2021.05.12

車いすバスケットボール男子日本代表が見せた「4+1年」の成長

車いすバスケットボール男子強化指定選手を2チームに分け、紅白戦形式で強化試合を実施 [写真]=JWBF/X-1
十数年にわたりラジオディレクターとして活動した後、カナダに留学。帰国後の2016年からパラスポーツの取材を始め、18年車いすバスケットボール世界選手権、アジアパラ競技大会をカバーした。

 5月9日、車いすバスケットボール男女強化指定選手による「有明特別強化試合」が東京の有明アリーナで行われた。

 東京パラリンピックで車いすバスケットボールの競技会場となる「武蔵野の森総合スポーツプラザ」ではこれまでに2回、海外チームを招聘しての国際親善試合が開催されたが、もう一つの会場である「有明アリーナ」での試合は今回が初めて。本番会場で試合を経験できる貴重な機会となった。

 女子日本代表の試合に続いて行われた男子の試合は、強化指定選手を2チームに分けた紅白戦の形式で行われた。

 U23から今や日本代表の主力メンバーに定着した鳥海連志や古澤拓也を擁するチーム「ホワイト」に対抗するのは、男子日本代表キャプテンの豊島英や香西宏昭、藤本怜央といったベテラン選手を多く含むチーム「ブラック」。

 チームメートとして一緒にトレーニングを重ね手の内を知る相手だけに、どういう戦いを見せてくれるのか、開始前から想像をかき立たせてくれる試合となった。

 ブラック・藤本の先制点でゲームがスタートすると、速いトランジションからホワイト・秋田啓が即座に2点を返す。村上直広がミドルを決めれば、鳥海は持ち味のスピードを生かしたレイアップや片輪を上げて高さを出すティルティングでゴール下のシュートを決める。

持ち前のスピードに乗ったレイアップを披露した鳥海連志 [写真]=張理恵


 スピードが増しさらに磨きがかかったトランジションバスケで激しいプレーの応酬が繰り広げられ、14−13と互角の戦いで、あっという間に第1クォーターを終えた。

 その後も、めまぐるしくボールが動く展開が続く。

 第2クォーターでは両チームともシュートがなかなか決まらない時間帯があったものの、(パラリンピック前最後の公式戦となった)2019年12月のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)に向けて強化してきたリバウンドからチャンスにつなげるプレーや徹底的にボールに執着するアグレッシブなプレーが随所に見られ、日本が目指すバスケがチーム全員の体の奥まで染みついていることを実感させた。

 21−19でハーフタイムを迎えると、選手同士が積極的にフィードバックし合う場面も見られた。

 昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により日本代表の活動自粛を余儀なくされた。7月に合宿が再開されると、運動量をそれまでの1.5倍に増やし強度を上げてきた。

 若手選手のスピードが上がっていくのに刺激を受け、ベテランも負けじと底力を見せ、チーム内で良い競争力や相乗効果が生まれているという。

 さらに試合後半では、修正力においての成長も見られた。

 特に際立ったのが3Pシュートの成功率。序盤は「リングの堅さに慣れずリングに嫌われた」藤本だったが、スペースを意識することで「シュートフォームとリングのマッチングが合ってきた」といい、7本中4本の3Pを含む、両チーム合わせて最多の17点を挙げチームを勢いづかせた。また3Pとボールハンドリングを強みとする古澤も後半にかけてスペーシングを修正することで本来の持ち味が発揮され、自らが得点するだけなく好アシストでもチームを支えた。

試合内容に「100点満点で80点をあげてもいい」と京谷和幸HC[写真]=張理恵


 そして、障がいの重い岩井孝義や川原凜、豊島といったローポインターもチャンスがあれば積極的にゴールを狙い、ディフェンスはもちろん得点においても貢献した。

 チームが掲げる「一心」というキーワードを体現するかのように全員がコート上で躍動し、わずか1点差の54−53で「ブラック」が勝利した。

「オフェンスでの想像力は昨年に比べて格段に上がってきた。フィニッシュに行く時の選択肢をいくつか持つよう話しているなかで、選手がコート上で判断してやってくれた。100点満点中80点あげてもいい」と京谷和幸HC。

試合内容に「100点満点で80店をあげてもいい」と京谷和幸HC[写真]=張理恵

 しかし一方で、不安材料がないわけではない。東京パラリンピック本番まで海外勢との対外試合が行われる予定はなく、ゲーム勘という部分での懸念はある。代表レベルではないとはいえ、ヨーロッパでは国内リーグや、ドイツ、スペイン、イタリアのクラブチーム(8チーム)が出場した「チャンピオンズカップ2021」が開催され、オーストラリアやアメリカでもリーグ再開に向けた動きがある。

「代表合宿では世界基準でのプレーを求めている」と京谷HC。

 パラリンピックでのメダル獲得に向けて、ブレずに突き進んでいく。

 今回の強化試合は感染症対策により無観客での開催となったが、「JWBF公式YouTubeチャンネル」でライブ配信された。

 キャプテンの豊島は「日本代表として車いすバスケットボールを発信できたのが、2019年12月のAOC以来。久しぶりに日本のトランジションバスケを観ていただけたというのが何よりもうれしく、コロナ禍の中でも成長してチームを作ってきたことをしっかり届けられたと思う」と言葉に力を込めた。

 この日、コートの上にはたくさんの笑顔があった。

 「バスケットボールが楽しい!」激しいプレーの中に、そんな声が聞こえてくるかのような高揚感に満ち溢れていた。

 開幕まで100日あまりとなった東京パラリンピック。

 その大舞台での活躍を十分に期待させる強化試合となった。

有明特別強化試合(男子) 「ホワイトvsブラック」出場選手
<ホワイト>
1 緋田 高大(1.0)
2 宮本 涼平(1.0)
3 斉藤 貴大(1.5)
4 藤澤 潔 (2.0)
5 鳥海 連志 (2.5)
6 古澤 拓也 (3.0)
7 秋田 啓 (3.5)
8 宮島 徹也 (4.0)
9 土子 大輔 (4.0)
10 大舘 秀雄 (4.0)

<ブラック>
1 岩井 孝義 (1.0)
2 川原 凜 (1.5)
3 豊島 英 (2.0)
4 赤石 竜我 (2.5)
5 竹内 厚志 (3.0)
6 香西 宏昭 (3.5)
7 篠田 匡世 (3.5)
8 村上 直広 (4.0)
9 髙柗 義伸 (4.0)
10 藤本 怜央 (4.5)

※( )内は障がいの程度によって分けられるクラスの持ち点

文・写真=張理恵

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