2021.09.10

銀メダルの車いすバスケ男子日本代表、スタッツに示された“史上最強”の真実

銀メダルを獲得した車いすバスケ男子日本代表を総括[写真]=Getty Images
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドン、16年リオ、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

「ディフェンスで世界に勝つ」をテーマに掲げ、東京パラリンピックに臨んだ車いすバスケットボール男子日本代表。その宣言通り、大会を通して選手たちの口から聞こえてきたのはディフェンスのことが中心だった。とはいえ、バスケットボールというスポーツは得点で相手を上回らなければ勝利をつかむことはできない。大会通算のスタッツを見ると、日本はオフェンス、ディフェンスの両面でバランスが取れたチームであったことがわかる。そこで、いかにして日本が史上初の銀メダル獲得という偉業を達成したのかを数字からひも解いてみたい。

リバウンド数に見る鳥海連志が決断した挑戦の意義

ゴール下で存在感を発揮した鳥海[写真]=Getty Images


 まず日本の強さの象徴となったのは、リバウンドだろう。小柄な選手が多く、今大会も参加12カ国中、最も平均身長が低いチームの1つとされた日本が、高さを必要とするリバウンドで海外勢を上回ることは、過去のパラリンピックでは皆無に等しかった。それも1、2試合だけという偶発的なことではない。8試合中、決勝トーナメント全3試合を含む5試合でゴール下での争いを制しているのだ。

 その中心的役割を果たしたのが、鳥海連志だ。座面を高くセッティングし、タイヤも一回り大きくした鳥海の車いすは、2016年リオデジャネイロパラリンピックから比べると約20センチも高くなっている。それは彼にとっては大きなリスクを伴う挑戦だった。

 先天性の障がいで両脚が膝上から欠損している鳥海は、下半身の重りがない。そのため、体の重心を高くすればするほどバランスを崩しやすいというデメリットが出てくる。それは攻防の切り替えの速さを武器とする日本において、またクイックネスを最大の武器とする鳥海にとって、大きな賭けであったことは間違いない。実際、周囲からはチェアスキルが落ちるのではないか、という疑念の声も挙がっていたという。それでも鳥海が迷うことなく決断した背景には、5年前から抱いていた思いがあった。

「もともと僕はクラス2.0(17年1月に2.5に変更)で、同じクラスには(豊島)英さんがいました。安定感のある英さんと比較した時に自分には何が必要かと考えて、インサイドの強さが欲しいと思ったんです。車いすの高さを上げることにはいろいろと不安の声もありましたが、それでも絶対に次のパラリンピックはスタメンで出たいという気持ちがあったので挑戦することに決めました」

リオ大会当時(写真左)から車いすを調整して高さを手にした[写真]=Getty Images


 今大会、鳥海の1試合平均リバウンド数10.8は、堂々の3位タイ。さらにスティール数の1試合平均2.0も3位だった。これは「誰よりもしてきたという自負がある」というトレーニングによってバランスを維持し、長所であるクイックネスをいかしたディフェンス力を落とさなかった証だろう。

 そしてチーム全体で特筆すべきは、ファウル数だ。1試合平均13.8は3番目の少なさだった。どのチームよりもアグレッシブなディフェンスをしながら、このファウル数の少なさは、いかに日本のチェアスキルが高いかを示している。

世界から称賛を受けた香西宏昭の世界トップクラスのプレー

高精度のシュートで日本を支えた香西[写真]=Getty Images


 一方、オフェンス面に着目すると、日本のフィールドゴール成功率の高さがうかがえる。8試合での成功率46.2パーセントは、トルコ(47.8)、イギリス(46.8)に次いで3位。3ポイントシュートも4位の29.4パーセントだった。また3ポイントの成功本数ではドイツと同じトップの25本で、1試合平均は2位の3.1本だった。ドイツ同様に高さがない日本の武器となったのが3ポイントシュートであったことは、東京オリンピックの女子日本代表と酷似している。

 そして最も日本らしさがうかがえたのは、速攻による得点と、ベンチスタートの選手による得点の多さだ。速攻での92得点は、2位アメリカの80得点を大きく上回る堂々の1位。ベンチポイントは、アメリカにこそかなわなかったが1試合平均27.1得点の2位だった。

 こうした得点面で最も貢献したのが、香西だ。グループリーグ第1、2戦は京谷和幸ヘッドコーチが「手の内を見せたくない」とベンチを温める時間帯が多かったが、苦戦を強いられた第3戦からはプレスディフェンスの重要なキーマンの1人として投入され、シューターとしても世界トップクラスの実力を発揮した。大会通算でのフィールドゴール成功率は第3位の55.1パーセントを誇り、なかでも3ポイントシュートの通算14本、51.9パーセントの成功率はいずれもトップの数字だった。

「誰か1人を挙げるとすれば、やはり香西だろう。彼がイリノイ大学でプレーした時から、対戦相手校のHCとして彼がどんなに素晴らしいプレーヤーかは知ってはいたが、今大会の彼は本当に大きく成長した姿を見せていた」

 そう語ったアメリカのロン・ライキンスHCをはじめ、世界から多くの称賛の声が挙がった香西。彼を大会序盤では温存し、加えて全試合でスタメンではなく、流れを変えるためのシックスマンとして起用した京谷HCの戦略は見事のひと言に尽きた。そして、その指揮官の期待にしっかりと応えた香西の実力の高さが遺憾なく発揮された大会となったことは間違いない。

 そのほか得点面では、全試合スタメンの藤本怜央や秋田啓、さらに古澤拓也らがチームをけん引。ディフェンスでは同じく全試合スタメンの川原凜やキャプテン豊島英、チーム最年少の赤石竜我、プレータイムは少なかったが指揮官が絶対的信頼を寄せた宮島徹也や岩井孝義らが献身的なプレーを見せた。

 高さがない日本が、世界一のディフェンス力を持ち、「12人全員がエース」(京谷HC)となれば、世界に勝てることを証明した男子日本代表。これが奇跡などではなく、真実とするために、今後は“証明し続ける”という新たな挑戦が始まる。

文=斎藤寿子

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