2021.09.29

【短期連載・TOKYOの先へ】オコエ桃仁花(富士通/女子日本代表)

富士通で3シーズン目を迎えるオコエ桃仁花 [写真]=Wリーグ
中学や高校、大学などの学生バスケットをはじめ、トップリーグや日本代表と様々なカテゴリーをカバー。現場の“熱”を伝えるべく活動中。

 東京2020オリンピックでは、3x3女子日本代表がメダルこそ届かなかったものの5位と健闘。そして5人制では快進撃を続けて準優勝、銀メダルを獲得した。

 日本だけでなく世界を熱狂させた日本代表選手たちにオリンピックのことや10月から始まるWリーグ、さらにはその先についての話を聞いた。

 第8回は182センチでパワーフォワードのオコエ桃仁花(富士通レッドウェーブ)。当たりの強さはもちろんのこと、大会では3ポイントシュートを効果的に沈めて、日本に良い流れを引き寄せていた。

五輪を通じて「不可能はないということを伝えられた」

――東京オリンピックはどんな大会になりましたか?
オコエ 人生において特別な宝物になりました。うまくいったことも、いかなかったことも、すべてが良い経験になりましたね。私は選考でギリギリの立場だったので、何回も挫折しそうになったのですが、その度に立ち上がって、あの場所に立てたことはすごく誇りに思えたし、『人生っていいな』と思いました。

――選手選考も兼ねた代表活動の4カ月間、オコエ選手を支えたものは?
オコエ 自分自身というよりは、周りの人がすごくプッシュしてくれて。『1人じゃないんだな』ということを常に感じ、頑張ることができました。また、最後の方は『楽しんでやろう』という思考に変わり、自分のために楽しんでやり、その結果、メンバーから外れたのなら悔いが残らないなと思うようにしました。

――オリンピック本番ではどのようなテーマで臨みましたか?
オコエ まずは『チームのために』という思いでやりましたが、気負い過ぎてしまい、いろんなものがプレッシャーに変わってしまいました。それで1戦目はガッチガチでしたが、2戦目からは吹っ切れてやることができました。トムさん(ホーバスヘッドコーチ)やチームメートが鼓舞してくれたことが大きかったですね。

――対戦した中で印象に残っている選手はいますか?
オコエ エマ・メッセマン(ベルギー代表)は、すごいなと思いました。私はまだまだですが、経験を積んで、いつか彼女のような選手になれるよう学んでいきたいです。あとはアメリカ代表のエイジャ・ウィルソン。マッチアップした時に守りづらくて。私の3ポイントシュートも、いつもの間合いだったら打てるのですが、何回かブロックされてしまいました。

――オリンピックでは、大事な場面で3ポイントシュートを決めた印象があります。
オコエ そうですね。でも、40分間通してチームの力になれるようなプレーをしなければいけないと思いました。

 3ポイントシュートはオリンピックに向けて取り組み、自分の武器になったと確信したのですが、3ポイントシュートをアジャストされた時のドライブをもっとできるように。エブリンさん(馬瓜/トヨタ自動車アンテロープス)のような強いドライブをしていきたいです。

――大会前から(父親の母国である)ナイジェリアに勝ちたいと言っていて、予選で対戦し、勝利しました。
オコエ ナイジェリアの方からすると、私の苗字を見たら、ナイジェリアの人だとわかるくらい、オコエ(Okoye)という名前は、日本でいう(名字の多い)田中さんや鈴木さんにあたるんです。それでビックリしたのが、試合が終わった後にSNSでナイジェリアの方たちからフォローやメッセージをたくさんいただいて。やっぱりオリンピックってすごいなと感じました。「あなたは日本人だけれど、ナイジェリアの血も入っているから私たちは応援します」など温かい言葉をいただき、すごくうれしかったです。

 あとは選手村を歩いていた時も、「あなたの記事を見たよ」と、競技は分からないですが、ナイジェリアの選手から声をかけてきてくれたこともありました。大会中は反響がすごく、全然知らない国の人から英語でメッセージが来たり、選手村でもアスリートの人たちを見かけたり、「ああ、オリンピックだな」と感じました。

――銀メダル獲得の要因は何が大きいと感じますか?
オコエ 一番はチームワーク。負けている時も競っている時も、誰一人あきらめることなく声を出し続けていました。コート上の5人だけが戦っているのではなく、ベンチみんなが声を枯らすぐらいに出していたし、そういったことが良かったのだと思います。

――代表活動で一緒に行動するのが多かったのは、同級生の赤穂ひまわり選手(デンソーアイリス)ですか?
オコエ はい。私がデンソーにいた時も一緒にいたので、もうヒマ(赤穂)のことは知り尽くしています(笑)。楽な関係ですね。

――今回、日本代表として東京オリンピックを見た人たちにどのようなメッセージを伝えられたと思っていますか?
オコエ 『不可能はない』ということです。もちろん、金メダル獲得を目標にしていたので、達成できず悔しい思いもありますが、銀メダルを獲得したことで、信じて頑張っていれば不可能はないということを伝えられたかなと思います。あとは、小さくても戦えることも証明できました。

22歳のオコエにとってオリンピックはかけがえのない経験となった[写真]=Getty Images

10月からはWリーグでの戦い「今シーズンは懸けています」

――オリンピックを経験し、「FIBA 女子アジアカップ2021」日本代表での自身の立場は?
オコエ トムさんの厳しさはトムさんにしかできないけれど、私はその厳しさを知っています。トムさんの厳しさを知らない選手たちもいる中、細かいところを追求することや、コミュニケーション取るといったことは、やっていかないといけないと思います。キキさん(林咲希/ENEOSサンフラワーズ)がキャプテンなので、キキさん1人ではなく、オリンピックメンバーが支えてチームを引っ張っていきたいです。

――オリンピックを経て、自信を得たのでは?
オコエ そうですね、決められた12人しか獲れなかったメダルですし、日本を代表して選ばれたという自覚はさらに出てきました。

――女子アジアカップも注目されますが、3年後のパリ、その先のロサンゼルスへの思いは?
オコエ どれだけオリンピックが素晴らしいものかというのを肌で感じたので、パリに向けて頑張っていきたいです。今回のオリンピックでできなかったこともたくさんあるので、『まだまだ』『次、次』という思いです。

――女子アジアカップ後はWリーグが始まります。今シーズン、富士通の中での自身の役割は?
オコエ 選手層がすごく厚くなったので、チーム内でもいい刺激になっていると思います。そこはすごくプラスですし、私自身も今シーズンに懸けているし、チームとしても懸けていると思います。その中で個人的な役割は、リーダーシップを取って、底上げをしていくこと。大卒でもまだ1、2年目の選手が多いので、私が率先して声を出して、盛り上げていくことが大切だと感じています。また、オリンピックで学んだチームワークの部分で、ベンチも声を出すし、コート内の5人はベンチにいる選手の分まで頑張るということを最後まで徹底してやりたいですね。

――プレーでは?
オコエ 3ポイントシュートもそうですが、シューターはたくさんいるので、リバウンドを頑張りたいです。あとは、今シーズンの個人的な目標がハンドリング力を上げることで、ハンドリング力がつけばドライブのレパートリーも増えると思っています。

――最後にWリーグに向けた意気込みをお願いします。
オコエ さっきも言ったように、移籍の選手も加わり選手層が厚くなったので、昨シーズンに出た課題を克服し、今シーズンは優勝を目指します。応援よろしくお願いします。

取材・文=田島早苗

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