2004年。当時中学生の髙田真希は、アテネオリンピックで女子日本代表が戦っている姿をテレビで見たことをきっかけに、夢ができた。

「自分もオリンピックでプレーしたい。そう思ったことは今でも記憶に残っています」

 そして17年後の2021年夏。女子日本代表のキャプテンとして2016年のリオオリンピックに続き2度目の大舞台に出場した髙田は、日本バスケ界初の銀メダル獲得に貢献。目標の「金メダル」に届かず「悔しい気持ちはある」としながらも「バスケットボール界で初めてのオリンピックメダルです。誇らしく思いたい」と胸を張った。あいにくコロナ禍の中のオリンピックだったため無観客試合であったが、初戦のフランス戦から決勝のアメリカ戦まで勝ち進むことごとに、反響の大きさも実感した。目に見えて分かるSNSのフォロー数はぐんぐん伸び「注目されていることを感じましたね」と振り返る。

 またオリンピックという多くの競技が一堂に会する舞台であるため、バスケ以外のアスリートから、その反響を受けることもあった。髙田は開会式で日本選手団の旗手を務めた一人で、レスリング女子50キロ級で金メダルを獲得した須崎優衣と、ナショナルトレーニングセンターでの出会いをきっかけに、言葉を交わす間柄になったという。閉会式に会ったときには須崎が女子バスケの戦いを見たことで「ぜひ試合も見に行きたい」とうれしい言葉をかけられたそうだ。

 常々、女子バスケを盛り上げたい気持ちを抱く髙田にとって、オリンピックの銀メダル獲得は、それを実現する大きなチャンスである。多くの人が知るところになった今を「大事なタイミング」と感じている。

 ただ一方で、昨今はコロナ禍のため、反響の大きさやファンの声援を肌で感じたくても、なかなか感じられない状況でもある。しかし髙田は、今できることに力を注いできた。そのひとつが2020年春ごろよりオンライン上で、ファンと直接につながるサービス「Unlim」(アンリム)の活用である。

 これは、個人が財団(一般財団法人アスリートフラッグ財団)を通してアスリートやチームを金銭的にサポートすることを可能にするスポーツギフティングサービスである。今年7月末までに登録したアスリートや団体の競技数は66種目、200アカウントに及ぶ。アスリートやチームが持つ様々な思いと、それを応援したいファンの思いをつなげる画期的な仕組みなのだ。髙田はこのサービスを通して「ダイレクトにファンの皆さんの気持ちが伝わってくるので、うれしいですね」と感じている。

 そしてギフティングによる支援は「自分やバスケットを通して還元していきたい」とし、ずばりやりたいことに「一家に一球のバスケットボールを送る」取り組みをあげた。これはギフティングに加えて、自身が代表を務める株式会社TRUE HOPEの事業によって得られた収益も原資にすることを考えているという。すでに実績は少しあるものの、その思いを髙田はこう語る。

「バスケットボールのある家庭が日本中に増えるとうれしいです。競技をやるか、やらないかはどちらでもよくて、家にボールがあれば身近にバスケを感じられると思います。遊び感覚でもいいですよね。バスケの裾野を広げるには、まずボールを持っていることが大事だと思っています」

 もちろん、こう思うには理由もある。ひとつは自分の思い出だ。髙田もバスケを始める前から家にボールがあったそうで「兄がいたんですけど一緒に外の道路でバスケットボールをしていました」という。もう一つは、コロナ禍の影響だ。なかなか子どもたちが外に遊びにいけない状況が続いていることで「バスケットボールが家族のコミュニケーションの一つになったり、外でドリブルついたり、そんなことができたらいいなと思っています」と、ボールに願いを込めている。

 また、髙田は「Unlim」を通してLINEへ直接届くメッセージで、TRUE HOPEの事業も「応援しています」というエールが送られることも「とてもうれしい」と話す。

メダリストになった今だからこそ、多くの人と交流したい

現役選手でありながら、自ら起業して女子バスケの盛り上げに旗を振る [写真提供]=株式会社TRUE HOPE


 そもそも「自分がやりたいことをスピーディーにやりたい」と考えた末に、髙田は2020年春に起業。次世代を担う子どもたちに夢やきっかけを与えたり、ファンにバスケやスポーツの魅力を伝えることをビジョンに掲げた。時期を同じくして広がったコロナ禍の影響で対面のイベントはできていないものの、これまでオンラインで取り組みを重ねている。

 例えば、コロナ禍でスポーツイベントや部活などが軒並み中止になった昨春には「バスケWeeeeK」と題して、渡嘉敷来夢(ENEOSサンフラワーズ)や伊集南(元デンソーアイリス)さんらをゲストに招いて、ウェビナー形式のオンラインイベントを開催。学校やチーム向けにオンライン上で交流する機会を設けたこともあった。さらに昨年12月にはWリーグとコラボし、2019−20シーズンで引退した選手たちのオリジナルTシャツを制作し、オンライン販売する企画も行ったほどだ。

 そして今後、コロナ禍が落ち着いたあかつきには「全国を回ってたくさんの人たちと一緒にバスケットボールをする」活動を待ち望んでいる。現役選手だからこそ、オリンピックのメダリストになった自分だからこそ、直接会って何かできるのではないかという思いが強い。髙田は自身の小中学校時代を思い出し「そういう経験をしていたら、もっと早く抱えてるバスケなどの悩みを早く解決できたのかな」とも話す。方法としては自分で場を作るだけでなく「呼ばれたら、時間が合えばどこにでも行きたい」というだけに、もしかしたら、自分の住む町に髙田真希が来るかもしれない。そう思うだけで、ワクワクするだろう。

 このように髙田はコロナ禍の先を見すえつつ、今できることに力を注いできた。そして10月からは開幕するWリーグも、その思いは同じだ。現状、すぐに多くの観客を入れた観戦環境は見込めない。先のオリンピックも無観客試合であったため「コロナが落ち着いてたら、たくさんの方の前でプレーをしたい」と率直な気持ちを明かす。だから、そこにつなげるため、まずは「見てくださっている方々に何か感じてほしいと思っています。一戦一戦を全力でプレーをしたい」と意気込む。所属先のデンソーアイリスの大黒柱として今シーズンこそ「日本一」の実現を誓う。

 さらに3年後のパリオリンピックに向けては「もちろん目指したい」と宣言。再び金メダルを目指すだけではなく「個人的な理由になりますけど」と前置きした上で「渡嘉敷選手と一緒にプレーしたい」と、パリでの夢を描いていた。

 選手としてのコートに立つ姿。子どもたちやファンを思って動く姿。オリンピックの銀メダル獲得で注目をあびる女子バスケを、髙田真希がこれからもけん引することは間違いない。ファンに向けてこうメッセージを送る彼女のプレーを見ればきっと、響くものがあるだろう。

「オリンピックでたくさんの方々に知っていただき、次は実際に生で見られるチャンスがあります。Wリーグでは、たくさん方に応援をしていただきながら、一緒に頑張っていきたいと思います。全力でプレーしますので、これからも応援していただけるとうれしいです」

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