2020.12.02

【車いすバスケリレーインタビュー 女子Vol.13】山﨑佳菜子「再スタートを切った代表への道」

昨年の女子U25世界選手権でキャプテンを務めた山﨑佳菜子[写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。2011年よりパラリンピック競技を中心に、国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドン、16年リオ、18年平昌、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

インタビューした選手に「現在成長著しい選手」「ライバルだと思っている同世代選手」「ベテランから見て将来が楽しみだと思っている若手」「若手から見て憧れているベテラン」などを指名してもらい、リレー方式で掲載するこの企画。車いすバスケットボール選手の個性的なパーソナリティーに迫っていく。

写真・文=斎藤寿子

 昨年、女子U25世界選手権で同カテゴリーでは初のベスト4進出を果たし、メダルまであと一歩に迫った女子U25日本代表。キャプテンとしてチームをけん引したのが山﨑佳菜子(WING)だ。副キャプテンを務め、Vol.12で登場した石川優衣(ELFIN)はコート内外でリーダーシップを発揮してチームをまとめた山﨑を尊敬の眼差しで見ていたという。次世代を担う若手として期待されている山﨑が今、追い求めている選手像とは――。

仕事と競技の両立を求める理由

 昨年5月にタイで開催された女子U25世界選手権。山﨑は全試合に出場し、主力の一人として活躍。今年は東京パラリンピックを目指す女子日本代表の強化指定選手に選出され、現在は国内のトップ選手たちと生き残りをかけて切磋琢磨している。しかし、当初は昨年のU25世界選手権を代表活動の最後にしようと考えていた。

 山﨑が初めて日本代表の強化指定に選出されたのは、2018年。当時は大学を卒業し、地元の市役所に就職をしたばかりだった。慣れない社会人生活の中、周囲に迷惑をかけながら合宿に参加することに、山﨑は苦しさを感じていた。

「ふだんほとんど練習できないまま合宿にだけ参加するような感じで、ほかの選手との差は開くばかりでした。これではただ職場の人にも、他の選手にも迷惑をかけているだけだと思いましたし、このままでは仕事もバスケットボールも中途半端になってしまうなと」

 山﨑は、強化指定選手としての活動を辞退することを決意。車いすバスケは趣味として続けていくことを決めた。

 その山﨑から「(強化指定に)選んでもらえるのなら、できるところまで頑張ってみたい」という言葉が出たのは、今年1月、皇后杯の時だった。

 今年で就職して3年目。仕事に慣れ、生活スタイルが確立できたことが大きいという。毎朝6時に起きて、8時間の勤務、仕事が終わると練習に向かう。残業になると夜の練習ができなくなるため、朝早く職場へ行って仕事を始めたり、昼休みの時間を使ってトレーニングするという生活を送っている。

 現在、車いすバスケ界でも国内トップ選手たちの多くがアスリート雇用として競技に専念できる環境を整えている。将来を有望視されている山﨑なら、アスリート雇用の道は十分に考えることができるが、それでも仕事と競技との両立の道を模索する理由を、山﨑はこう語る。

「私のなかでは、まずは仕事をすることが第一優先。それは変わりません。それに代表としての活動は、周囲の支えがあるからこそのものだと思っているんです。昨年の世界選手権でも、職場の人たちがYouTubeで見てくださって、応援してくれていました。“周りの支えがあって、今の自分がある。頑張ることができている”と気づき、バスケも仕事も頑張ろうと思いました」

 もちろん仕事と競技との両立は大変なこともある。だが、その一方で双方が良い息抜きとなり、気持ちの切り替えができるというメリットも感じている。山﨑にとって、“両立”こそが納得の競技人生を送ることができる最善の方法なのだ。

スピードにこだわり唯一無二のプレーヤーに

 再び世界を目指すステージに立つことを決めた山﨑。彼女の背中を押した出来事の一つに、昨年のU25世界選手権があったことは間違いない。

「あの時はこれで代表活動には区切りをつけよう、と思っていました。でも終わってみて、“どうしようかな”という気持ちが出てきたんです。結果も自分自身のプレーも、納得できたわけではなかったので」

 世界選手権でのベスト4は、女子U25のカテゴリーとしては初の快挙。また傍から見れば山﨑は不可欠な存在としてチームの大きな戦力となっていた。しかし、山﨑には力を使い果たした気がしなかった。まだまだ課題は多く、やれることはあったはずだと感じたのだという。それは逆にいえば、自分自身に伸びしろを感じたということでもあったに違いない。

U25世界選手権では優勝したアメリカ相手にも果敢に攻め続けた[写真]=斎藤寿子

 そんな山﨑の気持ちが通じたかのように、チャンスが訪れる。世界選手権の半年後の12月、翌年の女子日本代表の強化指定メンバーを決める選考会に招へいされ、合宿後、山﨑の元には強化指定入りの通知が届いた。

 同じ持ち点4点台には、チームでも数少ないパラリンピック出場経験を持つキャプテン藤井郁美(宮城MAX)や網本麻里(カクテル)、さらには昨年U25日本代表としてともにプレーした同世代の碓井琴音(SCRATCH)など、ライバルは多い。チーム内競争が激しい中、山﨑はどのようにして自身の存在を確立させようとしているのだろうか。

 ハイポインターと呼ばれる4点プレーヤーにまず求められるのは得点力。そのため、高さやアウトサイドのシュートを強みとする選手が多い。しかし、山﨑はそのいずれにも当てはまらない。彼女の最大の武器は、スピードだ。病気になる前は陸上部だった山﨑は“走ること”に関しては「絶対に誰にも負けたくない」という強い思いがある。そのため、得点のほとんどがドリブルでカットインしてのランニングシュート。昨年の世界選手権では、高さに勝る海外勢相手にスピードで対抗し、得点を重ねた彼女のプレーがチームに勢いを与えた。

 しかし、それだけでは世界に勝てないこともまた、その時に思い知らされた。だからこそ今、一番注力して取り組んでいるのが、アウトサイドからのシュート力を身につけることだ。

「これからもスピードにはこだわっていきたいと思っています。だからこそ、自分のスピードを活かすためにも、アウトサイドのシュートの確率を上げていきたいんです。アウトサイドもあると思ってくれれば、相手のディフェンスがジャンプアップしてきて、カットインしやすくなる。そうすれば、私の強みがより発揮できるかなと思っています」

 合宿では厳しいメニューをこなした午前、午後それぞれの全体練習後、必ず100本のシュート練習を課している。今はまだシュートタッチやフォームが完璧には固まっていない。それでも“継続は力なり”は経験済み。車いすバスケを始めて1年目の時にはフリースローにさえリングに届かなかったのが、3年目となった昨年の世界選手権では大事な局面でフリースローを決め、チームに勝利をもたらした。

 そして山﨑にとってコツコツと地道に積み重ねることは、陸上部時代から得意分野でもある。どちらかというと一人行動が好きな山﨑。一番好きな時間は「試合前や練習前、誰よりも先にコートに入って、一人でアップしている時」だという。だから練習後に黙々と行うシュート練習も、自分と向き合う大事な時間となっている。

 仕事と競技を両立させ、プレーではカットインもアウトサイドもあるプレーヤーに――。これからも自分自身のスタイルを貫き通し、納得した道を模索し続けていくつもりだ。

スピードを活かしたカットインからの得点は山﨑の専売特許だ[写真]=斎藤寿子

(Vol.14では、山﨑選手がおススメの選手をご紹介します!)

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