2019.12.11

車いすバスケ“及川ジャパン”、真の「全員バスケ」で証明した世界トップクラスの強さ

全員バスケで戦った男子日本代表[写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 11月29日~12月7日の9日間にわたってタイ・パタヤで行われた車いすバスケットボールの「アジアオセアニアチャンピオンシップス」。及川晋平HC率いる男子日本代表は、メダルを逃し4位という結果となった。しかし、予選リーグでは世界3位のオーストラリア、同4位のイランを立て続けに撃破する快挙を達成。日本の実力が世界トップレベルにあることを証明したことも事実だ。その裏には「全員バスケ」で臨んだチームの姿があった。

チームに不可欠な経験豊富なベテラン勢の存在

 固定したメンバーに頼るのではなく、12人全員が戦力となり、どの選手を起用しても、どのラインナップを出しても、レベルが落ちない強さ。そんな「全員バスケ」を及川晋平HCが掲げたのは、2014年のこと。それまで敗れたことがなかった韓国に、その年の世界選手権、アジアパラ競技大会で、あわせて3連敗を喫したことがきっかけだった。

 それ以降、“及川ジャパン”の主力と言われる選手、ラインナップは増え続けてきた。そして「全員バスケ」に舵を切って5年、ついに完全なる「全員バスケ」を遂行したのが、今大会だった。予選リーグ5試合、決勝トーナメント3試合、合計8試合で、12人全員が主力となり、勝利の立役者、試合の流れを変えたキーマンとなった。

流れを作った香西[写真]=斎藤寿子


 地元タイとの初戦、第1クォーターでまさかのビハインドを負った日本に流れを引き寄せたのが、第2クォーターで入った香西宏昭だ。すぐに自身大会初ショットのミドルシュートを決めてみせた香西。10分間で71%というフィールドゴール成功率を誇り、10得点を叩き出して、停滞気味だったチームに勢いをもたらした。

 そして、この試合でチーム最多の13得点をマークしたのが藤本怜央。藤本は今大会8試合中6試合で2ケタ得点を挙げる活躍でチームを牽引し続けた。

チーム最多得点を挙げた藤本[写真]=斎藤寿子


 また、初戦から高さを活かした献身的なプレーで大きな役割を果たしたのが、宮島徹也だ。ディフェンスではリバウンドに飛び込み、さらにオフェンスでは果敢にインサイドにアタックすることで相手を引き寄せ、味方のシュートシチュエーションを作り出した。イラン戦では、この宮島のインサイドへのアグレッシブなプレーが、相手のファウルを誘い、チームの勝利に大きく貢献していた。

若手の成長がチーム力アップの原動力に

 一方、相手が28だったのに対して、日本は42と圧倒的な差でリバウンドを制したオーストラリア戦で、チームの3割以上を誇る14ものリバウンド数を誇ったのが秋田啓だ。さらに秋田はこの試合で藤本に次ぐ14得点を挙げ、攻守にわたって勝利の立役者となった。

 今大会、最も成長著しい活躍を見せたのが、これまでベンチを温めることが多かった緋田高大だ。6点ビハインドで迎えたオーストラリア戦での第4クォーター、この大事な局面を任された一人が緋田だった。素早く攻守を切り替えて相手をかく乱し、味方のハイポインターをうまくインサイドに導きだすプレーでチームの勝利に大きく貢献。指揮官からも大きな信頼を得た緋田は、その後の試合でも大事な局面で投入されることが増えていった。

リバウンド力が目立った秋田(左)と成長著しい緋田(右)[写真]=斎藤寿子


 その緋田と同様に、今大会の前半はなかなか出場機会が得られていなかったのが村上直広。しかし「日本が勝つためには不可欠な存在の一人」と語っていた及川HCの期待通り、後半の試合で出番が増え、特にイランとの3位決定戦ではフィールドゴール成功率66%を誇り、チーム最多の15得点。劣勢な場面でチームの流れを変える強さを発揮した。

 さらに新たな強みを見せたのが、チーム最年少の赤石竜我だ。スピードと粘り強さを発揮した守備に定評のある赤石。日本代表としての公式戦は、昨年のアジアパラ以来2度目だが、スタメンに抜擢されることも多く、指揮官から大きな信頼を寄せられている。その一方で今大会ではシュート力も発揮。特に3位決定戦ではフィールドゴール成功率80%を誇り、自身最多となる9得点を挙げた。

 その赤石とともにチームが劣勢の時に流れを変える役割を果たした鳥海連志。香西、宮島、秋田とともに「最も安定感のあるラインナップ」のメンバーである岩井孝義。スタメンの一人として重要な役割を担った川原凜。司令塔としてチーム最多のアシスト数41を誇った古澤拓也。そして安定感抜群のプレーに定評のある精神的支柱のキャプテン豊島英。

最年少ながら持ち味を発揮した赤石[写真]=斎藤寿子


 12人全員が“主力”となり、チームが目指す「一心」で戦い続けた今大会、結果は4位ではあったが、彼らがつかんだ手応えと自信の大きさははかりしれない。

 “及川ジャパン”は確実に強くなっている。そして、さらに強くなる可能性がある。今大会で示された力を、来年の本番では、“金メダル”という結果につなげるつもりだ。

文・写真=斎藤寿子

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