2021.10.25

東京パラ銀メダルの香西、藤本が所属するランディルが開幕4連勝!

"38歳のルーキー"として奮闘する[写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 車いすバスケットボール男子日本代表が、史上初めて表彰台に上がり、銀メダルを獲得した東京パラリンピック。その熱戦から2週間後の9月19日に渡独し、25日に開幕したドイツ・ブンデスリーガ(1部)で戦いの日々を送っているのが、香西宏昭と藤本怜央だ。ともに所属するランディルは今シーズンも優勝候補の筆頭に挙げられ、快進撃が続いている。10月24日には、2人の古巣でもあるBGハンブルクとのアウエー戦に臨み、ランディルが77-59で快勝。開幕4連勝を飾った。

ターニングポイントとなったプレスへの切り替え

 最初に主導権を握ったのは、ホームのハンブルクだった。前日にも試合があったハンブルクだが、その疲れを見せることなく、快調にシュートを決め、第1クォーターの前半5分で13-6とランディルを引き離した。

 この流れを一転させたのが、第1クォーターの5分半に3人を入れ替え、スタートでのハーフコートディフェンスから切り替えたランディルのプレスディフェンスだ。スターティング5のブライアン・ベル(アメリカ)、トーマス・ベーメ―(ドイツ)に加え、途中出場のヤニック・ブレア(オーストラリア)、サイモン・ブラウン(イギリス)、そして香西という各国の代表クラスが揃ったラインナップによるオールコートでのディフェンスに、ハンブルクが苦戦し始めた。

 最大のターニングポイントとなったこの場面について、「日本代表の時と同じように、まずは試合のテンポを変えたいと思いながらコートに入った」という香西は、「すぐには逆転できなくても、徐々に相手を疲弊させて40分間で勝つことを目指した」と語った。

 さらにオフェンス面でもチームに勢いをもたらしたのが、香西だ。コートに入って、わずか3秒後には自身最初のシュートとなった3Pシュートを決めると、その後も次々と得点を重ねていった。残り1分で自らのファウルで相手エースにバスケットカウントによるフリースローを与えるも、その直後には連続得点を挙げるなど、シュート力を発揮した香西は、4分間の出場でチーム最多の9得点。フィールドゴール成功率は80パーセントを誇った。

 第2クォーターに入ると、さらにランディルのプレスディフェンスが機能し、ハンブルクに思うようにボール運びをさせなかった。また、第1クォーターではハンブルクが上回っていたリバウンドでも互角に渡り合うことで、相手に簡単には攻撃チャンスを与えなかったことも大きかった。

 ディフェンスで自分たちのリズムを作ったランディルは、オフェンスでは豊富なバリエーションで得点を挙げて逆転。逆にハンブルクは、ランディルの5人の速く巧みなチェアスキルについていけずにファウルがこみ、後半に大きく影響することになる。試合は、ランディルの6点リードで折り返した。

 第3クォーターではさらにリードを広げ、完全に試合の主導権を握ったランディル。一方のハンブルクは、ランディルの速さにフラストレーションをためるかのようにファウルが続いた。第3クォーター終盤にはHCを兼任する元イラン代表のアリレザ・アハマディがアンスポーツマンライクファウルをとられ、これが5つ目となりファウルアウトに。この時点でチーム最多タイの16得点を挙げ、司令塔でもあるアハマディを欠いたハンブルクは、戦力ダウンを余儀なくされた。

 そのハンブルクに対し、ランディルは12人全員を出場させながらリードを広げ、終わってみれば18点差をつけて快勝。無傷の4連勝を飾った。

新たな課題を前にもポジティブに挑む藤本

 チームに流れを引き寄せる重要な役割を果たした香西は、攻防にわたって勝利に貢献した。シュートも試合を通して安定感が光り、フィールドゴール成功率61パーセントで、ベーメ―の18得点に次ぐ17得点。アシストもチーム最多の5と、マルチな活躍で存在感を示した。

 一方、藤本はこの日もスターティング5に名を連ねたが、第1クォーターの序盤はミスマッチを狙う相手に難しい対応を余儀なくされ、本人も「(2on2の)パートナーを組むチームメイトともっとコミュニケーションを取らなければいけなかった」と反省点を口にした。しかし、その後はしっかりと修正し、さらにプレスディフェンスの一人としても相手の攻撃を封じた。

 また、オフェンスではこれまでとは異なる役割を求められている。日本代表では藤本のシュートチャンスをつくるためにローポインターがインサイドにダイブするなど、“生かされる側”だった藤本。東京パラリンピックでは、磨いてきたアウトサイドのシュート力を遺憾なく発揮し、予選第2戦の韓国戦ではフィールドゴール成功率71パーセントを誇り、21得点を叩き出した。

 しかし、この試合では逆に藤本がダイブし、ほかのシューターたちを“生かす側”に徹した。そのため、藤本がシュートを放つシーンは皆無に等しく、第3クォーターを終えた時点で10分以上のプレータイムで藤本が放ったシュートはわずか1本のみとなっていた。

 それでも献身的なプレーでチームメイトの得点に貢献していた藤本は、第4クォーターでは数少ないチャンスにゴール下でのシュートを決めた。しかし、アウトサイドからのシュートはゼロに終わった。世界トップレベルのシューターが揃うランディルの中で、いかに自らの存在価値を示していくのかという課題が突き付けられた試合だったのかもしれない。

 しかし、この難題を前にしても、藤本はいたってポジティブだ。

「純粋に刺激がたくさんあり、勉強にもなるし、楽しいですね。この年齢で楽しいっていうのも変ですけど(笑)。でも試合だけではなく、練習の中でも強度は高いですし、同じクラス4.5のブライアンのプレーも見ていてすごく勉強になりますし、刺激を受けています」

 移籍して2カ月足らずのなか、試行錯誤が続いている段階なのだろう。今後、チームに求められる役割を果たしながら、いかに自らをアピールしていくのか。ランディルにおいては“38歳のルーキー”である藤本の今後が注目される。

文=斎藤寿子

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