2021.04.19

【車いすバスケリレーインタビュー 女子Vol.23】 江口侑里「海外との力の差を感じたU25世界選手権」

チーム最年少19歳で19年U25世界選手権に出場した江口侑里[写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

インタビューした選手に「現在成長著しい選手」「ライバルだと思っている同世代選手」「ベテランから見て将来が楽しみだと思っている若手」「若手から見て憧れているベテラン」などを指名してもらい、リレー方式で掲載するこの企画。車いすバスケットボール選手の個性的なパーソナリティーに迫っていく。

文=斎藤寿子

 Vol.22で登場した立岡ほたる(パッション)とともに2019年の女子U25世界選手権に出場した江口侑里(九州ドルフィン/SEA WEST)。当時はチーム最年少の19歳、車いすバスケットボール歴1年半で出場した初めての国際大会だったが、第1・2戦はスタメンに抜擢。なかでも第2戦の南アフリカ戦ではチーム2番目の16得点をマークする活躍を見せた。現在は23年に予定されているU25世界選手権、さらにA代表へのステップアップを目指している。

高さを活かしたシュート力が武器のニューカマー

 もともと健常のバスケットボール部出身の江口は、小学3年の時にミニバスを始め、中学、高校ではセンターとしてプレーした。車いすバスケという存在は高校1年の時から知ってはいた。毎年地元で開催されている大会に江口が通う高校のバスケ部がボランティアをしていたからだ。

 実は江口には左側の手足に麻痺がある。障がい者手帳は持っているが、車いすバスケは自分はできないと考えていた。完全に歩いたり走ったりすることができない人のためのスポーツだと思っていたからだ。しかし、高校3年の時に通っていたリハビリ病院の先生から自分にも資格があることを聞き、興味本位で練習の見学に訪れた。そこでチームからスカウトされたのが始めるきっかけとなった。

 当初から身長168センチでバスケ部出身の江口が、日本の女子車いすバスケ界の将来を背負う存在として期待されたことは想像に難くない。始めて1年未満で女子U25日本代表の候補に抜擢されたのはそう不思議なことではなかった。

 江口のプレーを初めて目にしたのは、U25世界選手権の半年前、19年1月のオーストラリア遠征だった。後にU25世界選手権で準優勝した強豪国相手にも、長年センターとしてプレーしてきた江口には当初からインサイドに入るタイミングやゴール下の仕事において光るものがあった。

 なかでも最大の魅力は、クラス2.5にしてハイポインターにも匹敵する高さだ。海外と比較するとどうしても高さで劣る日本において、江口は貴重な存在であることは間違いない。彼女自身が一番の強みとするシュート力はもちろん、センターとして磨いてきたリバウンドの強さにも期待が寄せられる。

小学生からバスケ一筋の江口。身長168センチの高さがストロングポイントの一つだ[写真]=斎藤寿子

最終戦、最後に託されたシュートを外した悔しさ

 19年のU25世界選手権では6試合中4試合に出場し、そのうち2試合でスタメンに抜擢された。過去最高の4強入りに貢献した江口を海外も注目して見ていたようだ。

「最後のフェアウェルパーティーで突然、海外チームのコーチに呼び止められて『あなたはシュートがうまいね。もっとうまくなると思うから頑張って』と。まさかそんなことを言ってもらえるなんて思ってもいなかったので、すごくうれしかったです」

 一方、自分自身での感触はというと「海外選手とのレベルの差を感じ、悔しい思いのほうが大きかった」と語る。最も印象に残っているのは、最後の3位決定戦だという。相手は前年A代表の世界選手権で準優勝したチームの主力メンバー2人を擁するイギリスだった。

「その試合では前半に少し出させてもらっていたのですが、第4クォーターでも残り3分の時にコートに出させてもらいました。たぶん次の4年後のことを考えて、若い私たちにプレータイムを与えてくれたのだと思います。最後の最後、ボールを託されたのは私だったのですが、シュートを決めることができず本当に悔しかったです」

 それは、残り9秒で日本のスローインからのシーンだった。江口はなんとかゴールに近付こうと必死に車いすを切り返そうとした。だが、イギリスのディフェンスにピックをかけられてほとんど身動きが取れなかった。それでも、相手のローポインターと高さのミスマッチとなっていた江口にボールが託された。ゴールに正対した時には残り1秒。江口はそのままペイントエリアの外から打つほかなかった。

 そこで改めて浮き彫りとなった課題に、現在は精力的に取り組んでいる。一つはチェアスキルを磨いて、ゴールに近づくパワーとテクニックを養うこと。もう一つはシュートの飛距離を伸ばすことだ。現在、江口が確実にシュートを決められるのはペイントエリア内。3ポイントシュートラインの手前からもゴールには届くが、確実性はまだない。最終的には3ポイントシュートも武器にするくらいのシュート力を持ちたいと考えている。

 左側の手足に麻痺がある江口にとって、それらは決して簡単なことではない。それでもまだ21歳の彼女には無限の可能性があるはずだ。現在は体育館での練習のほか、週に一度はチームのトレーナーが勤務する整形外科に通い、体幹トレーニングや柔軟にも注力している。すでに手で車いすを漕ぐことなく、腰の動きだけで車いすを操作できるようにもなり、成果も出ているという。

「一つでもいいから相手が警戒するくらいのものを磨きたい」と語る江口。ゆくゆくはA代表に選ばれ、パラリンピックに出場したいと考えている。そのためにもまずは2年後のU25世界選手権で史上初のメダルを獲得し、先輩たちのぶんも19年の雪辱を果たすつもりだ。

U25世界選手権出場を機に上を目指したいと思いが芽生えた[写真]=斎藤寿子


(Vol.24では、江口選手がおススメの選手をご紹介します!)

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