2022.05.16

藤本&香西が所属するランディルが先勝でリーグ優勝に王手! ~ブンデスリーガ・プレーオフファイナル~

プレーオフファイナル第1戦に臨んだ藤本(左)と香西(右)[写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 5月15日、ドイツでは車いすバスケットボールのブンデスリーガ(1部)プレーオフファイナル第1戦が行われた。東京パラリンピックで銀メダルを獲得した藤本怜央と香西宏昭が所属するRSVランディルがRSBテューリンギア・ブルズに66-55で快勝。21日に行われる第2戦に勝てば、ランディルにとっては5シーズンぶり、藤本と香西にとっては初のリーグタイトル獲得となる。

勝機を見出した初スタメンのラインナップ

 ランディルの指揮官が、ついに1枚のカードをスタートから切る決断をした。香西と藤本、さらにリオ、東京とパラリンピック連覇のアメリカ代表、ブライアン・ベルの3人が揃った布陣だ。これまで3種類ある主力のラインナップの中では最もプレータイムが少なかった組合せだが、ビッグマン2人を擁するブルズに対しては、少しでも高さのある藤本とブライアンを揃え、さらにディフェンス力のある香西を加えたラインナップを主軸にすることは十分に考えられた。

 そして、そのカードを切ったことがこの試合最大の勝因だったと言える。第1クォーター、チームの狙い通りに最も警戒すべきアレキサンダー・ハロースキー(ドイツ)とヴァヒド・ゴーラマザド(イラン)のビッグマン2人に対し、藤本、ブライアン、香西がマッチアップすることによって、ペイントエリア内への侵入をほぼ完璧に防いだのだ。

 このランディルの強固なディフェンスに大苦戦し、インサイドでのシュートシチュエーションを作れないブルズは。ハロースキーやゴーラマザドが仕方なくアウトサイドからシュートを狙うも、リングから嫌われ続けた。特にハロースキーは本来ならアウトサイドのシュート力も高いプレーヤーだが、ランディルのディフェンスに完全にリズムを狂わされたのだろう。第1クォーターは、ハロースキーもゴーラマザドも、結局無得点に終わった。

 一方、ディフェンスで良いリズムを作ることに成功したランディルは、オフェンスでは藤本がシュートを炸裂。中盤まではフィールドゴール成功率80パーセントを叩き出し、調子の良さをうかがわせた。そして、この藤本の得点をアシストしていたのが、香西だったことも欠かせない。藤本の最初の2本のシュートは、香西からのスキップパスによるもので、日本が生み出したホットラインが流れを引き寄せる一因となっていたのだ。

藤本の得点をアシストするなど、要所で存在感を示した香西 [写真]=斎藤寿子

 第1クォーターを15-10とリードして終えたランディルだったが、第2クォーターの前半は一転、我慢の時間が続いた。序盤にトーマス・ベーメー(ドイツ)のミドルシュートが決まって以降、約3分間、シュートがリングに嫌われ続けたのだ。その間に17-15と2点差に迫られてしまう。

 この嫌な流れを払拭したのが、香西の一本のシュートだった。ディフェンスリバウンドを取った香西は、一度藤本にボールを預けると、すぐに走り出してフロントコートで再びボールを持った。そして、そのままドリブル突破し、ベースライン際の難しい角度からフローターシュートを決めた。この一本でオフェンスのリズムを取り戻したランディル。ブルズのタイムアウト明け後、すぐにベーメーが3ポイントシュートを決めれば、藤本にもこの日最初の3ポイントシュートが生まれるなど、徐々に点差を広げ、31-22で試合を折り返した。

ターンオーバーの数に示されたランディルの守備力

 第3クォーターのスタートも、先発のラインナップで臨んだランディル。香西、藤本、ブライアン、そしてイギリスが2018年世界選手権で優勝したときの主力だったサイモン・ブラウンがそろった最強の守備力を誇るラインナップでリズムをつかむと、相手の追い上げを許すことなく、47-39で最終クォーターへ。

 その第4クォーター、序盤は香西の連続シュートで2ケタ差に広げたが、中盤は再び我慢の時間帯となった。その間に相手エースのハロースキーが3ポイントシュートを決めるなど猛追。しかし後半に入ると、サイモン、ヤニック・ブレア(オーストラリア)とローポインター2人の連続シュートで再び勢いを取り戻した。そして、最後は藤本の独壇場に。ライバルにとどめを刺すかのように残り1分で3ポイントシュートを決めた藤本は、その後もファウルゲームをしかける相手に対し、フリースロー4本すべてを決めてみせた。

ランディルの得点源として躍動した藤本 [写真]=斎藤寿子

 66-55というロースコアの展開は、オフェンス力が武器のブルズにとっては大誤算だっただろう。逆に、ディフェンスがカギを握るランディルにとっては狙い通りのゲームだった。なかでも1週間前、51-75と大差で敗れたユーロチャレンジカップでは20得点を奪われたヴァヒドには、約30分のプレータイムの間、フリースローの1点しか許さなかったことが大きかったと言える。第3クォーターでは、まったくのフリーの状態だったイージーのレイアップさえも落としたヴァヒド。いかにランディルのディフェンスが脅威となっていたかがわかる。

 一方、オフェンスはフィールドゴール成功率がランディルが42パーセントに対して、ブルズも40パーセントとほぼ互角だ。しかし、ターンオーバーの数がランディルが4に対して、ブルズは13。これがスコアの差に表れたのだろう。いずれにしても、ランディルは完全にディフェンスで主導権を握っていた試合だったことがわかる。そして、それが可能だったのは、東京パラリンピックで高さのある相手に対して「ディフェンスで世界に勝つ」を体現した日本人2人の存在が大きかったはずだ。

 ユーロチャンピオンズカップの雪辱を果たしたランディル。しかし、レギュラーシーズンを併せると、今シーズンの対戦成績は2勝2敗。さらに次戦は、ランディルが敵地に乗り込むことになる。

「今度は相手が悔しい気持ちを持って臨んでくるので、僕たちはそれ以上の強度と集中力と精度で臨まなければいけない」と香西。藤本も「あと1週間で、どこまで質と強度を上げていけるかが勝負。良いコンディションで勝ちに行きたい」と意気込んだ。

 今シーズン移籍してきた藤本にとっては初めて、そしてすでに退団が発表されている香西にとっては最後となるプレーオフファイナル。次戦に勝てば、長い間日本代表をけん引してきた二人が、そろって初のリーグタイトル獲得となる。日本の車いすバスケットボールファンも注目している一戦は、23日深夜1時(日本時間)にティップオフだ。

取材・文・写真=斎藤寿子

長い間日本代表をけん引してきた二人は、初のリーグタイトル獲得を目指す [写真]=斎藤寿子

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