2021.11.29

東京パラ代表が10人参加した白熱の紅白戦…次世代を担う若手が示したポテンシャル

東京パラリンピックの代表メンバー10人を含む16人が、白熱の紅白戦を行った[写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 11月27、28日の2日間にわたってグリーンアリーナ神戸では「2021神戸女子車いすバスケットボール大会」が行われた。同大会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、未だ女子のクラブチームの練習環境が整っていないため、女子クラブ一決定戦である皇后杯を中止した代わりに行われたイベント。健常プレーヤーを含む35人の女子選手が一堂に会し、3チームに分かれて対戦した。さらに2日目の最後には、今年度の強化指定選手および、ジュニア世代の女子U25の選手による紅白戦が行われた。

東京パラ代表10人が参加した紅白戦

 東京パラリンピックの代表メンバー10人を含む16人が、「TEAM BLACK」と「TEAM WHITE」に分かれて行われた紅白戦。第1クォーターで試合の主導権を握ったのは、TEAM BLACKだった。特にシュートが好調だったのが、東京パラリンピック代表の清水千浪。プレータイム8分間で、3ポイントシュートを含む11得点を挙げた。

 一方のTEAM WHITEは、試合開始1分過ぎに最年少で東京パラリンピックに出場した柳本あまねが速攻からレイアップを決めたものの、その後はTEAM BLACKの強力なプレスディフェンスに苦しみ、6分もの間、追加点を挙げることができなかった。しかし、終盤はディフェンスが機能し、残り2分半で相手のターンオーバーから、柳本がシュートを決めたのを機に流れを引き寄せた。相手には得点を許すことなく追加点を挙げ、10-16と1ケタ差にまで追い上げて、第1クォーターを終えた。

清水千浪の活躍でTEAM BLACKが第1クォーターの主導権を握った [写真]=斎藤寿子

 しかし第2クォーターの序盤、TEAM BLACKは網本、土田真由美、清水、萩野真世、北間優衣という東京パラリンピックの代表メンバーを揃えたスタメンのラインナップが、ハイレベルなプレスディフェンスで再び主導権を握った。

 それでも終盤、TEAM BLACKが網本、萩野、北間をベンチに下げてハーフコートのディフェンスに切り替えると、逆にTEAM WHITEの流れになる。柳本、北田千尋、柳本と、東京大会メンバー2人による3連続得点などで追い上げをはかった。しかし、最後は残り1秒でBLACK TEAMでは唯一のU25メンバーである江口侑里がゴール下のシュートを決めて、34-24と2ケタ差とした。

 続く第3クォーターの前半は、長きに渡ってエースとして女子日本代表をけん引してきた網本麻里が、さすがのプレーを連発。開始早々にレイアップを決めると、1分もたたないうちに今度はミドルシュートで得点。その後も得意のレイバックシュートを決めるなど、前半の5分で9得点を挙げた。さらに終盤には、ノンカウントプレスからの速い攻撃で、土田が立て続けにゴール下のシュートを確実に入れ、55-31とTEAM WHITEを引き離した。

最終クォーターに存在感を発揮した江口侑里 [写真]=斎藤寿子

 最後の第4クォーターは、両チームともに余力をすべて出すかのように、激しい攻防戦が繰り広げられた。なかでも将来性を感じせたのが、終盤に連続得点を決めた江口だった。江口は左手にも障がいがあるため、ワンハンドでのプレーも多い。そんなハンデを克服するべく、練習を重ねてきたのだろう。もともと健常のバスケットボール部だったこともあり、センスは抜群。第4クォーターの終盤には、ミドルシュートを決めたかと思えば、インサイドでは右手だけのワンハンドでパスを受け、振り向きざまの難しいシュートを決めるポストプレーを見せた。

 一方、TEAM WHITEも北田に当たりが戻り、追い上げを図った。しかし第3クォーターで開いた差を縮めることはできず、TEAM BLACKが67-41で勝利した。

代表選手が期待を寄せるジュニア世代

 女子日本代表が3大会ぶりに出場し、6位入賞という結果を残した東京パラリンピック。日本中が注目した熱戦から、2カ月が過ぎた11月19日、車いすバスケ界にとって衝撃的なニュースが飛び込んできた。IPC(国際パラリンピック委員会)が、2024年パリ大会の各競技の出場枠を発表。車いすバスケは、男女ともに8チームと、東京大会の男子12チーム、女子10チームから減少することとなった。今後、開催国を除くわずか7枠の争奪戦が繰り広げられることとなり、パラリンピック出場がさらに厳しい状況となった。

厳しい状況でも前を向く網本麻里 [写真]=斎藤寿子

 それでも網本は「次のパラリンピックは金メダルを目指す、という目標を持ってやれるようにしていきたい」と前を向く。そのためにも、若手の躍進は欠かすことはできない。そうしたなか、この紅白戦には今年度の強化指定選手に混じって、U25から江口、畠山萌、立岡ほたるの3人が参加。それぞれ成長した姿を見せた。

 なかでも、網本、北田ともに絶賛したのが、江口だ。同じTEAM BLACKでプレーした網本は「高さがあるので、パスが出しやすい。ワンハンドなので、パスを受け取る範囲は小さいけれど、ちゃんとこっちが彼女が取れるところにパスを出しさえすれば、自分のシュート距離をわかっているので確実に決めてくれる。一緒にプレーしてみて、すごくやりやすかったです」と高く評価した。

 一方、TEAM WHITEをけん引した北田は、こう語った。

「江口さんには、やられてしまいましたね(笑)。高さはあるし、シュートはうまいし。もちろんまだまだ課題はありますが、将来性としては十分に世界と戦えるポテンシャルを持っているということを示してくれたと思います」

北田が「予想以上に走れる選手」と評価した畠山萌[写真]=斎藤寿子

 また、同じTEAM WHITEとしてプレーした畠山、立岡についても、北田はこう感想を述べた。

「畠山さんは、これまでほとんど接点がなかったのですが、予想以上に走れる選手だなと感じました。ただこの紅白戦では一度もシュートを打たなかったので、クラス4.0の彼女には自分自身がシュートを打つという意識がもっと強くなったらなと。そうしたらチームにとっても畠山さん自身にとっても幅が広がり、もっとおもしろいと感じられると思います。

 ほたるは、以前よりスピードが上がっているなと感じました。紅白戦以外の試合でも、ディフェンスからオフェンスに切り替わったときに、相手選手を1人アウトさせる動きをやってほしいと言ったら、2人もピックをかけて止めてくれて、私がレイアップに行けたっていうこともありました。せっかくそういう高い技術を持っているので、徹底的にやり続けてもらえたら、もっと魅力的なプレーヤーになっていくと思います」

 12月には、東京パラリンピック後、初となる強化合宿が開催される予定で、紅白戦に出場したU25の3人も参加する。今回の紅白戦が、女子日本代表にとって再スタートのいい助走となりそうだ。

12月にはU25の3人も参加する強化合宿が開催される予定だ[写真]=斎藤寿子

写真・文=斎藤寿子

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