2023.01.23

パラ神奈川SCが22大会ぶり4度目Vで新時代の幕開けに…天皇杯MVPには鳥海連志が輝く

1997年以来22大会ぶり4度目の日本一となったパラ神奈川SC[写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 1月20、21日、東京体育館では「天皇杯 第48回日本車いすバスケットボール選手権大会」が行われた。男女あわせて東京2020パラリンピック日本代表11人を含むトップ選手が一堂に集結し、日本一の座をかけた熱戦が繰り広げられた。優勝に輝いたのは、スピード、トランジションの速さを武器とするパラ神奈川SC(関東)。決勝では3カ月前の東日本ブロック第2次予選会で3点差で敗れたNO EXCUSE(東京)を51-44で下し、1997年以来22大会ぶり4度目の日本一となった。MVPには決勝でチーム最多22得点、12リバウンドのダブルダブルを達成したキャプテン鳥海連志(2.5)が選ばれた。

快勝で勝ち上がったパラ神奈川、我慢の時間を凌いだNE

 コロナ禍で中止が続いていた天皇杯が、2019年5月以来3年8カ月ぶりにカムバックを遂げた。特に昨年は大会2日前での中止決定という事態となり、東京2020パラリンピックでの盛り上がりを継承しようと準備を進めてきた関係者にとっては、まさに断腸の思いでの決断だった。さらに無観客だった東京パラリンピックの分も会場での観戦を楽しみにしていたファンにとっても、あまりにも残念な結果となった。

 そんな悔しい出来事から1年。予選を勝ち抜いた7チームに前回覇者の宮城MAX(東北)を加えた国内トップ8によるクラブチーム日本一決定戦は、まさに“国内最高峰の大会”にふさわしい熱戦が繰り広げられた。

 なかでもメンバーの顔触れからすれば、最も恐れられていたのはパラ神奈川だった。10人と少数ながら、東京パラリンピック代表の鳥海と古澤拓也(3.0)、そして彼らとともに主力として17年男子U23世界選手権で4強入りし、現在は24年パリパラリンピックを目指すハイパフォーマンス強化指定選手入りしている丸山弘毅(2.5)という、いずれも20代のミドルポインターで、スピードとシュート力を兼ね備えた3人のプレーヤーが揃っている。

パラ神奈川SCのキャプテンを務める鳥海[写真]=斎藤寿子

 四半世紀の間、日本選手権の決勝に上がっていなかった古豪を、彼ら3人が引き上げたことは間違いなく、特にスピードに関しては他を圧倒している状態だ。そしてオフェンスでは、高さのある鳥海がインサイドでのシュートを強みとする一方、古澤、丸山はアウトサイドシュートが得意。ゴール下に強い西村元樹(4.0)や、ミドルシュートを武器とする土田真由美(4.0)も擁した布陣は、まさにどこからでも得点できる力を備えている。

 そのオフェンス力を上回る形で今大会、威力を発揮したのがディフェンスだった。鳥海が「ディフェンス重視の大会でした。しっかりと引き締めていこう、ということは言い続けていましたし、マインドがディフェンスにしっかりと向いていたことが良かったと思います」と語ったとおり、高い位置からラインを作って下がりながら相手の攻撃時間を削る、あるいはオールコートのプレスディフェンスをしかけるという、スピードを生かした攻めのディフェンスで相手を翻弄。主導権を握り、オフェンスにもいい流れを引き寄せた。

 1回戦は90年代後半から00年代前半にかけて4連覇の実績を持つ古豪のワールドBBC(東海北陸)を74-47、準決勝は同じ関東勢のライバルで、東京パラリンピック代表の赤石竜我(2.5)を擁する埼玉ライオンズ(関東)を61-49と、いずれも2ケタ差での快勝で決勝に駒を進めた。

 一方、NO EXCUSEもまたディフェンス力で逆ヤマを勝ち上がってきていた。こちらは、スイッチの速さやカバー力など、より5人の連携が必要なハーフコートディフェンスを主流としていた。

