2022.05.02

東京パラリンピック後、初陣を迎える車いすバスケットボール男子日本代表の現在地

フレッシュなメンバーでアジアオセアニアチャンピオンシップスに臨む、車いすバスケ男子日本代表[写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 今年11月の世界選手権の予選、アジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)まで1カ月を切った車いすバスケットボール男子日本代表。4月25日から5月2日まで、国内では最後の強化合宿が千葉ポートアリーナで行われ、30日にはコロナ禍では初めて練習の一部がメディアに公開された。川原凜がキャプテンを務める新体制の下でスタートしたチームの今に迫る。

取材・文・写真=斎藤寿子

男子日本代表の新キャプテンに就任した川原凜 [写真]=斎藤寿子

川原凜が見せるキャプテンシー

 銀メダルを獲得した東京パラリンピック後、キャプテンを務めた豊島英や藤澤潔が現役を引退。さらに長い間、日本代表をけん引してきた藤本怜央、香西宏昭はドイツに渡り、ブンデスリーガ1部に所属するRSVランディルでプレーしているため、現在は日本を不在としている。また、古澤拓也が体調不良でアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)を辞退。そのため今大会には、12人のうち半数の6人が東京パラリンピックのメンバーから入れ替わり、フレッシュな顔ぶれで臨む。

 そのチームをけん引するのが、新キャプテンに就任した川原凜だ。京谷和幸ヘッドコーチは任命した理由について「年齢に関係なく、誰とでもコミュニケーションが取れる選手」と語り、彼の人間性を高く評価。川原自身も「若手とベテランをうまく融合させる“つなぎ役”」とし、「パリパラリンピックに向けてチームを完成させたい」と語った。

 実際、川原はキャプテンに就任した最初の合宿では、選手一人ひとりと話す時間を設けるなど、コミュニケーションを大事にしている。今回の合宿でもコートの内外から川原のチームを鼓舞する声が聞こえ、すっかりキャプテンらしい姿があった。

 オフコートリーダーの一人でもある鳥海連志も川原について、こう語る。

「もともと人を楽しませようとするタイプだけれど、キャプテンになってからは少し強い言葉を発するなど締めるところは締めようと、彼なりのキャプテン像を持ってやってくれているのだと思う。チームの雰囲気としても次のステップに進んでいるように感じています」

自身はオフコートリーダーの一人でもある鳥海 [写真]=斎藤寿子

フレッシュなメンバーに秘められた可能性

 東京パラリンピックから続投となった京谷HCは、パリパラリンピックに向けてトランジションバスケを軸とすることは変わらないとしている。現在は「フィジカルや戦術の面で東京パラリンピックまで積み重ねてきたものを再強化する」ことをテーマにチームづくりが進められている。

 そうしたなか、今回のAOCで注目したいのがディフェンスだ。東京パラリンピック後に本格的に取り入れたのが、オールコートのプレスディフェンスとハーフコートのディフェンスの間をとった新しいスタイル。今後の世界選手権やパリパラリンピックに向けての指針ともなるだけに、オーストラリアやイラン、韓国といった強豪国相手をどこまでロースコアに抑えられるかが見どころの一つとなりそうだ。

 一方、オフェンスではパリパラリンピックに向けて、指揮官からは“個の打開力”が求められている。とはいえ、今大会は若手が多く、経験を積ませるという意味合いも大きい。初陣ということもあり、多くは望まないと思われるが、指揮官の胸の内では若いチームだからこその勢いに期待を寄せているはずだ。未知数の部分が多いだけに、可能性が秘められたチームとも言えるからだ。

 前述したように、今大会には藤本、香西、古澤が出場しない。いずれもアウトサイドシュートを武器とし、加えて藤本には高さもある。この3人が不在とする中、オフェンスではいかにスピードとスタミナで相手を圧倒し、速攻やカットインのシーンを増やすなど、オールコートあるいはスペースを使った動きのあるバスケットができるかが、よりカギを握りそうだ。

東京パラリンピックで活躍した秋田啓は副キャプテンを務める [写真]=斎藤寿子

カギを握るハイポインター村上 直広の得点力

 チームの主軸は、川原、鳥海、赤石竜我、秋田啓、村上 直広。なかでも2016年リオパラリンピックに出場して以降、19年まで12人のメンバーだった村上のプレーに注目したい。東京パラリンピックの最終選考に漏れたことについて「ポジティブにとらえた」という村上。京谷HCによれば、村上はこう言ったという。

「悔しいですが、外してくれてありがとうございます。自分でもいろいろと気づくことができました」

 その思いを胸に、村上は「次のステップに向けて、いろいろとチャレンジしてきた」と語る。

「これまでのようにアグレッシブにリングにアタックしながらディフェンスをするということだけでなく、もともと持っている3ポイントもどんどん狙いたいし、そうすることでディフェンスを外に引きよせて味方にチャンスもつくりたいなと。緩急をつけたプレーができるように、スピードもシュート力も強化してきました」

 AOCではハイポインターの中で最も経験値が高い村上が、得点のカギを握ることは間違いない。

ハイポインターの村上 直広は、攻撃面でも期待される[写真]=斎藤寿子


 また新戦力として期待したいのが、クラス2.0の川上祥平だ。最大の武器は、アウトサイドのシュート力。京谷HCも「3ポイントもあり、どこからでも決め切る力がある」と太鼓判を押す。29歳の川上にとって、AOCは日本代表デビューとなる。ようやくつかんだチャンスだけに、アピールしたいところだ。

 日本は、オーストラリア、イラン、韓国とともに4強の一角。もちろん油断は禁物だが、世界選手権の出場枠が5つある今大会は、若手にとっては大きなチャンスでもある。「今大会はいいことも悪いこともあると思うが、すべてチームとして受け止めて、いい収穫になるようにしたい」とキャプテンの川原。フレッシュなメンバーで、どんなバスケットを見せてくれるのか注目したい。

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