バスケットボールの試合進行において、欠かせないのが『TO』の存在だ。
TOとはテーブル・オフィシャルズ(Table Officials)の略で、スコアラー、アシスタントスコアラー、タイムキーパー、ショットクロックオペレーターのこと。4人が1組となって構成されている。主にスコアや試合時間、ファウルの表示など、審判と連携しながら試合を進めていくのが仕事となる。
遡ること2013年秋、2020年の東京パラリンピック開催が決定。それに伴い、一般社団法人日本車いすバスケットボール連盟は、チームのみならず、ホスト国としてTOの強化にも着手した。
「車いすバスケットは、ベースは健常者と同じですが、ルールが少し違うため、ルールを正しく理解し、ゲームを進行すること。それから正しく記録し、表示することがTOには求められています。バスケットボールを熟知していることに加えて、車いすバスケットにも精通していることも大事になってきますね」
こう語るのは国際車いすバスケットボール連盟の国際審判員の小野裕樹氏。普段の試合では審判を務めているが、競技規則審判部管轄として立ち上がったTO委員会の委員長も兼ねている。
競技規則審判部TO委員会の立ち上げに際し、それまで日本選手権など国内の大きな大会にTOとして携わっていた人を中心にメンバーを構成。そこから「圧倒的にJBA(公益財団法人日本バスケットボール協会)が持っているノウハウの方がクオリティが高いので、その恩恵を受けながらやってきました」(小野)と言うように、JBAから講師を派遣してもらっての講習会などJBAともうまく連携をしながら強化を図っていったという。
ゼロからのスタートながらも、「とにかく正しく記録して、正しく表示する。パラリンピックとなると国同士の戦いになるので、1分1秒にこだわってやる」(小野)ことを重視し、TOのメンバーたちは経験を重ねてきた。それでも健常者と違って国内の試合は少ないため、メンバーの中にはBリーグの試合で経験を重ねたり、テレビの前で試合を見ながらシュミレーションをしたりと、自主練習も怠らなかったという。
小野氏に話を伺ったのは、8月29日(木)~9月1日(日)に開催された「三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP 2019」の時で、小野氏曰く「今の時期は経験というより、やり切る、ブラッシアップしていく時期」。この大会でTOを注視していると、常にコミュニケーションを取っている様子が見受けられた。これは健常者の大会でも同じではあるが、小野氏は「特に車いす特有の動きや、背番号が見づらい時もあるので、そこでの情報の把握と共有。また、ヘッドコーチがタイムアウトを申請する際も(TOに向かって)走りながら手で“T”の文字を表すHCもいれば、車いすユーザーで車いすを漕ぎながらタイムアウトと声を発することもある。ジェスチャーがないことで分かりづらいところをより早く対応できるようにするためにも常に4人がコミュニケーションを取っています。車いすがぶつかり合う音などを含めて健常者の試合よりノイズが多い分、TOも集中力は必要になってきます」と言う。
東京パラリンピックまで1年を切り、文字通りブラッシュアップの時期となったが、「場数を踏んでみなさん自信を持ってやれるようになってきていると思います。細かいことですが、座り方も、前は自分の仕事に一生懸命になり過ぎて前かがみになっていたのが、今は凛とした様子で座り、自分の業務を行っている。自信がそういった細かい所作にもつながっていると感じますね。みなさんの頑張りには敬意を表しています」と、小野氏は目を細める。
年齢層も広く、いろんなジェンダーバランスだというTOのメンバーたち。来夏のパラリンピックで選手たちが最高のパフォーマンスを発揮するために、TOメンバーたちは人知れず研鑽を磨いている。