2022.05.28

世界選手権出場を決めた車いすバスケ女子日本代表…チーム変貌の第一歩となったAOC

新陣容で臨んだAOCを準優勝で終えた女子日本代表 [写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 5月20日~28日の9日間にわたって、タイ・プーケットでは車いすバスケットボールのアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)が行われた。世界選手権の予選を兼ねて行われた同大会には、女子は日本のほか、オーストラリア、イラン、タイの4カ国が出場。総当たりで2試合ずつを行い、順位が争われた。日本は通算4勝2敗で、優勝したオーストラリアに次いで2位となり、今年11月にUAE・ドバイで開催予定の世界選手権の切符を獲得。岩野博ヘッドコーチが就任して初めての公式戦となった今大会は、果たしてチームに何をもたらしたのか。事実上の一騎打ちとなったオーストラリア戦を振り返る。

勢いに乗り切れなかった大会前半

 地元タイとの第1戦は77-28、続くイランとの第1戦は66-34と、2試合連続で大勝した日本だったが、内容としては決してチームは納得していなかった。いずれの試合も先発出場し、2ケタ得点を挙げた柳本あまねは、こう振り返る。

「タイ戦もイラン戦も、立ち上がりがあまり良くありませんでした。私たちなら、もっとできるはずという感じだったんです」

柳本は「私たちなら、もっとできるはず」と前半を振り返った [写真]=斎藤寿子


 最終的には圧勝だったタイ戦だが、実は第1クォーターで日本が先制ゴールを挙げたのは、開始から1分半が経っていた。それも柳本のフリースローでの2点だったのだ。ようやくフィールドゴールでの先取点を挙げたのは、2分半過ぎ。柳本の3ポイントシュートが決まり、ようやく日本はエンジンがかかった状態となった。翌日のイラン戦も、ダブルスコアに近い大差で破ったものの、第1クォーターで先取点を挙げたのはイランの方だった。日本が得点を決めたのは、それから1分後のことで、やはり試合の入りは良くなかった。

 そんななか、オーストラリアとの第1戦を迎えた。今大会のオーストラリアは、東京パラリンピックからちょうど半数の6人が入れ替わり、平均年齢は3.5歳若返ったメンバー構成で臨んでいた。しかし、クラス4.5の超ビッグマン2人を擁し、そのうちの一人、エースのアンバー・メリット頼りというチームカラーは全く変わってはいなかった。つまり、メリットをいかに抑えられるかがカギを握っていることは、これまでと同様だった。

 実際、東京パラリンピックの初戦でオーストラリアを破った際は、メリットに18得点を許したものの、フィールドゴール成功率を36パーセントにまで抑え込んだことが、最大の勝因となった。

 しかし、わかってはいてもそう簡単に抑えられないのが、メリットというプレーヤーだ。ディフェンスの隙をつく嗅覚、スピードの緩急、あるいはローポインターとのコンビネーションなど、さまざまなテクニックでゴール下のポジションを確保していく。第1戦はそのメリットにインサイドを破られるシーンが前半から多く、そのため第2クォーターを終えた時点で12-27とダブルスコア以上の差をつけられてしまった。

 こうなると、逆転するのは至難の業だ。結局、メリットにフィールドゴール成功率57.1パーセント、40得点を奪われ、63-47で敗れた。オフェンスでも、日本はターンオーバーが20とミスの多さが目立った試合となった。ただし12人中11人がコートに立ち、30分以上のプレータイムは柳本ただ一人だった日本は、勝敗以上に選手の経験値を高めること、練習してきたことを試す意味合いが強かったと言っていいだろう。一方のオーストラリアはベンチメンバーとの実力差に乖離があり、先発5人がほぼフル出場の状態と、今ある力をすべて出し切った感が否めなかった。

日本はオーストラリアのエース、アンバー・メリットを抑える場面があったが… [写真]=斎藤寿子

豪州との第2戦、後半に影響した前半での得点の伸び悩み

 イランとタイとの第2戦は、いずれも今大会の一つのミッションとしていた「12人全員得点」を達成。またイラン戦ではターンオーバー10を数えたが、翌日のタイ戦ではその半分の5にとどめたことも、試合を重ねるたびにチーム力が上がってきていることを示していた。

 そして迎えた今大会最終戦となったオーストラリアとの第2戦、結論から言えば、十分に“勝てた試合”だった。特に出だしは、今大会で最高と言って良かった。先取点こそ、メリットにオフェンスリバウンドから奪われたものの、その後は思うようにはプレーさせてはいなかった。特に、ミスマッチを狙うメリットに対し、日本のローポインター陣がプレッシャーを与え続け、思うようなシュートシチュエーションを作らせていなかったことも大きかった。それが彼女のリズムを崩したのだろう。ふだんなら必ず決めるノーマークでのレイアップシュートも落としたのだ。エースに頼れないオーストラリアは、4分半もの間、得点することができなかった。

 第2クォーターではメリットが孤軍奮闘し、全8得点を挙げたものの、オーストラリアは終盤には日本のプレスディフェンスに身動きが取れずに8秒バイオレーションを繰り返すなど、主導権は完全に日本にあったと言って良かった。

 しかし、日本の得点も伸び悩んだ。確かにオーストラリアのディフェンスも決して簡単に破れるものではなかった。しかし、ディフェンスリバウンドやターンオーバーからの速攻のチャンスにもノーマークでのレイアップシュートを落とす場面が少なくなかった。第1クォーターは11-10、第2クォーターは19-18とリードをキープしていたものの、内容からすれば日本がオーストラリアを引き離してもいい展開だった。

浮上した課題は伸びしろの証

 この前半での得点の伸び悩みが、後半に大きく響いた。第3クォーターの開始早々に、オーストラリアは連続得点で逆転。さらに後半に入ってギアを上げてきたメリットを抑えきれなくなり、連続得点を許した。第4クォーターに入ると、さらに勢いに乗ったメリットは、序盤の3分半で一人で10得点を叩き出し、15点のリードを奪った。終盤、日本もフリースローを含む4連続得点で1ケタ差にまで縮め、一矢報いた。

 しかし、最終的にフィールドゴール成功率を45パーセントにまで引き上げたオーストラリアに対し、日本は29パーセント。敗因は、この一点にあったと言っても過言ではなかっただろう。前半のイージーシュートを入れていれば、おそらく後半の展開は違うものになったはずだ。チーム力や守備力、そして選手層の厚さでは、日本が確実に上回っていただけに、もったいなさが残る試合となった。

 一方で、フィニッシュの精度を除けば、もちろん細かい点で課題はあるものの、総じて良かった印象が強い。岩野新HCも「ほぼプラン通り」と、チームの状態に手応えをうかがわせた。

「最終目標は24年パリなので、それまでに得点力の高いチームを作るための前段階として、今大会ではディフェンスを機能させられたことは大きな収穫。これからオフェンスを中心とした組み立てができるなと手応えを感じています。高さがないからこそ、ノーマークでのシュートは絶対に決めなければなりません。今後は、そういう部分にこだわったチーム作りを進めていきたいと思っています」

 東京パラリンピックから5人のメンバーが入れ替わった中での今大会は、チームに伸びしろを感じさせるものだった。「課題が見えた分、私たちには可能性がある」と網本麻里が言うように、チームにはこの先に希望の光が見えているに違いない。2大会ぶりとなる世界選手権では、さらに成長した姿を見せてくれるはずだ。

北田新キャプテンのもと発進した女子日本代表。課題と手応えを得たAOCが幕を閉じた [写真]=斎藤寿子


取材・文・写真=斎藤寿子

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