2019.05.30

車いすバスケ女子U25世界選手権で4強入り、厳しい戦いの末に得た『成長』

女子代表といて世界選手権初のメダル獲得にはならなかったが、U25のメンバーは経験という貴重な財産を得た [写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 5月23~28日の6日間にわたって、タイで開催された「女子U25世界車いすバスケットボール選手権大会」。日本は初めて4強入りを果たし、アメリカ、オーストラリア、イギリスとのメダル争いに加わった。準決勝では優勝したアメリカに完敗し、3位決定戦では前回覇者のイギリスに敗れ、シニアも含めた女子日本代表の世界選手権での初のメダル獲得には至らなかった。しかし、将来有望な10代、20代前半の若手にとって貴重な経験となったことは間違いない。今大会で示した確かな”成長の跡”を追った。

シューターとして覚醒した柳本と財満

シューターとして得点に貢献した柳本あまね(写真左)と財満いずみ [写真]=斎藤寿子

 今大会、選ばれた12人のメンバーのうち、国際大会を経験しているのはわずか3人。そのうちの2人、柳本あまねと財満いずみはすでにA代表入りを果たし、経験豊富な頼れる存在として、毎試合のようにフル出場した。

 持ち点が2.5の柳本と1.0の財満は、A代表ではどちらかというとハイポインター陣をいかすプレーが多い。だが、U25に限っては、シューターの一人として得点源になることが期待された。

 なかでも相手から最も警戒され厳しくマークをされたのが、柳本だ。すでにA代表でも主力の一人となりつつあり、3Pを含めたアウトサイドからのシュートが得意の柳本。今大会ではシュートのアタック本数は、毎試合のようにチーム最多を数えた。

 その柳本を止めようと、相手からはシュートシーンでは早めにジャンプアップされ、時にはハーフラインあたりから激しくマークされた。そんな経験は今までにはなかったという柳本。初めてエース的存在としてチームをけん引した今大会、彼女が得たものは大きい。

「これまでA代表では『お前もスレッド(相手から警戒される選手)の一人にならなくちゃダメだぞ』と言われてきていたのですが、その意味がやっと理解できました。自分が一番のスレッドになったことで、ほかにスレッドの存在がいるかどうかがいかに重要かがわかったんです」

 一方、今大会チーム一のフィールドゴール成功率の高さを誇ったのが財満いずみだ。3位決定戦を除く、初戦から準決勝までの5試合では50%以上の高確率でシュートを決めてみせた。

 スレッドとして扱われた柳本とはアタック本数こそ異なるものの、数少ないチャンスに財満が高確率に得点を決めたことで、チームは何度も救われた。特にチーム全体が緊張に包まれた初戦で、全5本のシュートを決めきった財満の存在は大きかった。

 しかし、最も大事なメダルゲームでシュートを決めることができなかったことが、財満にとっては何より悔しい。

「今大会は国際経験のある自分が、毎試合100%シュートを決めるんだ、という強い気持ちで臨みました。でも、3位決定戦では決めることができず、情けない気持ちでいっぱい。とにかくメダルを取りたかった……。初めて本気で悔しいと思えたし、だからこそ、本当に楽しいと思える1週間でした」

 帰国して数日後には、A代表の候補メンバーとしてドイツ遠征へと渡る予定の柳本と財満。U25でシューターとして覚醒した2人の存在が、A代表にもたらす影響は大きいはずだ。

10代トリオが誓った4年後のメダル獲得

4年後の世界選手権では主力となる10代のプレーヤーに期待だ。写真左から江口侑里、畠山萌、奥川仁渚 [写真]=斎藤寿子

 チームには4年後の大会にも出場の可能性を残している選手が3人いる。いずれも10代の奥川仁渚、江口侑里、畠山萌だ。最終戦の第4クォーター終盤では、この3人がそろってコート上でプレーをした。その光景に、財満は「4年後、この3人が活躍している姿が浮かび、楽しみだなと思いながら一緒にプレーしていた」という。

 すでに今大会で2度目の出場となった奥川は、次で3度目となる。しかし当初奥川は、大学での勉強を優先したいと、車いすバスケは「大学3年まで」と考えていた。だが、メダルを逃した3位決定戦後に話を聞くと、彼女の気持ちは変化していた。

「6日間戦ってきて、メダルや勝つことへの執着心、闘争心が自分の中で強くなっていることを感じました。ここまできたからには、絶対にメダルを取りたかった。本当に悔しいです。だから4年後も出場して、今度こそ絶対にメダルを持って帰りたいと思います」

 一方、江口は今大会が初めての出場となった。もともとそれほど口数が多い方ではない江口は、自分から話すことが苦手だ。だが、今大会ではコートでもベンチでも、ずっと声を出している自分がいた。それが「一番の成長だった」と語る。そして4年後について訊くと、江口はこう答えた。

「課題はたくさんあるので、4年後に向けて練習していきたいと思います。そして、4年後はメダルを取って帰りたいと思います」

 今大会チーム最年少、18歳の畠山萌は「ずっと緊張していたが、先輩たちが常に声をかけてきてくれて、安心してプレーすることができた」と語る。そしてU25に入った自分には「成長しか感じられない」という。なかでもコミュニケーション力は格段に上がったと感じている。

「みんなでコミュニケーションを取るというのが、コート上でもベンチでも、そして日常でもいかに大切なことかということがわかりました。もともと自分から話すことが苦手だったのですが、合宿や大会を通して、自分を出せるようになった。コミュニケーション力を身につけられたことが一番の成長だと感じています」

 そして、4年後について訊くと、畠山はこう即答した。

「絶対に金メダルを取りたいと思います!」

 どんなに劣勢な時も全員で前を向き、全力で勝負に挑み、過去最高のベスト4進出を果たした女子U25日本代表チーム。今後は各選手がそれぞれの道を突き進む。U25の新たな歴史をつくった彼女たちが、2020年東京パラリンピック、そして4年後のU25世界選手権では、どんな成長した姿を見せてくれるのか。今後も注目していきたい。

文・写真=斎藤寿子

BASKETBALLKING VIDEO