キャプテンとしてNO EXCUSEをけん引する香西[写真]=斎藤寿子

 しかし、試合の展開的には序盤から主導権を握る強さを見せたパラ神奈川とは全く違った。1回戦のLAKE SHIGA BBC(近畿)戦は、60-39と結果だけを見れば圧勝という印象を持ってしまうが、前半を終えた時点では19-20と1点ビハインドで試合を折り返していた。さらに準決勝、現男子日本代表のキャプテンを務める川原凜(1.5)を擁する千葉ホークス(関東)戦は、第3クォーターを終えて33-34と、やはりリードを許していた。

 ただ、いずれもディフェンスは機能していた。あとは得点力だった。1回戦は前半を終えてのフィールドゴール(FG)成功率は26.5パーセントだったのを、後半20分では51.4パーセントにまで引き上げてLAKE SHIGAがしいた2-1-2のゾーンディフェンスを攻略した。また準決勝では第4クォーターの残り2分を切った終盤、キャプテン香西宏昭(3.5)のシュートシチュエーションを作り出す戦略で6得点を挙げて逃げ切った。

川原(中央)を擁する千葉ホークスとの接戦を制して決勝の舞台へ[写真]=斎藤寿子

NEにTOを量産させたパラ神奈川のディフェンス力

 その2チームが激突した決勝、最初に試合の主導権を握ったのは、香西の3連続得点でリードしたNO EXCUSEだった。しかし、中盤以降にパラ神奈川が同点に追いついて以降、前半は一進一退の攻防が続いた。

 その要因の一つは、パラ神奈川のシュートの確率が上がらなかったことにある。前半、FGのアテンプト数はNO EXCUSEの25本の2倍近い40本だったが、成功率はNO EXCUSEが40パーセントに対し、パラ神奈川は27パーセントにとどまっていた。そんな苦しい状況の中、孤軍奮闘したのが鳥海だ。古澤、丸山の確率が上がるまで凌ぎ切ろうとするかのように、チーム得点(24)の5割以上となる14得点を叩き出していた。

 一方、NO EXCUSEもまた得点に苦しんでいた。FG成功率でパラ神奈川を上回っていたのは、エース香西が70パーセントを誇り、20得点中14得点を一人で量産していたからだった。つまり、両者ともに重視していたディフェンスは機能していたが、オフェンスでは本領を発揮できていなかった。そのため、パラ神奈川リードの24-20というロースコアで試合を折り返した。

 そんな状況を後半に好転させたのが、パラ神奈川だった。まずディフェンスでは、“香西封じ”を徹底。鳥海、古澤といった日本代表候補同士のマッチアップの状況を作り出し、香西をリングから遠ざけ、彼を起点としたセットプレーをさせなかった。さらにオフェンスでは、後半に入って古澤と丸山が徐々に当たりを取り戻した。そのため最終的には鳥海の22得点を筆頭に、丸山が12得点、古澤が10得点と3人が2ケタをマーク。さらに西村も7得点を挙げた。

古澤(左)と香西(右)による日本代表候補同士のマッチアップ[写真]=斎藤寿子

 NO EXCUSEもパラ神奈川のディフェンスに苦戦しながらも、最後まで粘り強く戦い抜いた。なかでも徹底的に厳しくマークされた香西が、後半でも9得点を挙げ、鳥海を上回る両チーム最多の23得点を挙げたのは、さすがのひと言に尽きた。さらに弟4クォーターには、橘貴啓(4.0)が数人に囲まれながらもゴール下からのタフショットを決め切り、フリースローを入れて11得点を挙げた。

 しかし、NO EXCUSEは24とターンオーバーを量産してしまい、攻撃のチャンスを失い、相手にチャンスを与えたことが大きかった。そのため、FGのアテンプト数は76のパラ神奈川に対し、NO EXCUSEは52とシュート本数自体に大差が生まれた。それだけパラ神奈川のディフェンスが効いていた証であり、両チームの明暗を分けた最大の要因はそこにあったに違いない。

51-44で決勝を制し、22得点12リバウンドのダブルダブルを記録した鳥海がMVPに選出された[写真]=斎藤寿子

 今大会で脅威のディフェンス力を示したパラ神奈川は、宮城MAX(東北)の11連覇という偉大な記録を破り、黄金時代を築いていくつもりだ。新時代の幕が上がった日本バスケットボール界。今後、どんな歴史を紡いでいくのか、注目したい。

取材・文・写真=斎藤寿子

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