2019.05.14

1万8394人が熱狂!天皇杯に見た車いすバスケの魅力と可能性

令和初の王者であり、天皇杯11連覇を達成した宮城MAX [写真]=張理恵
十数年にわたりラジオディレクターとして活動した後、カナダに留学。帰国後の2016年からパラスポーツの取材を始め、18年車いすバスケットボール世界選手権、アジアパラ競技大会をカバーした。

 5月10日から12日まで、「天皇杯 第47回日本車いすバスケットボール選手権大会」が東京都調布市の武蔵野の森総合スポーツプラザで開催。8チームによるクラブチーム日本一決定戦が行われた。

 令和初の天皇杯チャンピオンに輝いたのは、宮城MAX(東北ブロック)。史上初の大会11連覇という偉業を達成し、日本車いすバスケットボール界の歴史に新たな1ページを刻んだ。

 絶対王者として10年以上、頂点の座に君臨している宮城MAXだが、現在の日本車いすバスケ界は、決して宮城MAXの“一強”というわけではない。それを裏付けるかのように、今年の天皇杯は昨年大会と比べ、どのチームも競技レベルが格段に向上し、強度やスピードが増して、息をつく暇も与えないほどの白熱した試合が繰り広げられた。

日本代表で世界でも活躍する若手が見せたスピードバトル

躍動した若手選手、左から赤石竜我(埼玉ライオンズ)、鳥海連志、古澤拓也(ともにパラ神奈川) [写真]=張理恵

 なかでも、大会2日目、準決勝・第2試合のパラ神奈川スポーツクラブ(関東ブロック)対 埼玉ライオンズ(関東ブロック)の一戦は、かなりのハイスピードバトルとなった。

 日本代表として世界の舞台でも活躍する若手エース、古澤拓也と鳥海連志(ともにパラ神奈川)、そして、4月に大学生になったばかりの18歳・赤石竜我(埼玉ライオンズ)がその中心となり、縦横無尽にコートを駆けまわってボールを奪い合うプレーは、観客の視線を釘づけにした。

 赤石が一人抜け出し鮮やかなレイアップシュートを決めれば、古澤が反対のゴールめがけて走り出す。そこに鳥海からのロングパスがきれいに通り、今度は古澤が華麗なレイアップで魅せる。

 1試合が終わると、手のひらが真っ黒になるほど、プレーヤーは車いすを漕いで漕いで漕ぎ続ける。観客は心を鷲づかみされ、シュートが決まれば大きな歓声が起こり、反対にシュートが外れると、会場にため息がもれた。車いすバスケの醍醐味を存分に味わわせてくれた、見応えあるゲームとなった。

 日本代表ではチームメイトとして活躍する彼らが、お互いのクラブチームに分かれて戦う姿は、天皇杯をはじめとする国内大会ならではの楽しみ方だ。

宮城MAXの藤本怜央が感じた日本バスケの精度の高さ

ドイツでもプレーをする宮城MAXの藤本怜央だが、国内でも切磋琢磨できる環境を喜んだ [写真]=張理恵

 ドイツリーグでシーズンを過ごし、天皇杯に出場した藤本怜央(宮城MAX)は、久しぶりに接した“日本のバスケ”について、「速いしスキルが高い。海外はフィジカルは強いけど、日本ほどの精度はない。ドイツのクラブチームには各国の代表選手も所属しているが、そういう選手と比較しても日本のトッププレーヤーの精度は高い」と語り、その中で切磋琢磨し合えることを喜んだ。

 今年の天皇杯では、昨年7月から選手登録が可能になった、健常者プレーヤーも注目された。特に、準優勝した埼玉ライオンズ(関東ブロック)や伊丹スーパーフェニックス(近畿ブロック)は、健常者プレーヤーが加入したことで戦力が増し、伊丹に関しては、実に8年ぶりの日本選手権(天皇杯)出場となった。

 埼玉ライオンズは、3人の健常者プレーヤーが加わったことで、大舘秀雄(4.0)、篠田匡世(3.5)のハイポインターがプレータイムをシェアできるようになり、チームとしてより強度を増し、ユニットの幅も広がった。

 特に、大山伸明(4.5健常)はすでに10年以上の競技歴を持ち、今回の天皇杯では1回戦から決勝まで、1試合平均18分38秒出場し、合計22点を挙げ、準優勝獲得に大きく貢献した。
今後も健常者プレーヤーの出場が続くとなれば、大会の勢力図に変化をもたらすことも十分に予想される。

 宮城MAXのハイポインター・土子大輔(4.0)は、健常者プレーヤーについて、「いろいろな意見はあると思うが、私たちと一緒にプレーしてくれる健常者の選手たちに感謝している。障がい者よりも体幹の強い選手たちと切磋琢磨していくことが、2020年やその先に向かってもレベルを上げていくことにつながると思うので、特にハイポインターのレベルアップにつなげていければいいなと思う」と考えを述べた。

 大会期間中、3日間でのべ1万8394人が会場を訪れた、今年の天皇杯。車いすバスケットボールの魅力に酔いしれ、来年の東京パラリンピック、そして、その先に向けて、新たな可能性を予感させる大会となった。

文・写真=張理恵

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