2021.08.27

車いすバスケ男子日本代表…“ディフェンスで世界に勝つ”を実戦した初戦の白星

ハードなディフェンスが奏功し、男子日本代表が白星スタートを切った[写真]=Getty Images
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 東京パラリンピックの初戦でコロンビアを63-56で破り、白星発進した車いすバスケ男子日本代表。この試合が意味していたのは、スローガンである「ディフェンスで世界に勝つ」を実現させるというチームの固い意志だった。

藤本に象徴されていたアウトサイドにこだわる意味

アウトサイドシュートで力を発揮した藤本 [写真]=Getty Images


 試合開始10秒で、チーム最年長37歳の藤本怜央が狙いすましたかのように3ポイントシュートを決め、最高の形で男子日本代表の東京パラリンピックが幕を開けた。しかし、京谷和幸HCが「重苦しい試合になるとは思ったが、予想以上にスピードがあり、てこずった」と語るように、なかなかコロンビアを引き離すことができず、激しい競り合いが続いた。特に前半は、フィールドゴール成功率が41パーセントと、46パーセントのコロンビアを下回っていた。

 一方でコロンビアを50点台に抑えたことは、ディフェンスが機能していたことの証でもあった。フィールドゴール成功率で下回りながらも得点では上回っていた要因としては、ターンオーバーが9とコロンビアにシュートチャンスを簡単には作り出さなかったことが挙げられる。

 後半にはファウルが混み、ディフェンスに定評のある川原凜が珍しく4つとファウルアウト寸前だったことは、今までにないことだった。藤本も第4クォーターの序盤で3つ目をもらっている。

 しかし、これは決して日本のディフェンスの技術の問題ではないだろう。むしろディフェンスに自信を持っている日本が、ハードなディフェンスをしようとしている証だったのではないだろうか。そしてお互いが狭いスペースで激しく動くなかで、ほんのわずかなタイミングのズレや角度の違いによって、ともするとファウルを取られてしまう、そのギリギリのところで日本は勝負できるだけのスキルを持っているということの表れでもあったはずだ。

 また、もう一つこの試合で感じられたのは、単に1勝を目指したわけではなかったという点だ。象徴的だったのが、藤本のプレーだ。藤本と言えば、アウトサイドのシュート力もある一方、日本では随一の高さを誇り、ペイントエリアでの激しい攻防を制してゴールにねじ込む迫力あるプレーが真骨頂とされる。しかし、この試合では11得点すべてがアウトサイドからのシュートによるものだった。

 もちろん、藤本だけではない。スペースを広く使いながら、アウトサイドからのシュートチャンスを作り出すということがチーム全体に浸透されていた。そこには明確な狙いがあった。

「インサイドで攻めるということが、サイズのない日本にとって厳しいことは明確で、それよりもスペースを保ったなかで相手を引き出して崩していくというバスケットをこの1年で作り上げてきました。これまで以上に3ポイントも多く打っているので、それが入ってくれば一気に崩せると考えています。これまではインサイドの次にアウトサイドだったのが、今は逆にアウトサイドを中心とした攻撃をして、入らなければ早く戻ってディフェンスをするというバスケ。それができるという意味で“ディフェンスで世界に勝つ”をスローガンにしています」(京谷HC)

目の前の1勝だけでなく、その先も見据える京谷HC[写真]=Getty Images


 今後待ち受ける強豪国に対して、1試合を勝つだけでなく、勝ち続けるために作り上げてきたのが「ディフェンスで勝つバスケ」だ。つまりコロンビア戦でのプレーは、単なる1勝を目指したものではなく、この先の勝利を見据えた上でのものだったのだ。

 今後はディフェンスはもちろん、いかにアウトサイドのシュートの確率を高めることができるかがカギを握る。まずは2年前のリベンジを果たさなければならない韓国との第2戦に注目したい。

文=斎藤寿子

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