2021.08.31

2018年世界選手権の再来となったトルコ戦で日本が見せた“3年間の差”

トルコ戦で勝利に導く活躍を見せた香西宏昭[写真]=Getty Images
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 30日、男子日本代表はグループリーグ最終戦でトルコを67-55で破り、2位通過を決めた。前半を凌ぎ、後半勝負というチームのプラン通りの展開となったこの試合、明確となったのは3年間での成長の差だった。若手が台頭し、それに刺激を受けてベテラン勢も進化し続けた日本に対し、トルコは3年前から変わってはいなかった。

若手の成長とベテランの進化

 第3クォーターの終盤、エースのオズグル・ガブラックがオフェンスファウルを取られた瞬間、彼の表情が曇った。これが、3年前の再来のサインだった。

 2018年世界選手権、日本はグループリーグでトルコと対戦している。前半はトルコがリードするも第3クォーターで同点とした日本は、第4クォーターで逆転。すると、ガブラックの苛立ちがピークに達し、それがチームへと波及していくことで、トルコは集中力を欠いたプレーで崩れていった。

 ガブラックのメンタルも、トルコがガブラック次第であることも、その時とまったく変わってはいなかった。オフェンスファウルを取られ、苛立ち始めたガブラックに追い打ちをかけるかのように、その直後に藤本怜央が3ポイントシュートを決め、日本は1点差に迫った。

 あわててガブラックがシュートを放つも、これがリングに嫌われてしまう。すると苛立ちがピークに達したのだろう。ガブラックは、コート上に響く声で吠えた。さらにその直後には、再びオフェンスファウルを取られたガブラック。その表情は、怒り心頭そのものだった。

 翻って静かに闘志を燃やしながら、淡々とプレーを続ける日本には、3年前よりもすごみがあった。対戦相手や状況次第で切るカードの数が増え、厚みも増している日本には、どんな状況下でもブレないメンタルが備わっているからだ。

 この日、チームに最初に流れを引き寄せたのは、スピードとディフェンス力のある香西宏昭と赤石竜我だ。試合の序盤、ハーフコートディフェンスがハマらず、ミスも多発した中、2-10と大きなビハインドを負った日本。そこで京谷和幸ヘッドコーチは、予定よりも早めにカードを切ることを決断。香西と赤石を投入した日本は、プレスディフェンスでトルコを圧倒し、一気に速い展開の日本ペースにしてみせた。

 ディフェンスでリズムをつかんだ日本は、得点も伸ばしていく。特に香西は、第1クォーターの後半から第2クォーターの前半にかけての約7分間で、3ポイントシュート2本を含む3本のシュートをすべて決めてみせた。こうした香西のプレーについて、京谷HCはこう称した。

「特にチームの得点が伸びない時に、彼を投入すると確実に期待に応えてくれるので、非常に助かっているなと。この試合でも効果的なところで3ポイントシュートを決めてくれたので、それによって相手ディフェンスが張り出してくれた。彼のようなアウトサイドのシューターがいてくれるのは、チームにとって大きいですね」

 すると、香西に刺激を受けるかのように、第2クォーターの後半には藤本が約5分間で4連続得点を挙げ、日本は逆転に成功した。そして前述したとおり、迎えた第3クォーターでは日本のディフェンスがトルコのエースのメンタルを引き裂いた。これが、勝敗を決するポイントとなったことは間違いない。

 3年前には21得点を許したガブラックを9得点に抑えたことでも、いかに日本のディフェンスのレベルが上がっているかがわかる。また、鳥海連志がチーム最多となる8アシストで味方の得点をお膳立てし、さらに13本ものディフェンスリバウンドを取っていることも、3年前にはなかったことだ。

 その鳥海と同世代の赤石や川原凜のディフェンス力は、今や世界のトップレベルにあり、ミスマッチを狙う海外勢を苦しめている。また、赤石は得点に絡むプレーも増え、自らシュートを打つだけでなく、アシストもできる選手に成長した。

 加えて香西、藤本、秋田啓といったシューターも、それぞれ進化を遂げている。香西はこの試合のプレータイムは20分にも満たなかったが、約33分出場して16得点を挙げた世界選手権の時よりも多い22得点。特に第4クォーターの終盤には、5分間で10得点を叩き出した。

 その香西のフィールドゴール成功率67パーセントを上回ったのが秋田で、75パーセントという数字を誇った。もともと高さを生かしたプレーが持ち味の秋田だが、ペイントエリア内でのシュートを決め切るすごみは格段に上がっている。

 そして、3年前の世界選手権では実力を出し切れなかった藤本は、今大会は好調を維持し、5試合中3試合でフィールドゴール成功率が50パーセントを超えている。トルコ戦でのガブラックの苛立ちを助長させるタイミングでの3ポイントシュートは、流石の一語に尽きた。

 若手とベテランとがバランスよく融合され、プレータイムに関係なく、全員がコート上でそれぞれの役割を果たすことに集中している日本。史上最強のチームが3大会ぶりに決勝トーナメントに臨む。

文=斎藤寿子

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