2021.11.01

香西&藤本が所属のランディル…因縁のライバルとの激闘制し首位に浮上

先発に起用され12得点をあげた香西 [写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 東京パラリンピックで銀メダルを獲得した香西宏昭と藤本怜央がプレーするドイツ・ブンデスリーガ(1部)。30日には、2人が所属するランディルが因縁のライバルであるテューリンギア・ブルズとホームのヴェツラーで対戦した。

 全勝同士の戦いにふさわしく、第1クォーターから手に汗握る白熱した展開となったが、ランディルが71-69と僅差で勝利し、開幕5連勝を飾った。この大事な試合でスターティング5の一人に抜擢された香西は、チームで2番目に多い12得点。途中出場の藤本も、攻防にわたってチーム一の高さを生かしたプレーで勝利に貢献した。

ランディルの守備に苦戦を強いられたブルズ

 この日のスターティング5には、香西擁するプレスディフェンス要員のラインナップが起用された。この試合に向けて、練習からジャネット・ツェルティンガーヘッドコーチが抑えるべきポイントにあげていたのが、ブルズのエースで東京パラリンピックにもドイツ代表として出場したアレクサンダー・ハロースキーだ。

 今シーズン、3度の100点ゲームで圧勝しているブルズ。そのうちの1試合では、42得点という驚異の数字を叩き出しているハロースキー。インサイドに強いビッグマンでありながら、3ポイントを含むアウトサイドシュートも得意とするマルチプレーヤーだ。ランディルは、そのハロースキーを最も警戒したが、第1クォーターは11得点を許した。

「アレックス(ハロースキー)に簡単にシュートを決められて乗せてしまい、嫌な試合の入り方をしてしまったのは、自分たちスタートの5人の責任」と香西。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ドイツリーグは昨シーズンは無観客で行われ、今シーズンも観客動員は少人数に抑えられていた。しかし、この大一番の試合には大勢の観客が詰めかけ、久々の賑わいをみせた。

 その分、コート上では声が届かなかったりと、コミュニケーションをすることが難しいという状況にあった。だからこそ香西は「一人ひとりがコート全体を見て判断できるようにしていかなければいけない」と感じたという。

 ランディルも要所要所に得点を挙げ、大きく引き離されることなく接戦に持ち込んだ。特にハロースキーと同じドイツ代表のトミー・ベーメーが、2ポイントシュートを85パーセントの高確率で決めたことが大きかった。

後半に藤本擁するラインナップを投入したランディル [写真]=斎藤寿子

 18-23と5点ビハインドで始まった第2クォーターの前半は、両者ともに一歩も譲らないシーソーゲームが展開された。後半に入ると、ランディルは藤本擁するラインナップを投入し、主軸をプレスディフェンスからハーフコートディフェンスへと切り替えた。自在にディフェンスのスタイルをかえ、相手にリズムを与えないのが、今シーズンのランディルの強み。それを象徴するかのように、ブルズのオフェンスに陰りが見え始めた。

 ここでのポイントを、藤本はこう語る。

「相手が高い2人の選手を軸にして攻めてくるのに対し、僕とブライアン(・ベル)と2人のハイポインターがいるラインナップでは、ミスマッチを起こさせないようなディフェンスが重要だと考えていました。簡単にローポインターが相手のシューターにヘルプをとばすのではなく、自分たちのマッチアップでなるべく完結させるようにした。それが良かったと思います」

 第1クォーターではタフショットも高確率に決めるなど80パーセントのフィールドゴール成功率を誇ったハロースキーだったが、第2クォーターに入ると66パーセントに。徐々にではあるものの、シュートの確率が下がっていることに、ランディルは自分たちのディフェンスが効いていることを感じていたという。

 すると第2クォーターの終盤、ブルズは攻めきれずに24秒バイオレーションを取られて、攻守が交代。このチャンスに、ランディルはベーメーのミドルシュートが決まり、36-35と逆転に成功した。藤本もオフェンスリバウンドからのセカンドチャンスを決め、さらにこの日初めてミドルシュートも決めるなどして貴重な追加点を挙げた。ランディルが42-39と3点リードで試合を折り返した。

相手の攻撃力を上回った守備力

 しかし、リーグ4連覇中のディフェンディングチャンピオンは、そう簡単には勝たせてはくれなかった。第3クォーターの前半にはランディルがハーフジャンプにとどめ、打たせてもいいとしていたヨアキム・リンデンが立て続けにシュートを決めてきた。さらに後半、ランディルの得点が止まった隙にブルズが連続で得点を決めて再逆転し、流れを引き寄せかけた。

 それでもランディルは、この日絶好調だったベーメーが大事なところでミドルシュートを決めて応戦。最後は残り3秒でベーメーのシュートが決まり、54-54。すべては最終クォーターに持ち込まれた。

自在にディフェンスのスタイルをかえ、同点で勝負の最終クォーターへ [写真]=斎藤寿子

 第4クォーターに入っても、がっぷり四つの状態が続いた。そんななか、残り2分でベーメーがこの試合初めてとなる3ポイントシュートを決め、66-65とした。さらにその後、ブルズが連続でミスをしてターンオーバーに。このチャンスを逃すことなく、得点につなげたランディルが、70-67と3点リードした。

 残りは13秒。ここからブルズは捨て身のファウルゲームを敢行。3つ目、4つ目とファウルを重ね、残り10秒を切ったその時だった。香西がスローインのボールをバックボードにあててしまうという競技人生で初めてという痛恨のミスをし、ボールはブルズに渡った。おそらく3ポイントシュート狙いだったはずのブルズだったが、思わぬチャンス到来に速攻で2ポイントシュートで得点。1点差に迫ったが、残り時間は1.6秒。最後まで諦めることなくファウルゲームをしかけたブルズだったが、残り0.2秒でブライアンがフリースロー1本を決め、71-69。これで終止符が打たれ、ランディルが全勝同士の壮絶な競り合いを制し、開幕5連勝とした。

 この試合の勝因について、香西と藤本はそれぞれこう分析する。

「たとえミスはあっても、それに引きずられることなく40分間、チームがやるべきことをやった結果。だからこそ100点ゲームをするようなチームを60点台に抑えることができたのだと思います」(香西)

「うちのチームの方が、ディフェンスの種類が豊富で、相手がそれにアジャストできなかったことが勝因だったと思います。自分自身も試合をしながら“これが自分たちの強い部分なんだ”という手応えを感じながらプレーしていました。接戦ではありましたが、自分たちにとっていい強度とリズムが常にあって、心地よさを感じながらの試合だったと思います」(藤本)

 これでブルズは5勝1敗となり、唯一の全勝となったランディルが首位に浮上した。今シーズンは9チームでのホーム&ゲームが行われるリーグ戦の前半戦は、残り3試合。全勝で後半戦に入り、今度はアウェイでの戦いとなるブルズとの試合に弾みをつけたいところ。優勝へは、一つも取りこぼすことはできない。

唯一の全勝となったランディルは、リーグ首位に浮上した [写真]=斎藤寿子

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